STARTO社、外部有識者の講評発表「1年目の取組としては高く評価できるものと考える」 一方で「経年的に調査・検証し、今後の展開を注視していく必要」

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2025年06月26日 17:01  ORICON NEWS

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STARTO ENTERTAINMENT社
 STARTO ENTERTAINMENTは26日、公式サイト更新し、「第12回外部有識者会議」の開催及び「モニタリング報告書」の受領を報告。プライバシー保護の観点から一部情報を除いた「公表版」を発表した。

【写真】タレント業継続を明言している井ノ原快彦

 外部有識者の弁護士・磯谷文明氏(くれたけ法律事務所 東京弁護士会)、精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳氏(医療法人社団 明善会 西川口榎本クリニック)が取組状況をモニタリングした報告書では、同社の取り組みについて細かく言及。「組織の刷新」「ジュニアの育成」「相談先の拡充」などその取り組みについて、細かくモニタリングした結果がつづられた。

 報告書の最後には、2人による講評も。磯谷氏は「S社の取組は、調査報告書において指摘されている再発防止策を全体的にカバーするものであり、それぞれの策はよく練られ、かつ、意欲的に実践されているものと評価できる。したがって、1年目の取組としては高く評価できるものと考える」とする一方で「S社の改革努力が会社全体に浸透し、すべての従業員の意識変革につながっていく過程を確認するためには、経年的に調査・検証し、今後の展開を注視していく必要がある」とまとめた。

 また、斉藤氏は、この過ちを繰り返さないための「行動変容のステップ」「認知の歪みのステップ」「責任のステップ」という3つのステップを挙げたうえで、「私は旧J社で起きた問題は、子どもが所属するどの組織でも発生するリスクがあると考えている。これからも、子どもたちの安全・安心を守るために、関わる大人たちが「私たちが守るべきものは誰か?」という問いかけを忘れず、再びエンターテイメントの世界で活躍できる多様な人材を生み出すことのできる組織に変化していってほしいと願っている」と結んだ。

■講評全文

■磯谷委員による講評
S社における取組は、いずれも必要かつ合理的なものであって、調査報告書に指摘された諸事項をカバーするものと認められる。旧J社では、取締役会の機能不全、取締役による相互監視機能の欠如、社内ルールや内部監査部門の欠如などのため、ジャニー氏やメリー氏の行動を適切に監視することができず、社内で絶対的な権限を有していたことから、いわばやりたい放題になっていた。この点の反省を踏まえ、S社では、組織体制を見直し、社内規程を整備し、社内手続の明確化を図っている。これらの取組が単に形式にとどまるものでないことは、従業員対象のヒアリングにおいて、多くの従業員から、S社の組織のあり方が旧J社とは大きく変わったという意見が語られていたことから裏付けられる。

社内で特に脆弱と思われるのが未成年者を多く含むジュニアであるところ、ジュニアの安全確保にはさまざまな工夫がなされている。『タレント・ジュニアとの接し方ガイドライン』では、冒頭に「ジュニアは、タレント研修生として、親御さまとの信頼関係のもと、お子様をお預かりしています」と書かれているが、この考え方が浸透すれば現場の責任感の醸成につながるものと思われる。

ジュニアに関して、特に私が注目したのは、評価方法の見直しとホスピタリティ体制である。まず評価方法の見直しについては、ジュニアたちは将来のデビューを強く希望しており、その視点からすると、マネージャーその他の周囲の大人たちは、いわば生殺与奪の権を握る存在である。そのようななかで評価基準が不透明であったり、特定の権力者が恣意的に評価しているとなると、ジュニアたちはどうしてもその者に気を遣わざるを得ず、そのことが被害の誘因となったり、被害を見えにくくしたりする結果になりかねない。評価項目を整理して「見える化」し、それを元に複数の大人たちが協議して決める仕組みを確立することは、被害予防の観点からとても重要である。この点、S社においては、評価項目を明確にするとともに評価のプロセスを見直して、できるかぎり恣意性を排除しようとする意図が強く感じられた。

もうひとつのホスピタリティについては、調査報告書において「保健室の先生」という比喩で紹介されていた。これは東京と大阪それぞれにおいて、ジュニアと日常的に接する専任の職員を配置し、普段から話しやすい存在になってもらうという取組である。一般に、子どもたちは何かあったとき、見知らぬ大人ではなく、自分が信頼できると考える大人に相談するものであり、その点から、ホスピタリティの取組は正鵠を射たものといえる。本報告書においても触れたとおり、S社としては、ホスピタリティを中核とした相談援助体制を強化する取組を進めているところであり、この点も心強く感じられた。

