
長年の会社員生活の傍ら、Aさんには誰にも譲れない大切な趣味がありました。それは幼い頃に憧れたヒーローのフィギュアや、細部までこだわり抜かれた限定版のプラモデルを収集することです。
【写真】部屋のゴミから見つけたのは…まさか10年前に失踪した家族 特殊な現場だらけのゴミ屋敷清掃
書斎の奥に設えたガラスケースには、Aさんが時間と情熱を注いで集めた逸品たちが、静かにその輝きを放っていました。中には世界に数体しか存在しないと言われる希少なフィギュアや、今では入手困難となった初期ロットのプラモデルなど、マニア垂涎の品々も含まれていました。
しかしAさんの妻は、Aさんのこの趣味を全く理解していません。彼女にとって、精巧に作られたそれらのコレクションは「場所を取るだけのガラクタ」であり、部屋を圧迫する邪魔な存在でしかありませんでした。ことあるごとに「あんなもの、いつかまとめて捨ててやるわ」とAさんに告げることもありました。
ある日、Aさんは約1カ月に及ぶ長期の海外出張に出かけます。その後、無事に任務を終えて帰国したAさんは、真っ直ぐに自宅のガラスケースを見に行くと、なんとAさんのコレクションはすべてなくなっていました。
|
|
慌ててリビングに向かい妻に尋ねると「フリマアプリで売却した」と返事が返ってきたのです。何の相談もなく、まるで不用品を処分するかのようにAさんのコレクションが手放されてしまった事実に、Aさんは怒り心頭です。
Aさん夫婦のように、夫が大切にしているコレクションを妻が無断で売却してしまった場合、法的には一体どのように扱われるのでしょうか。まこと法律事務所の北村真一さんに聞きました。
刑事罰を科すことを困難ではあるものの
ー妻は法的に罰せられる可能性はありますか
夫婦間や親子間、同居の親族間での窃盗や横領などの財産犯については、原則として刑が免除されるという「親族相盗例(しんぞくそうとうれい)」という法律の規定があります(刑法244条1項)。したがって、Aさんの妻の行為が窃盗罪や横領罪に該当したとしても、刑事罰を科すことは原則として困難です。
ー夫は妻に対して損害賠償を請求できますか
|
|
刑事罰の対象とならないとはいえ、Aさんの妻の行為が法的に許されるわけではありません。Aさんの妻の行為は、Aさんの所有権を侵害する不法行為(民法709条)に該当すると考えられます。親族相盗例は刑事上の規定であり、民事上の損害賠償責任まで免除するものではないのです。
したがってAさんは妻に対して、無断で売却されたコレクションの価値相当額について損害賠償を請求できる可能性があります。この場合の「価値」とは、フリマアプリでの売却額ではなく、そのコレクションが持つ本来の市場価値や希少性などを考慮して算定されることになります。
ー離婚の原因や、離婚時の慰謝料・財産分与に影響しますか
この件から離婚問題に発展したとすると、以下のような影響を与える可能性があります。Aさんの妻が勝手にAさんのコレクションを売却し、反省のない態度を示していることから「婚姻を継続し難い重大な事由」として認められ、離婚原因のひとつと見られる場合もあります。
離婚に至った場合、Aさんの妻の行為が離婚の原因を作った「有責行為」と認められれば、Aさんは妻に対して慰謝料を請求できる可能性もあります。
|
|
いくら自分にとっては価値がなかったとしても、相手が大事にしているものを勝手に処分すれば、取り返しのつかないことになりかねないため注意しましょう。
◆北村真一(きたむら・しんいち)弁護士 「きたべん」の愛称で大阪府茨木市で知らない人がいないといわれる大人気ローカル弁護士。猫探しからM&Aまで幅広く取り扱う。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)