
「90代の家主が倒れていて救急搬送、そのまま入院。
猫を飼っていたはず!残されているのでは…と
近隣の方から心配の連絡があった。保護してもらえないか?」
福祉関係の行政から、こんな保護依頼の連絡が、飛騨地方を中心に保護猫・犬活動などに取り組むNPO法人「もふっこひだ」さん(@mofukko_hida)のところに入りました。猫の名前は、チコちゃん。既に飼い主さんが緊急搬送されてから1週間以上経っているとのこと。すぐに「もふっこひだ」さんは福祉施設の職員の方と合流、現場の住宅でチコちゃんの捜索を開始したといいます。
飼い主が緊急搬送されてから1週間以上経っていたが、浴室から鳴き声…なぜそんなところに?
「最初は物音ひとつしませんでしたが、猫が反応する方法で捜索していると、どこからか猫の鳴き声がかすかに聞こえてきて。すると扉が閉まったお風呂場から聞こえてきたことが分かりました。チコちゃんは、お風呂場の洗い場に敷いてあったすのこの隙間から下に入り、さらに浴槽裏側の隙間に入っていたんです。その上のものを退かし、上がりやすいようにしましたが、簡単には動けなくて…というのも浴槽は北側の古いコンクリート造り。数日前には0度にまで気温が下がり、ご飯も水もない冷たい空間に居続けたため、飢餓や脱水、貧血などが重なり動けなくなっていたものと思われます」
実は、飼い主さんの後見人が一度チコちゃんを探したものの、見つけられなかったとか。お風呂場を物置として使っていたようで、外に逃げてしまったと思ったのか、いないものと思って浴室の扉をしっかり閉めてしまったそうです。
|
|
「救急搬送の騒ぎでチコちゃんはおびえ切って、お風呂場に入り込んでしまったのかもしれませんが…扉を閉めてしまったことで出られなかったと考えています。捜索初日は動けないため、すのこの下にご飯を落とし、とにかく命つないでもらうこととを優先。翌朝、すのこ上に捕獲器を設置し、少しご飯を食べて動けるようになっていたら自力で入ってもらえるよう祈っていました。怖がらせないためいったんその場を離れ、外から様子をうかがっていると、ほどなく捕獲器に入った気配。すぐに行ってみると、自力で上がって入ってくれていました」
捜索2日目で猫を無事保護 血尿が…原因は長期間のストレス?
捜索2日目にチコちゃんを無事に保護し、「もふっこひだ」さんのシェルターへ。まずは体力が戻るように、温めたウエットフードを食べさせることから始めました。
「長期間飢餓状態だったため、胃腸が動き出すまで配慮が必要でした。長期間のストレスが原因と思われる血尿も。室内飼育だったはずですが、便に寄生虫も見られたため駆虫の必要もありました。またおばあちゃんと1匹の生活が長かったため、たくさんの猫がいる環境に慣れていくにはいきなり会わせず、少しずつ焦らずなじんでもらうよう配慮しながらお世話をしました」
チコちゃんは10年以上前に、飼い主さんの家の前で衰弱しきって倒れていたところを保護された猫さん。妊娠していましたが、赤ちゃんは助からずそのまま手術したとか。それから飼い主さんにとって、チコちゃんは大切な家族でした。
「尿検査や投薬を行いながら様子を見ていましたが、今ひとつ改善しないため、エコー検査に踏み切りました。すると、今度は膀胱に大きな結石が見つかって。これは長期間かかってできるものなので、かなり以前から苦しんでいたと思われます。手術をすればというところですが、年齢や体力も考慮し、現在はまず投薬と食事療法で結石を溶かす処置を行っています。これがうまくいけば手術の必要がなくなります。ただ、この療法食が大変高額なのが頭の痛いところ。
|
|
このほか食欲の維持も大変で療法食に慣れてもらう工夫も必要で、ずっと試行錯誤の連続です。現在も、もふっこひだのシェルターにおります。保護から1カ月が過ぎ、ようやくほかの猫がいる部屋に。穏やかな成猫ばかりで、ゆったり過ごしています。ただ、飼い主様のところに戻るにはたくさんのハードルがあり、またチコちゃん自身の体調からも不可能と判断しています」
◇ ◇
高齢者のペット飼育 もしものことがあった時のために、どんな準備を
高齢者の猫などのペット飼育。今回のケースのように飼い主本人が緊急入院などもしものことがあった時のために、どういったことを準備しておくとよいでしょうか? 「もふっこひだ」さんに聞きました。
「まずは周りに動物と一緒に暮らしていることを告げる。責任をもって対応できる後見人を必ずお願いし連絡先を大きく掲示しておく、周りに伝えることなどの2点は必要です。ただ、老いの難しさは、そうした判断ができなくなっていくこと。『いざとなったら』の『いざ』の時期をどう確定するのかは当事者や家族の感覚と、客観的に『もうできなくなってますよ』の感覚がまったく違います。そうした『老いについて』の理解も必要です。当事者や家族は、認められない・期待などの心理的葛藤の中で、どうしても判断が遅くなります。その間に破綻が起きてしまうのが現実。当事者の準備は当然のこととして、周りの人、関わる福祉関連の人が、『察知する』『声を上げる』『連携チームを作る』ことによって防いでいくしかないと考えています。
ですから、まず60歳を超えて動物を迎える場合や、若くても一人暮らしの場合は、必ず周りに伝えておくこと。犬猫は20年の寿命があることを理解し、先々を予想する習慣をつけることと、人間関係の構築。そして飼育開始当初から、適切に飼育されているか、飼育スキルがあるかを見守りアドバイスできる仕組みが必要かと。特に禁止されている住宅などで飼育している場合、こっそり隠れて、という状況が後々大きな問題になっています。またオープンに語り合える場、動物のことで困ったときに相談できる窓口の設置と啓発が急務です。すでに子どもの数よりペットの数が上回っている現状に即し、動物も生活を共にする一員として、社会システムの中に組み込んで考えるようにしないと、破綻は収まりません」
|
|
さらに救急搬送などをされた後、あるいは入院や入所、お亡くなりになるなどで飼い主が不在になった際、周りの方や自宅に入られる立場の人に気を付けてもらいたいことについて、こう訴えます。
「それは、犬や猫、もちろん鳥やほかの生き物もですが、飼い主の異変を一番恐怖に感じています。単純にいえば、極端な環境変化に対する恐怖です。特に猫は、気配を消して隠れています。覚悟をもって、できれば専門家の力を借りて捜索しなければ見つかりません。フードの袋やその他の痕跡から、動物がいるようならば、絶対探してほしいのです。昨日も福祉関連の方から、飼い主さんの入院後、かなりたってから訪問したところ猫が亡くなっていた話を聞きました。これは当たり前のように日々起きていることです。動物の命は飼い主の付属物ではありません。社会全体がそのことに目を向け、特に介入される立場の方はそういったことにも必ず配慮しなければならない重要な事柄と伝えたいと願っています」
(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)