コメ卸大手の営業利益“前年比500%”は暴利か?「コメ担当大臣」小泉農相の国会発言で注目される米価高騰の裏側

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2025年06月26日 09:30  日刊SPA!

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 価格高騰でコメ卸に厳しい目が向けられています。小泉進次郎農水相が、コメ卸大手の営業利益が前年比500%というのは異常だと国会で答弁したことが話題となったのは記憶に新しいところ。一部の企業が暴利をむさぼっているように見えますが、問題なのは流通における業界構造のほうでしょう。小泉農相がここを壊せるかが、今後のポイントとなると思います。
◆ビジネスの基本を忠実に守った「木徳神糧」

 小泉農相の発言は、コメ卸の上場企業である「木徳神糧」を念頭に置いたものでしょう。同社は2025年1-3月の米穀事業の営業利益が前年同期間比でおよそ5倍になりました。

 木徳神糧は6月11日、小泉農相の発言に反論するかのような異例の声明を発表しています。「弊社が市場価格を釣り上げたり、買い占めや出し惜しみによって流通を阻害したりといった事実は⼀切ない」と明言しました。木徳神糧のシェアは4%程度であり、米穀市場を左右するほどの力はないといいます。

 これはその通りで、木徳神糧の大幅な増益は「安く仕入れて高く売る」というビジネスの基本を忠実に守ったに過ぎないといえるでしょう。

 農協などの出荷業者と卸売業者との間で取引されるコメの相対取引価格は、政府が備蓄米の放出を決定したために2025年3月に下落しており、価格はおよそ前月比で2%下がりました。

◆「営業利益5倍」でも粗利率は業界水準に届かず

 一方、スーパーのコメの平均価格は2月初旬に5キロ3700円ほどだったものが、3月は4000円を超えるまでに上がっています。この間の上昇率は10%を超えているのです。

 卸売業者にとっては価格転嫁がしやすい状況でした。需要が高まった商品を然るべき価格転嫁をして販売したに過ぎないというわけです。

 また、木徳神糧の営業利益が5倍に増加したといっても、粗利率は6.3%から9.2%に上がったに過ぎません。経済産業省の調査による卸売業の粗利率は平均で11.8%(「商工業実態基本調査」)。大幅な増益を達成しても粗利率はまだ業界平均には届いていないわけで、決して暴利をむさぼっているとはいえないでしょう。

◆全国1822社のコメ卸業者の6割が中小零細企業

 コメの流通過程において、問題視すべきなのは複雑な流通過程。「ドン・キホーテ」を運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスは、小泉農相宛にコメ流通の問題点を指摘する意見書を提出しました。5次問屋まで存在する多重構造によって、中間コストが膨らんでいると指摘したのです。

 帝国データバンクによると、コメ卸業者は全国に1822社(「米卸業者の動向調査」)。従業員ナシ、もしくは従業員が5人未満の事業者が6割を占めています。中小零細企業が大部分を占めているのです。

 コメ卸は精米をして販売するという事業形態であり、他社との差別化を図りづらい業種。コメ価格が高騰する前の木徳神糧の営業利益率は1%台、もしくはそれを下回る水準で長らく推移していました。利益率が低いのは付加価値を生み出すことが難しいビジネスだからです。

◆薄利にも関わらず再編が進まず非効率のまま

 それでも2000近い事業者が存在しているのは、不動産業などの副業を行っているケースが大部分を占めているため。事業の多角化は大手も同様で、木徳神糧はコメ卸の他に鶏卵事業などを展開しています。業界トップの神明ホールディングスも米穀事業は売上全体の3割程度であり、青果事業が成長をけん引しています。

 従って、企業の規模を問わずに薄利であってもコメ卸業を継続できる下地が整っているのです。

 小泉農相はかつて「農林水産業骨太方針策定プロジェクトチーム」の委員長を務めており、コメの複雑な流通プロセスを問題視していました。コメをシンプルな流通形態にすることで、生産者や消費者に流通コスト分を還元できるのではないかと考えていたのです。

 当時の資料(「生産者に有利な流通・加工構造の確立に向けて」)によると、業界再編が進んだ小麦粉製造業や糖類製造業は粗利率が20%を超えている一方、コメ卸業者は10%を下回っていると指摘しています。

◆それでも石破内閣の支持率は上昇…

 コメ価格の高騰は、自民党にとっては追い風になりました。小泉農相が卸業者を経由せずに備蓄米を放出したことで、スーパーの価格は5キロ2000円台まで大幅に下がったからです。

 コメ価格の抑制に成功する前の自民党は、インフレによる生活費負担の重さを問題視する野党から、消費減税を迫られていました。しかし、責任政党としてそれを跳ねのける姿勢を示すと、国民からも批判の声が上がっていました。そうした中で小泉農相がコメ価格を力技で抑え込んだのです。NHKによる世論調査では、6月の石破内閣の支持率は5月の調査から6ポイント上昇しました。

 足元では、国民の目がコメの流通に向いたタイミングでもあり、改革がしやすい土壌が整ったようにも見えます。生産者や農協が自ら販路を開拓して流通を合理化し、生産者と消費者にとって有利かつ安定的な取引が継続できるプロセスの確立が求められるのではないでしょうか。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界

このニュースに関するつぶやき

  • 小泉の発言は有権者を操作する意図が強いから要注意。会社の業績を観る場合は、売上、営業利益、経常利益、純利益の最低でも4項の推移を観る。
    • イイネ!1
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