「実現すれば政府に180兆円」“物価と賃金の好循環”を実現させる秘策とは?【Bizスクエア】

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2025年06月25日 06:51  TBS NEWS DIG

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コメをはじめとする食品価格の記録的な高騰が続く一方で追いつかない賃上げ。いわゆる「賃金と物価の好循環」はどうなるのか?実現させるために必要なこととは?

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食品インフレ加速「少しでも安いモノを」

「本日は味の素のギョーザを特売しています」

神奈川・横浜市にある『スーパーセルシオ』和田町店では、“ゲリラサービス”と称して、予告なしの特売を実施。この日は、冷凍ギョーザが通常価格より76円安い税込323円だ。

また、この日は“平日限定の日替わり特売”も行っていて、10個入りのたまごが
通常価格より86円安い1パック237円で販売されていた。

鶴田英明店長
「大量に仕入れをして通常価格よりも安く販売できるよう努力している。いまはお客さんはどうしても価格を気にして“少しでも安いところを探している”。うちでも最大限努力できるところは努力したい」

物価高騰で消費者が安い商品を求める現状。

買い物客は、物価だけでなく賃金も一緒に上昇する【物価と賃金の好循環】の実感はあるのだろうか?

「実感は特にない。ちょっと買い控えたりはする」(女性客・パート)
「仕事をしてる割には賃金が上がらず下がっているなと主人とも話してたり。モノが軒並み上がってきてる中で『これどうする』っていう…」(女性客・専業主婦)

一方でこんな声もー

男性客(大学生)
「バイトの時給もちょっと上がってる。物価が上がったら俺たちの給料も多分上がるから、物価が上がっても構わない」

コメ高騰の「しわ寄せが他の食品に」

帝国データバンクによる「食品主要195社」の価格改定動向調査では
▼6月の飲食料品値上げ⇒1932品目【前年同月比 約3倍に増加】

止まらない食品価格の高騰だが、要因のひとつはコメだ。

主食であるコメは高くても消費者は購入するが、専門家は「そのしわ寄せが他の商品に及ぶ」と話す。

『ナウキャスト』アナリスト 八並稜祐さん
「嗜好品に回すお金がどんどんなくなってきている。いわゆる嗜好品のチョコレートやスナック菓子の“値上げによる販売の数量減”は著しく顕著に出てきている。直近の分析では2023・24年より25年の値上げは数量減がより大きい。“消費者の価格に対する感応度が上がってきている”」

例えば、容量400gのプレーンヨーグルトを販売する上位3社では、トップシェアのA社の商品が最も高い価格。2025年に入りB社C社がほぼ同時期に値上げを実施しA社との価格差はほぼ無くなったが「販売数量」に大きな変化が。

値上げを機にB社C社は販売数量を20%近くも落とす一方で、A社は逆に販売数量を大きく伸ばしたのだ。

八並さん
「B社C社は安いことが利点で売っていたが値上げのタイミングでA社と同じ値段まで上げてしまうと、常に付加価値をつけて高い値段で売っていたA社が恩恵を受けやすくなる」

「賃上げ」分の価格転嫁は…

一方、賃金を巡る状況はどうなのか?

連合の最新の集計(5日時点)で
▼定期昇給を含む正社員の平均賃上げ率は「5.26%」と【3年連続で高い水準の賃上げ】が続いている。

『ナウキャスト』客員研究員 小池理人さん
「1人当たりの賃金は確かに上がっているが、一方で企業は商品注文のタッチパネルや自動レジを続々と導入しているので仕事を回す人数を減らし総人件費を下げることもできるようになってきた。賃上げ自体は行われているが、それを必ずしも“売り値に乗せなくても経営が維持できる”ようになっている。これが“サービス業での価格転嫁を防いでいる要因”になっているのではないか」

物価高に「新たなファクター」

30年近くもデフレを抜け出せない日本。

その原因を【物価も賃金も上がらない状況を仕方がないと捉える社会通念=ノルム】に求め、「物価と賃金の好循環」の実現を訴えてきたのは、物価の実証研究の第一人者でもある渡辺努さんだ。

では、その「物価と賃金の好循環」はどうなっているのか?

