
苦情クレーム対応アドバイザー・関根眞一さんの著書『カスハラの正体 完全版 となりのクレーマー』から一部抜粋。新紙幣が使えないことを逆手に取り、店員を困らせようとする悪質なカスハラ客への対応事例と、そこから学ぶべき「相手の嘘を見破り、スマートに解決する」ための究極の秘策について紹介します。
新紙幣で払えるか?
レジが新紙幣に対応するまでの間に起こった事件です。新紙幣が流通しだしてひと月ほど、あるパスタのお店では、「レジ交換作業につき、新紙幣は8月7日から使用できます」と入口に大きな張り紙を掲示していました。
5日に来店した50代の男性は、小銭の250円と新紙幣の1万円札をだし、1250円の支払いをしたいと言います。
レジの処理が出来ずに困ったアルバイトは、お客様に説明を繰り返します。客は、今は1万円札しかないのだから、何とか精算しろと迫ります。
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おかしなカスハラです。状況が不利と判断をしたベテラン社員がアルバイトと接客を替わります。
レジ交換の説明をして、それまでの間新札は使えない旨を入口に示したことを「見ていますか」と訊ねますが、男性は「見ていない」と回答。ベテランは「お支払いをしていただかないと困りますので、両替をしてきてください」と迫ると、「そっちの都合で俺が迷惑を被った」と言います。
ベテラン社員は強気です。再度、どこかで両替してきてくださいと迫ります。
「俺が両替して持参し、支払えというのか」「申しわけありませんが、今はそのようにお願いしています」。
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押し問答で2、3分経ってしまい、精算する客が2名並びました。すると、その男性客も若干の焦りが出たようです。ベテランはそこを突きます。
「申し訳ありませんが、後ろの方の精算を先にしてもよろしいですか」
慌てだした客は、手にしているセカンドバッグを開けました、そこには1枚の千円札が見え、それで支払いを終え完了しました。
先に小銭の250円を出し、新札の1万円札を提示し困らせる、これが、今流のカスハラなのです。最初は本当に張り紙を見落としていたのかもしれませんが、途中から、相手が困る様子を楽しむことが目的となっています。
それは、双方にとって「無駄な時間」なのではないでしょうか。
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こうすると相手は動揺する!
偶然、私がその場にいたら、こんな行動をしたと思います。レジ入れ替え表示に、新札は使えない張り紙。
「それは見なかった」と答えたとき、その目を注視して、見たか見ていないのか判定をします。
どちらにしても「そうですか、誠に申し訳ございません。それでしたら、本日のお支払いは結構です、再来店の際に頂戴しますが、会社に報告する手前、ご面倒ですが、お住まいとお名前、電話番号をお聞きしてよろしいですか」と、冷静な対応をします。
本気で持ち合わせがないのだと信じたような対応をすることで、相手の動揺を誘うのです。
もし別札を持っていた場合は、通常、その途端に支払いをする気持ちに変わります。人は、個人情報を知られるとなると、悪意があるときほど弱くなります。
しかし、悪い人は住まいも名前も電話番号も嘘を書く可能性があります。それを防ぐためには、「ご記入ありがとうございます。申しわけございません。今その携帯電話にかけてよろしいでしょうか」と聞くだけでOKです。
嘘を書いていれば、「アッ失礼」と言って書き直すか、間違っているかもしれないと慌てることでしょう。
相手の言葉が正しいという前提で、最善の策を提供し、解決に結びつける。この方針は、新札問題だけではなく、どんな苦情にも対策の1つとして持ち合わせてください。スマートにこなすには、リハーサルは欠かせません。
「疑っているのか」という問いには「まったく疑っておりません」ときっぱり言いながら、「それでは、電話を確認させていただきます」と、携帯を手に取り電話をかけます。そのとき、非通知にしておくこともお忘れなく。
関根眞一(せきね しんいち)プロフィール
百貨店に34年間在職し、全国4店舗のお客様相談室を担当。こじれた苦情・やくざ・クレーマー・詐欺師等特殊な客を専門に1300件以上の苦情に対応した。
(文:関根眞一)