2025年5月29日〜6月1日に開催されたポケモンGOの大型イベント「Pokemon GO Fest 2025:大阪」に続き、6月28日〜29日には「Pokemon GO Fest 2025:グローバル」も開催される。こうしたリアルイベントを楽しみにしているユーザーは多いだろう。
ポケモンGOは、2025年5月29日に米国のゲーム会社、スコープリーに買収されたばかりだが、こうした大型イベントは今後も継続していくのか。大阪での反響やグローバルイベントの展望も含めて、NianticのAPACライブイベントマネージャーの三宅那月氏と、シニアプロダクトマーケティングマネージャーの豊田隆久氏に話を聞いた。
●2025年の大阪イベントは、過去のGO Festで最も円滑に運営できた
―― Pokemon GO Fest 2025:大阪のイベントが終了して一段落した頃かと思いますが、まずは大阪イベントの総括からお聞かせいただけますでしょうか。
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三宅氏 現在は総括を始めている段階です。イベント終了後に参加者の皆さまへアンケートをお送りしており、その回答をもとにイベントのご感想や、インバウンドによる地域への経済効果などを集計しているところです。こちらの結果が出るまでにはもう少し時間がかかりますが、回答をお待ちしている状況です。
―― 現時点でお話しできる範囲で、大阪イベントはいかがでしたか?
三宅氏 全体として、過去の「GO Fest」の中でもスムーズに運営できたイベントだと考えています。
通信環境については、毎回最大限の準備をしていますが、これまでは一部でつながりにくいといったご意見をいただくこともありました。しかし今回は、そういったお声も比較的少なく、過去のイベントに比べて大きなキャパシティーで、より快適な環境を提供できたのではないかと考えています。これも通信キャリア各社様のご協力のたまものです。
また、現実世界での装飾物にも工夫を凝らしました。これまでは装飾物を個別に配置していましたが、今回は各エリアの世界観を表現する大きなオブジェの中に、他の装飾物を一体化させるような形で展開しました。
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例えば「カーニバル広場」では、サーカスのようなオブジェの中央にピカチュウを配置し、チームリーダーのパネルなども一体でデザインしました。これまでは別々に設置していたものをまとめることで、そのエリア全体で世界観をより強く体感していただけるようにしたのです。こうした空間デザインは、今年(2025年)特に力を入れた点です。
―― 確かに、会場では一体感のある装飾の前で写真を撮る方が非常に多く、例年以上に盛り上がっていたように感じました。
三宅氏 ありがとうございます。そういったクリエイティブ面での取り組みは、来年(2026年)以降も継続していきたいと考えています。
また、SNS上では、ご持参されたぬいぐるみと一緒に写真を撮って投稿される方が非常に多くいらっしゃいました。これもうれしい驚きでした。今後は、そうしたファンの皆さまの楽しみ方にも、より配慮できるようなフォトスポットの設計を心掛けていきたいです。
一方で、フォトスポットでの撮影待機列については、今回は参加者の皆さまのマナーに助けられた部分が大きかったです。フェンスなどがない場所でも自然に列ができており、非常にスムーズでした。しかし、それに甘えるのではなく、来年以降はより快適で安全に楽しめるよう、列整理などを行うスタッフ配置も検討していきたいと考えています。
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―― 会場が広いため、スタッフの方々が人の流れを止めないように的確に誘導されていたのが印象的でした。
三宅氏 はい。特に人が密集しやすく、通信環境に影響が出そうな場所や、安全上注意が必要な場所では、積極的に誘導を行うよう心掛けました。もちろん、休憩できるスペースも確保しつつ、安全で快適なプレイ環境の維持に努めました。
―― これまでのイベントと比べて、スタッフの数も増やしたのでしょうか。
三宅氏 はい、かなり増やしました。イベントの規模に応じて、スタッフの数は年々潤沢になるよう努めています。また、スタッフにはアルバイトの方も含め、ある程度「ポケモンGO」になじみのある方を採用し、事前トレーニングをしっかり行うことで、サービスの質を高めています。
●2026年のGO Festは楽天モバイルのネットワーク対策も行いたい
―― 通信環境について、今回は「レイドで弾かれる」といった不具合の報告が少なかったように思います。過去最大級の対策をされたのでしょうか。
三宅氏 昨年も同規模の対策を行っており、熱意としては例年と変わりません。ただ、今回は会場面積が過去最大級だったため、必然的に設置いただいた移動基地局車の台数なども増えたと考えています。
―― 通信に関する問い合わせは少なかったですか?