ーーまずは、【物価】について。穀物も原油も上がり、しかも円安で輸入物価が上がっている。だから物価が上がっているというのがこれまでの説明だが、最近は輸入物価が下がっても物価が下がらない。

▼輸入物価指数⇒22年の後半から下落し、5月は前年同月比−10.3%
▼消費者物価指数⇒23年初頭から高止まりが続き、5月は3.5%
(※総務省・日本銀行より)

『東京大学』名誉教授 渡辺努さん
「2023年の初頭が一番インフレ率が高かった。CPI(消費者物価指数)で見ても4%ぐらいまで上がった。当時言われていたのは、いずれ輸入物価は落ちてCPIも下がり2%を切る、あるいは1%となっていくだろうと。しかし実際に輸入物価は落ちたがCPIは未だに3%を越えてむしろ少し加速をしてきている。【輸入物価に支配されないようなファクター】が働いていて、それが今の物価上昇を作っている」

ーーそれは、例えば賃金の上昇が価格に転嫁されていく動きや、みんなが価格が高くなることをより受け入れられるようになっているとか、そういうことか。

渡辺さん
「私達は“インフレ予想の上昇”と言うが、それが22年の後半から始まってきている。生活は苦しいけど【物価の上昇は仕方がないという観念】がようやく出てきて、企業はかつて上げきれなかったコストを上げようとしている。もう一つは【賃上げ】が予想外の動きとして起きたので、23年初頭には予想されなかったような安定的な物価の上昇というのが起きたということだと思う」

賃上げ率「5%でも不十分」

では、【実質賃金が上がらない】原因と解決策はー。

【4月(速報値)の名目賃金と実質賃金】※前年同月比
▼名目賃金⇒2.3%
▼実質賃金⇒−1.8%

名目賃金は上がっている一方で、実質賃金はマイナスが続いている状況に渡辺さんは、春闘で高い賃上げ水準が出ているものの「物価上昇に見合った賃上げになっていない」と指摘する。

【春闘賃上げ率】※連合6月5日時点・第6回回答集計
▼全体:3.58%(23年)⇒5.10%(24年)⇒5.26%(25年)
▼中小組合:3.23%(23年)⇒4.45%(24年)⇒4.70%(25年)

渡辺さん
「連合はこの3年ほど“賃上げ率5%をターゲット”として実現できているが、実はこの5%の背後にある物価上昇率は2%。2%なら賃上げ率5%でもつり合うが、足元の物価上昇率は3%になってしまっているので【賃上げ率5%水準でもまだ不十分】ということ。ここをもう少し工夫する余地がある」

ーー実質賃金が上がらないから物価を下げようと考えるのではなく、名目賃金をもっと上げる必要があると。

渡辺さん
「物価はもちろん上がりすぎているが、私は2%に落ち着くための道筋を上手に辿っていると思う。なので物価についてはあまりタッチする必要はない。むしろ問題は賃金で春闘頑張ってもらうのももちろん大事だが、そこまで間に合わない人もいるだろうし、あるいは春闘の賃上げと関係ない人もいる。そういう人の賃金をしっかりとケアしていくことが政策的には非常に大事」

そして、2026年の春闘では「過去に下がった実質賃金分を取り戻す」ために、より高い賃上げ要求も1つのアイデアだという。

“物価と賃金”好循環「実現すれば180兆円」

また、渡辺さんは「2%の賃金・物価上昇が続けば、政府は“180兆円得をする”」と試算し、それを有効的に使うべきだと話す。

『東京大学』名誉教授 渡辺努さん
「日本は今までは賃金も上がらない、物価も上がらない0%。そこから両方2%に移行するプロセスになるわけだが、仮に完全に移行されたら一つ間違いなく起こるのは“借金をしてる人が得をする”ということ。インフレは借金をしている人に有利。一番借金しているのは政府で【0%から2%のインフレに移行すると180兆円得をする】という試算」

【インフレ税収】=180兆円
※試算の前提
▼政府債務1100兆円(名目)
▼平均残存期間9年
▼金利2%上昇で利払い費2%上昇
▼政府の歳出入2%増加

渡辺さん
「これは3月の経済財政諮問会議でも報告しているが、180兆円も手に入るなら大盤振る舞いしましょうということではなく、2%のインフレ率が定着すればこれだけ財政には利得があるので、財政の観点からしてもやはり2%は定着させるべきだと。今まさに関税絡みで2%の定着が危ぶまれるようになってきている。例えば中小企業は賃上げできないということが起きている。そしたらそこに財政的な手だてをする。その財源を180兆円から取ればいい」

ーー消費税を減税して、見かけの価格を下げるとかそういうことに使うべきではないと

渡辺さん
「消費税減税やガソリンの補助金などは、価格が変わらない社会を作ろうとする努力なので、そうすると2%に向けたモメンタムが生まれているものを殺してしまう。それは生かした上で、生活が苦しい人への支払いに180兆円を使ったら良いのではというアイデア」

(BS-TBS『Bizスクエア』 2025年6月21日放送より)

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