なぜ、ハイチュウで? 実はこのバラ、本物じゃありません。背景に写っているハイチュウ(グレープ味)を素材に再現された“つくりもの”のバラなんです。
製作したのはパティシエで、砂糖菓子アーティストを意味する「SUCRETIER」の長谷川健太(@kenta_sucretier)さんです。なぜ、ハイチュウでバラをつくったのか、ご本人に聞いてみました。
◆ハイチュウでバラをつくった理由
――なぜ、ハイチュウを使ってバラをつくったのでしょう?
長谷川:僕はシュガークラフト(砂糖でできた手工芸品)が専門なのですが、海外ではすでに有名なシュガークラフトも日本では知ってる人が少ないのが現状です。そこで、身近なものを使った作品をXで発表することで、多くの目を引きたいと考えたんです。
――普段はどんな素材で作品をつくっているのでしょうか?
長谷川:いつもは粉糖と卵白に増粘剤を足し、粘土状になったものをメインに使っています。
――ハイチュウを使えば、その工程をスキップしていきなり作品がつくれるということですね! ちなみに、バラをつくるためにどのくらいの時間とどのくらいのハイチュウを要しましたか?
長谷川:ハイチュウは3粒くらいで、製作時間は15分ぐらいでした。
――たった15分! 具体的に、このバラはどうやって完成したのでしょう?
長谷川:ハイチュウは意外と柔らかいので、手の熱で簡単に造形を変えられるんです。なので、まずはハイチュウを手にとり、バラの芯というかつぼみみたいな形をつくります。
ハイチュウがスライムみたいな形になったら、それをつぶして薄くて丸いパーツをつくります。
それを花びらに見立て、順々に巻きつけて何重にもすることで一輪のバラが完成します。
――難しそうですね……。
長谷川:バラの造形自体がわかってしまえば、かなり挑戦しやすいと思いますよ。
――あ、我々でも挑戦しやすいんですか!
◆ハイチュウでつくったバラはどんな味?
――Xにアップされた画像では、バラの横にグレープ味のハイチュウが置いてありました。このバラは、グレープ味のハイチュウのみでつくったのでしょうか?
長谷川:紫の部分はグレープ味で、緑の部分は青りんご味です。
――バラだけにイメージしやすいのは赤……つまりストロベリー味かなと思ったのですが、グレープ味と青りんご味を使った理由は?
長谷川:僕のなかで「ハイチュウは紫が一番強い」という印象があったんです。逆に、僕の勝手なイメージですけど赤はサブっぽかったので……(笑)。単純に、一番人気の色でつくってみました。
――「ハイチュウといえば」という色と味でつくったほうが、フォロワーにアピールしやすいと考えたわけですね。愚問ですが、Xで発表した後にこのバラは食べましたか?
長谷川:はい。
――おいしかったですか?
長谷川:そうですね。まんま、ハイチュウという感じでした(笑)。
◆おそらく日本で一番バラをつくったパティシエ
――長谷川さんの作品をXでたくさん拝見しましたが、バラの作品が多い印象です。バラがお好きなのでしょうか?
長谷川:パティシエの業界では飴細工やチョコ細工、シュガー細工などすべての練習で最初にバラをつくることが多いです。僕らのイメージで、バラは基礎中の基礎なんですね。だから、バラが多いのかもしれません。
――ということは、我々のような素人もバラは挑戦しやすい?
長谷川:そのはずです、最初にやるものなので。
――今まで、長谷川さんはどのくらいのバラをつくってきましたか?
長谷川:何輪つくったのかなあ……。たぶん、日本で一番つくっているんじゃないですかね? パティシエ歴は11年目になるので、そこから鑑みると一万輪とかは全然超しちゃっていると思います。
◆ハイチュウでつくったバラは購入できる
――改めて、長谷川さんの経歴を教えてください。Xのプロフィールに「菓子細工の大会で日本1位をとった」と書いてありますが、これはシュガークラフトの大会ですか?