三宅氏 全体としては少なかったです。ただ、来年以降の対策として検討しているのが、楽天モバイルさんへの対応です。
これまではユーザー数やお問い合わせの頻度から、他の3キャリア様ほど対策の力点を置いていなかったのが実情です。しかし、今回、数えるほどではありますが、楽天モバイルユーザーの方からお問い合わせをいただきました。チケットをご購入いただいた皆さまには、100%快適な通信環境をご提供することがわれわれの務めです。来年のGO Fest以降は、楽天モバイルさんとも連携し、より良い環境を構築できるよう、社内でも合意が取れています。
―― それはユーザーにとって朗報ですね。
三宅氏 もちろん、楽天モバイルさんが保有する機材(アセット)の状況にもよるため、今後協議を進めていく形になります。
―― そもそも、移動基地局車の配備方針はどのように決めているのでしょうか。
三宅氏 まず、イベント開催が決定した段階で弊社から各キャリア様にご連絡します。そして会場候補地を実際に歩いて通信測定を行い、そのデータを基に理想的な基地局の配置案を提案し、各社様と協議を重ねて最終的な配置を決定します。
会場のどこに人が集まりそうか、どこで通信が不安定になりそうかを予測し、ブースや装飾物の配置もそれに合わせて調整します。通信環境の整備は、イベントの成否を分ける最も重要な要素の1つと捉えています。
―― かなり本格的に通信対策をされているのですね。
三宅氏 はい。弊社は通信会社ではありませんが、キャリアの方と対等の知識を持った通信担当者がおり、本格的な議論をさせていただいています。キャリアの方と対等に話ができないと、イベントが成り立つ通信環境を整備できません。
―― スコープリーの方々もGO Festに参加されていたようですが、どのような感想が挙がりましたか?
三宅氏 今回、初めて参加してもらいましたが、とても興奮していました。オンサイトでゲームを楽しみながらも、人との交流を楽しんでいることに感激していたようです。家の中にいても完結するゲームはたくさんありますが、ポケモンGOの良いところの1つとして、出会った方々がその場で友達になれること。そういう様子を見られたことがうれしかったそうです。
●GO Tourやワイルドエリアは、少なくとも2026年までは開催する
―― 「GO Tour」や「ワイルドエリア」といった他のリアルイベントについてもお聞かせください。これらのイベントは今後も継続されるのでしょうか。
三宅氏 はい。買収などもありご心配をおかけしたかもしれませんが、これまで続けてきたイベントは、少なくとも来年(2026年)までは同様の形で継続していく予定です。
―― それぞれのイベントの位置付けについて教えてください。
三宅氏 GO Tourは、原作ゲームの特定の地方を切り取って、その世界観を再現するイベントです。一方、ワイルドエリアは、「ポケットモンスター ソード・シールド」に登場する同名(ワイルドエリア)の世界観をテーマにしています。
そしてGO Festは、年に一度の最大のお祭りで、特定の原作テーマに縛られず、その年の目玉となる幻のポケモンを主軸に、4つの異なる生息地を設けて、多様なポケモンとの出会いを楽しんでいただくイベント、という位置付けです。
―― イベントの開催国はどのように選定しているのですか?
三宅氏 GO Festに関しては、アジア太平洋(APAC)、米国、EMEA(欧州・中東・アフリカ)の3つの地域から、それぞれ1都市ずつ選んで開催する形を継続しています。GO Tourは、今年はラスベガス(米国)と、久しぶりにAPAC地域でも開催しました。ワイルドエリアは、昨年はGO Festに参加できなかった方々にもリアルイベントの体験をお届けしたいという思いから、下半期に日本(福岡)で開催しました。
●イベント開催地域と連動した取り組みも積極的に行う
―― GO Festでは万博記念公園だけでなく、吹田市内の商店街などとも連携した施策が印象的でした。
豊田氏 はい。私が主に吹田市内の施策を担当しました。イベント会場でのプレイ前後に、街中でもポケモンGOを楽しんでいただけるよう、吹田市様と協力し、商店街にフラグを掲出したり、江坂公園にフォトスポット「ポケジェニック」を設置したりしました。
江坂公園は、イベント会場の万博記念公園から少し離れていますが、3時間ほどかけて回る「GOスナップショット」のスタンプラリーも実施し、多くの方に訪れていただけました。地元の飲食店の方からも「スタンプラリーで来たお客さんが立ち寄ってくれた」という声をいただき、うれしく思っています。
こういった会場外での施策は、来場されたトレーナーの皆さまにその土地の魅力を知っていただきながら、より深くポケモンGOの世界に没入してもらうための重要な取り組みです。人々を外に連れ出し、世界を探索してもらうという弊社のミッションを体現するものであり、今後もイベントの特性に合わせて積極的に行っていきたいと考えています。
―― ワイルドエリアやGO Tourなど、海外で開催されるイベントにおいても、大阪の商店街連携のような地域振興施策は行われているのでしょうか。
豊田氏 はい。リアルイベントを開催する以上、会場内だけでなく、その周辺エリアも含めてトレーナーの皆さまに楽しんでいただきたいという思いがあります。
私自身、昨年Nianticに入社し、初めて参加したのが仙台のGO Festでした。そのとき、仙台駅がトレーナーで埋め尽くされている光景を目の当たりにし、これだけの熱量を持った人々を特定の場所に集めることができるポケモンGOというコンテンツのすごさを改めて実感しました。
せっかくその土地を訪れていただいたのですから、その地域の魅力を存分に味わっていただきたい。そのために、会場の外でも楽しめる施策を企画しています。イベントの特性や開催地の状況に応じて、今後も積極的に地域と連携した取り組みを行っていきたいと考えています。
●今後もリアルイベントは継続 GO Festグローバルの位置付けは?
