母が38年前に着ていたマタニティウェアを送ってもらった 37歳で想定外の妊娠をしたフリーライターの私。
長年、生理不順で3〜4か月生理が来ないのは珍しくなかったこと、婦人科で不妊治療をしないと妊娠は難しいと言われていたこと、ADHD(注意欠如・多動性障害)の特性でセルフネグレクト癖があり自分の体の管理がおざなりになること、さらに算数障害(発達障害の一種で数字、計算に困難を抱える学習障害)で生理周期を把握していなかったことなどさまざまな要因が重なって、気付いたときにはすでに16週(妊娠5か月)に入っていた。
そこからバタバタと出産準備が始まった。
◆“リサーチ”から始めた出産準備
初めての妊娠でまったく知識がない状態だ。特に妊娠判明してすぐは尿が出にくいのと強い眠気以外の症状がなく、妊娠前と同じ体調のままだったので、今思えばつわりのないとても元気な妊婦だった。
産婦人科を受診して医師に「おめでとうございます」と言われた後、区役所に妊娠届を出したらマタニティライフの始まり。
まずは、出産経験のある友達に連絡をし、ライターの仕事と同じノリでリサーチを始めた。妊娠中にやっておいて良かったこと、マタニティ生活に必要なモノ、出産に向けて必要なモノなどを聞いた。
でも、LINEや電話で聞くだけではまだよく想像できなかったので、去年2人目を産んだ大学時代の友人に16年ぶりに会うことにした。友人は6か月の赤ちゃんをベビーカーに乗せ連れてきて、一緒にららぽーと豊洲のアカチャンホンポへ行き、優先順位の高い育児用品を選んでくれた。
私は何より先にベビーカーが必要だと思っていたのだが、新生児のうちはほとんど外出しないし首が座ってから用意しても大丈夫とのことで、すぐに必要なモノとして抱っこ紐、哺乳瓶、ベビーベッド、ベビー肌着、ベビーハンガー、骨盤ベルト付きショーツを購入した。
その他も、オススメのおしり拭きやベビーソープ、ベビー服専用洗濯洗剤や哺乳瓶消毒用の機器についても教えてくれた。
◆6か月の赤ちゃんが声を出し、笑えるとは……
買い物の後は洋食店にてランチ。そこで友人は赤ちゃんをソファ席に座らせた。とてもおとなしく終始ごきげんでニコニコしており、店員さんが注文を取りに来ると「アー! アー!」と声を発していた。これはおしゃべりしているつもりなのだという。
友人は慣れた手つきで持参した水筒に入っているお湯とキューブ状のミルクを哺乳瓶に入れてミルクを作り、赤ちゃんに飲ませ始めた。最近は離乳食も始めたという。6か月でソファに座れて離乳食も食べられ、言葉が出る前の段階の声まで出せ、笑えるとは知らなかった私は、珍しい生き物を見るように友人の赤ちゃんを観察した。
マタニティ情報について検索しているうちにマタニティアプリにたどり着き、「たまひよ」と「トツキトオカ」、「mamari」のアプリをダウンロードした。「たまひよ」と「トツキトオカ」は出産予定日を入力すると、現在の週数と赤ちゃんの成長、ママの体の変化などが表示されるものだ。毎日体調や赤ちゃんの様子などのアドバイスが表示されるので、開くのが楽しみになった。
書店でマタニティ・育児雑誌の「たまひよ」も購入した。妊娠中のストレッチ方法、ベビー用品の口コミ、子どもの名付けに関することなど、たくさんの情報が詰まっていた。
産婦人科からもらったパンフレットに始まり、友人からのアドバイス、アプリや雑誌など、情報が多すぎる上、AではこうなのにBではこう、というケースもあって整理できず、軽く混乱し始めた。
◆ADHDの特性が働き、妊娠のことで頭がいっぱいに
膨大な情報に触れると頭がパンクしそうになるADHDの特性が働き、四六時中マタニティライフのことを考えていた。SNSも妊娠関連の投稿ばかりになり、発達障害の友人から「私たちのような特性を持っている人は特に、妊娠したくてもいろんな事情で産めない人も多いから、あまり妊娠のことばかり投稿しない方がいいよ」と注意されたほどだった。
そんなことを言われても、実際私の体に起こっている、これから起こるであろう疑問をどう解決すればいいのかわからないのだ。
例えば、精神科の女性主治医は妊娠した際、産院で「妊娠中の体重増加は5kgまで(赤ちゃん3kg、羊水1kg、妊娠中に蓄える脂肪1kg)」と言われたそうだが、私は産婦人科の先生から体重は10kgまで増えても大丈夫と言われていた。
どっちが正しいの?
妊娠中の食事も、産婦人科からもらったパンフレットには「昆布はヨウ素を含むためNG」とあるが、アプリでは摂取してもいいことになっている。また、「マグロのような大型の魚は水銀が含まれており妊娠していなければ排出されるが、妊娠中は赤ちゃんに水銀が溜まってしまうためNG」とパンフレットやアプリに書かれているが、友人は妊娠中、上の子がASD(発達障害の一種の自閉スペクトラム症。
こだわりが強い特性や味覚過敏がある人もいる)由来の偏食で食べられるものが限られており週1回回転寿司に行くため、上の子に合わせてマグロを含む生モノを食べていたが、生まれてきた子どもに何も影響はなかったという。
正解はどれ??