長谷川:そうです。
――改めて、シュガークラフトとはなんでしょうか?
長谷川:起源は諸説あるんですが、一番有名なのはフランスでナポレオンが始めたと言われている説。ほかにも、イギリスの王室が始めたという説もあります。
大昔のウェディングケーキの主流は3〜4段で、お砂糖とお酒のシロップをガンガン使って腐りにくくしていたんです。で、1段目はケーキ入刀をしたその日に食べる。2段目は、結婚式に出席できなかった人たちに後日配る。そして、3段目はたとえば1年後の結婚記念日に食べる。
――えーっ、1年後!?
長谷川:日をもたせるためにお酒と砂糖をガンガンに入れたケーキをつくって、さらにお砂糖のクリームでコーティングしていたんです。密封状態にすることで腐りにくくし、1年後とかに食べたんですね。それがあるとき、「装飾して豪華に見せよう」という流れが貴族のなかで始まったんです。
――腐らせないプラス、豪華にしようということですね。
長谷川:そうした起源でスタートし、現在ではさまざま部門に分かれて多くの技術が生まれています。今、海外のウェディングケーキとしてつくられるものの多くはシュガークラフトと言われています。
――パティシエとして、長谷川さんは主にシュガークラフトをつくっているのですか?
長谷川:というわけでもないんです。ただ、僕は「社団法人日本シュガーアート協会」の副会長で、シュガークラフトを日本に普及させる役目を担っています。その一環としてシュガークラフトの作品を製作、SNSで広めているという段階ですね。
――それらの作品をつくるとき、意識していることはありますか?
長谷川:どれだけ本物に寄せられるかです。今回でいえば、本物のバラとどれだけ同じようなつくりにできるか。かつて、先輩に教えてもらった方法は完全に菓子細工としてのつくり方でしたが、今は本物のバラを観察・分解をしながらまったく同じように組み上げる……という方法をとっています。
――それは、完成品を見たら納得です。「本物じゃん!」と驚きましたからね(笑)。ちなみに、Xで見た作品を購入することは可能でしょうか?
長谷川:もちろんです!「SUCRETIER(シュクレティエ)」というパティスリーブランドを立ち上げたので、そこから「Xで見たあの作品を欲しい」とオーダーしてください。
――ハイチュウでつくったバラ、買えるんですね(笑)。
◆今までで特にお気に入りのバラは?
――今まで発表してきたなかで、特に長谷川さんがお気に入りの作品を教えてください。
長谷川:最近アップしたのですが、しずくが滴った大きな赤色のバラはかなりお気に入りです。
「本物に近づくほど、ドライフラワーやプリザーブドフラワーでいいと思っちゃう」と言われることも、正直あります。そこで「シュガークラフトだからこそできることを見せたい」と考えた結果、このバラはでき上がりました。お砂糖でつくったバラに溶かした飴を使って、しずくが滴る一瞬を表現しています。シュガークラフトならではの作品をつくれたという意味で、特にお気に入りです。
――リアルでは一瞬でしか遭遇しない偶然の体験を、シュガークラフトでは“そこにあるもの”として再現できるということですね。
長谷川:そうですね、時間を止めた場面をつくれるというか。
――最後に「今後、こんなスイーツをつくってみたい」というアイデアがあれば教えてください。
長谷川:これまでお菓子屋さんで見なかったような「本当に食べられるお花なの!?」と驚かせるスイーツです。さらに、乙女心に刺さる“カワイイ”に特化したものをつくりたいと思っています。たとえば、Xにアップした「プティケーキ」はイメージに近いです。
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本物と見間違えるほどの精巧なバラが、実はハイチュウでつくられていたという衝撃。そこには「身近なものを使ってシュガークラフトを普及したい」という目的がありました。
長谷川さんのXでは、ほかにも「コンビニ菓子だけでつくった“お菓子の街”」「チョコで書いた楽譜」など、たくさんのシュガークラフトがアップされているので必見です!
<取材・文/寺西ジャジューカ>