―― 今後のリアルイベントについてですが、スコープリーによる買収が完了した後も、イベントの開催方針は変わらないと考えてよいでしょうか。
三宅氏 はい、大丈夫です。先ほど豊田からも申し上げましたが、人々を外に連れ出し、世界を探索し、交流してもらうというのが弊社のミッションです。リアルイベントは、そのミッションを体現する非常に重要な機会だと位置付けていますので、これをなくすという話は今後もありません。
―― 安心しました。6月末に開催されるグローバルイベントについてお伺いします。出現するポケモンは、大阪のイベントとは一部異なるようですね。
三宅氏 はい。リアルイベントとグローバルイベントでは、もちろん共通して登場するポケモンもいますが、両方に参加される方もいらっしゃいますので、少しずつ内容を変えながら展開しています。これは、リアルイベントの中でもAPAC、EMEA、米国の各都市で少しずつ内容が異なるのと同じ考え方です。
―― グローバルイベントとリアルイベントのすみ分けについては、どのようにお考えですか?
三宅氏 リアルイベントは、どうしても開催地に物理的に来られる方しか参加できないという制約があります。一方でグローバルイベントは、そうした地理的な制約なく、より多くの方々にイベントを楽しんでいただくための「門戸の広い」機会と位置付けています。これが最も大きな違いであり、私たちがグローバルイベントを開催する目的でもあります。
―― ということは、グローバルイベントでは参加人数の上限もないわけですね。
三宅氏 はい、今のところはありません。ただ、もちろん天候や災害、あるいは大規模な通信障害など、トレーナーの皆さまの安全に関わる事態が発生した際には、ゲーム内でのアナウンスや、場合によってはゲームプレイの一時中断といった対応も準備しています。安全性を最優先しつつ、誰もが楽しめるイベントを目指しています。
―― 通信環境に関して、グローバルイベントは特定の場所に限定されないため、リアルイベントとはまた違った難しさがあるのではないでしょうか。
三宅氏 おっしゃる通りです。全世界の通信状況をリアルタイムで把握することは非常に困難です。そのため、公に発表されているニュースや、各国の政府機関が発表する障害情報などを注視し、SNSだけでなくアプリ内でメッセージを出すこともあります。
―― アプリ内で特定地域のユーザーにメッセージを出すこともできるんですか?
三宅氏 はい。例えば2023年に大阪で開催したGO Festでは、(真夏で)日差しが強かったので、アプリ内で「水分補給をしましょう」というメッセージを出しました。これを他の地域で出しても意味がないので、大阪会場にいらっしゃる方にターゲットを絞って出させていただきました。
●取材を終えて:イベント継続は朗報、楽天モバイルユーザーも救われるか
スコープリーからの買収後も、Nianticは積極的にイベントを展開する意向があることが改めて分かった。ポケモンGOは、外で遊ぶきっかけになることだけでなく、トレーナー同士の交流が図れることが醍醐味(だいごみ)のゲーム。GOツアーやワイルドエリアも継続されるようなので、今後もさまざまな仕掛けを期待したい。
そのイベントの成否の鍵を握っているのが、通信対策だ。リアルイベントでの通信対策も年々バージョンアップしており、キャリア並みにネットワークの知見を持つスタッフを抱えていることからも、その本気度がうかがえる。そして、これまで対策されてこなかった楽天モバイルのネットワークもGO Festで対策する方針を決めたことも朗報だ。今後も、より多くのプレイヤーが快適なネットワークでポケモンGOを楽しめる環境を整備してほしい。
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