このように、S社の取組は、調査報告書において指摘されている再発防止策を全体的にカバーするものであり、それぞれの策はよく練られ、かつ、意欲的に実践されているものと評価できる。したがって、1年目の取組としては高く評価できるものと考える。

ところで、S社は、今後も当面の間、モニタリングを継続する意向である。確かに、S社の取組はまだ始まったばかりであり、引き続きモニタリングを継続する意義は大きい。とりわけ私たちはホスピタリティやそれを支える仕組みに注目し、期待をしているところであるが、これに関する取組は、まさに緒に就いたばかりであり、S社の改革努力が会社全体に浸透し、すべての従業員の意識変革につながっていく過程を確認するためには、経年的に調査・検証し、今後の展開を注視していく必要がある。

今後もモニタリングを継続する場合、どこか適切なタイミングで、従業員やタレント・ジュニアに対するアンケートを実施するなど、より現場の声を汲み上げて評価できるとよいのではないかと考える。
S社に関わる子どもたちや若者たちは、大きな夢を抱いて集っている。その夢は大変厳しく、おそらく実現できる者はわずかなのだろうと推測する。それだけに、せめてS社に集う子どもたちや若者たちの安全・安心は確保されるべきであると強く思う。

■斉藤委員による講評
『性暴力の問題を社会モデルで捉えなおす。』
私はそのような視点を持ちながら長年現場で加害者臨床に取り組み、「目の前の加害当事者は日本社会の縮図」であるといつも考えている。そして、同様の視点を持ちながらこの外部有識者モニタリングの委員にも関わってきた。

旧J社で過去に起こった重大な性加害問題は、単なる一企業の問題にとどまらず、日本社会が抱える構造的課題を浮き彫りにした。それは、組織内の沈黙と同調圧力、メディアの忖度と癒着、児童への権利意識の低さ、男児の性被害への偏見と理解不足、性的グルーミングという視点の欠如と、課題は山積していた。

一方で、まったく新しい組織として再出発したS社で働く役員や従業員の方々からは、日々子どもたちと向き合いながら、再び同様の問題が起きないようにするには、どのように関わっていけばいいのかについて真摯に考えていることがヒアリングや研修を通して伝わってきた。その取組は本報告書に詳しく、ホスピタリティ担当の制度改革や全従業員の人権意識向上などの課題は残しつつも一定の評価はできると考えている。

私からは、講評に変えて加害者臨床における「変化のステージモデル第3段階)」の視点から、再びこの組織で、旧J社で起きたような歴史を繰り返さないための3つのステップを提案したい。

1.行動変容のステップ
最初の段階は「行動変容」のステップである。行動を変えていくステップには、下 の「4つのing」が重要である。
・スケジューリング第計画):行動変容に必要な研修の計画。
・モニタリング第観察):外部有識者による継続的なモニタリング。
・コーピング第対処):様々な研修を実施する中で、あらゆる問題に対するコーピングスキルを獲得する。
・シェアリング第共有):外部メンタルヘルスの専門家と、定期的にシェアリングする機会をもち従業員の援助希求能力を高める。

2.認知の歪みのステップ
行動のステップを経て行動変容の基礎ができたら、次は「認知の歪みのステップ」に取り組んでいく。認知の歪みとは、誰の中にも内在している「問題行動を継続するために本人にとって都合のいい認知の枠組み」と定義できる。
具体的には、旧J社で起きた性加害問題を正当化するための認知の歪みに向き合っていくためのステップで、研修を通してこれら認知の歪みに取り組んでいく必要がある。

3.責任のステップ
認知の歪みのステップを経て、再発防止のための行動や思考が整ってきたら最後は「責任のステップ」に取り組んでいく。この段階で学ぶべき責任には、1)再発防止責任、2)説明責任、3)謝罪と贖罪がある。ここでは、主に過去の歴史を忘れないための教育と、性被害者がこの世界をどう見ているのかについて学ぶことに主眼を置くことが重要である。各個人レベルでどのような意識をもってこの歴史と向き合い、本組織で働いていくべきかについて考え続けるステップである。
上記、1〜3のステップを経たうえで、それ下降はメンテナンスプログラムとしての研修を継続的に実施し、学びを継続していくことが過去を忘れないために重要であると考えている。

最後に、上記のステップは概ね3年間かけて取り組んでいく再発防止計画である。
私は旧J社で起きた問題は、子どもが所属するどの組織でも発生するリスクがあると考えている。これからも、子どもたちの安全・安心を守るために、関わる大人たちが「私たちが守るべきものは誰か?」という問いかけを忘れず、再びエンターテイメントの世界で活躍できる多様な人材を生み出すことのできる組織に変化していってほしいと願っている。

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