悩んで調べに調べた末、産院によって体調管理が異なることがわかったので、私の場合、産婦人科の先生の言うとおり体重増加は10kgまでとした。そして食事は危なそうなものは避けたく生モノと昆布のみ禁止にすることにした。
◆服が入らない!マタニティウェアはどこに売っている?
18週に入る頃には服もウエストが苦しくなった。マタニティウェアはいつから着るものなのだろうか? と思いChat GPTに尋ねると16週あたりから着る人もいるということでマタニティウェアの購入を決めた。
しかし、どこに売っているのかわからない。パジャマのボタンがはち切れそうだったので、取り急ぎメルカリでマタニティパジャマを買った。母親にも相談すると、なんと38年前に私を身ごもっていたときに着ていたマタニティウェアを保管しているとのことで、すぐに送ってくれた。
サイズもぴったりで古着感もほとんどない。SNSで情報を探していると、マタニティ用品もベビー用品もすべて西松屋でお手軽価格でそろうと知り、さっそく西松屋でマタニティウェアを購入した。西松屋なんて妊娠しないと縁のない店だ。
◆夫を頼りにモノを手放していった
さて、ベビー用品を買い始めて気づいたのはどんどんモノが増えること。それにこのままだとベビーベッドを置くスペースもない。ADHDの特性でどれも重要そうに見え、どれから手をつけていいのか分からないため、部屋はどんどんベビー用品の段ボールで溢れていった。
開封するとかえって散らかってしまうと思い、とりあえず段ボールを私の仕事部屋に保管すると、8畳の部屋の半分が未開封の段ボールで埋まってしまった。
「まずはモノを減らそう」という夫の言葉で、服の整理から手をつけた。モノの中で服が一番多い。隣に夫がつき、「この服はもう着ないでしょ?」と言われたものをガンガン仕分けしていき、売れそうなブランドの服はメルカリに出し、それ以外の1年以上着ていない服はゴミ袋に入れていった。服が少なくなるだけでクローゼットや衣装ケースに余裕ができてスッキリした。
靴も妊娠中や赤ちゃんを抱っこしているとヒールが履けないので処分。お腹が大きくなるとしゃがめず靴紐が結べなくなったのと数回しか履いていない安物だったため靴箱の奥に眠っていたスニーカーを処分した。
次に多いモノが本だ。仕事柄、本は無限に増える。本が好きなので手放すのは勇気がいったが、もう二度と読まないであろう本を60冊ほど選び、古本屋に売った。
部屋で存在感を放っているモノの一つが2基のキャットタワー。これも1基は猫があまり使ってくれないので処分することにした。
こうやってさまざまな部分に夫からメスが入り、部屋からモノが減っていった。私のモノだけでなく、夫も自分のモノを減らしてくれた。
◆さらに模様替えも。算数LDの影響で苦手だが…
しかし、ただモノを減らすだけではなく模様替えも必要だ。モノは減ったもののこのままの状態ではベビーベッドを置けない。しかし、私は算数LDにより空間認知能力が低くどこに何を置けばいいのかすぐには判断できない。
発達障害の検査では「視覚情報が少なく、全体ではなく一点にのみ集中しがちでモノの距離感がつかみにくい」といった結果が出ていた。確かに足元にいる猫をすぐに踏むし、子どもの頃は数学ではなかなか立方体が描けなかったりパズルが苦手だったりした。
ここも夫の出番。ベビーベッドは寝室に置きたい。しかし寝室には猫のケージが2つあってスペースがない。そこで、ダイニングに置いていたキャットタワーを私の仕事部屋に移動、同じくダイニングに置いていたミネラルウォーターのペットボトルの箱を夫の部屋に移動、そうするとダイニングにスペースができるので、そこに寝室に置いていた猫のケージを移動させる。寝室にベビーベッドを置けるスペースが誕生! という提案をしてくれた。
妊娠中で重いものを運べないため、移動も全部夫がやってくれた。模様替え直後は自分たちの居場所の位置が変わったことに戸惑っていた猫たちだが、慣れるとスペースができて広くなったのが嬉しいのか、走り回っていた。
◆組み立てられたベビーベッドを見てしみじみ
モノを減らして模様替えをするだけでこんなに部屋が広くなるのかと感動。やはり整理・整頓は大事だ。発達障害特性で自分ではなかなかここまでできないため、私には人の助けが必要なのだと改めて実感した。
後日、寝室に生まれたスペースに夫がベビーベッドを組み立ててくれた。実際にベビーベッドを見ると、ここに今お腹にいる我が子が眠るのか……とさらに現実味が増してきた。毎日目に見えてお腹が大きくなり、胎動も激しく安眠できない。
ここ最近はお腹が波打つようになり、目に見えて赤ちゃんの動きがわかるようになった。昔、上野の博物館に「人体の不思議展」を見に行ったことがあるが、そこにこのお腹の動画を展示したいほどだ。
あと1週間で妊娠後期に入る。しかし、先日の健診の糖負荷試験に引っかかり再検査になってしまい、現在食事管理中だ。自分のためだけのダイエットだとすぐ心折れそうだが、今の私の体は子どもの体でもあるため、おやつがほしくなったらナッツかチーズ、冷凍バナナといった工夫をしている。2人分の体を大事に、出産まで万全な体調にしたい。
<文/姫野桂>
【姫野桂】
フリーライター。1987年生まれ。著書に『発達障害グレーゾーン』、『私たちは生きづらさを抱えている』、『「生きづらさ」解消ライフハック』がある。Twitter:@himeno_kei