6月12日から14日まで幕張メッセ(千葉市美浜区)で開催された「Interop Tokyo 2025」は、日本最大級のネットワーク/AI技術に関する展示会だ。その模様を2回に分けてお伝えする。
この記事では、レノボグループ、VAIO、サードウェーブ、Synology、UGREENの5社の展示を紹介する。
●レノボグループ:約30万円から導入できるエッジサーバを展示
レノボグループ(レノボ・ジャパンとレノボ・エンタープライズ・ソリューションズ)のブースでまず目を引いたのは、初展示となる小型エッジサーバ「ThinkEdge SE100」だ。
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ThinkEdge SE100はCore Ultra 200Hシリーズを搭載しており、「店舗のAIカメラと連携した万引き予兆検知」「飲食店の注文システム」といった用途での利用を想定している。
本製品はオプションの拡張キットを取り付けるとハーフハイト/ハーフレングス規格(HHHL規格:いわゆるロープロファイル)のPCI Expressスロットを追加できる。同社ではこの拡張性を生かし、拡張キットを追加した本製品にグラフィックスカードを搭載した「小規模AIファイルサーバ」を提案している。社内文書をローカルAIに学習させ、必要な情報をサッと検索できる環境の実験を目指しているという。30万円台という価格でエッジAIを実現する新たなアプローチだ。
大規模データセンター向けには、水冷技術「第6世代Neptune」を適用したラックサーバを展示していた。「CPUだけではなくて、メモリやSSDの下側にも水冷パイプが通っていて、全くのファンレス」(担当者)という、完全水冷を実現していることが特徴だ。CPUやGPUのみを水冷する「スポット冷却」と比べると、データセンターにおける冷房代を3〜4割削減できるという。
ただし、販売価格は通常のラックサーバより10〜15%高く、別途300万〜1000万円の「CDU(水循環ポンプ装置)」を用意する必要がある。初期費用こそ大きくなるが、電力コストを3〜4割削減できるので、長期間利用を想定すれば十分にペイできる範囲に収まるだろう。同社は12年にわたって水冷サーバを手がけており、技術の成熟度も高い。
デスクトップPCでは、Snapdragon Xシリーズを搭載する「ThinkCentre neo 50q Tiny Snapdragon」が注目株だ。「ノートだとNPU搭載で20万円以上はしてしまう」(担当者)中で、最小構成では10万円を切る価格を実現している。Snapdragon Xシリーズはピーク時の性能が40TOPS(毎秒40兆回)を超えるNPUを統合しており、「Copilot+ PC」の要件を満たしている。
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本製品は専用ディスプレイ「ThinkCentre Tiny-in-One 22 Gen5」と組み合わせることで、電源を含めて“一体化”できる。固定席と据え付け電話機があるような従来型のオフィスにピッタリだ。
●VAIO:主戦場の法人市場で「安曇野FINISH」をアピール
VAIOブースでは、同社が注力する法人向けノートPCが整然と並べられていた。
展示の中心は6月に発表されたばかりの新型「VAIO Pro BK」(14型)と「VAIO Pro BM」(16型)だ。VAIO Pro BKは重量が約1.23kgで、最小構成で14万1800円からと比較的手頃な価格設定となる。
本製品のCPUはNPUを搭載していない。しかし「法人向けノートPCだと、NPU搭載CPUにすると20万円以上はしてしまう」一方で、「必ずしも全ての法人ユースでNPUが求められるとは限らない」という所を“狙った”モデルだ。
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展示機では、3つのマイクを使ったAIノイズキャンセリング機能のデモが行われていた。プライベートモードでは45度、プライバシーモードでは15度まで集音範囲を絞り込み、会議室モードでは12人規模の会議で全員の声を均一化する。「VAIOオンライン会話設定」キーを押すだけで、これらのモードを瞬時に切り替えられる。
品質面では「安曇野FINISH」と呼ばれる、本社工場(長野県安曇野市)における全品検査が特徴だ。最終工程で「匠」と呼ばれる技術者が50項目を目視検査する。部品や加工にもこだわりが詰め込まれている。
キーボードはレーザー加工後にUVコートをかけることで、3〜4年使っても文字が消えない構造。アルマイト加工のアルミニウムや、上位モデルではカーボン素材を採用し、耐久性を追求しているという。
2014年のソニーからの独立以降、VAIOは法人市場に重きを置いている。ここ3年は売上ベースで年間170%の成長率を記録しているといい、14型カテゴリーでは高いシェアを獲得している。
●サードウェーブ:500万円から始める「ローカルLLM」で機密データにもAI活用
サードウェーブのブースは4面展開で、「PCメーカー」というよりも「AIソリューション企業」という印象を強く受ける展示内容だった。その中心は、オンプレミス(ローカル)環境で動作する「ローカルLLMソリューション」だ。
担当者は「機密情報を扱う企業から、クラウドに出せない(機密性の高い)データでAIを使いたいという要望が非常に多い」と語る。そこで同社はハードウェア(GPUサーバ)込みでローカルLLMソリューション「Aviary」を提供することにしたという。
LLMのモデルについては「Llama」「Qwen」「DeepSeek」など主要なオープンソースモデルに対応している。「お客さまの要望に応じて、いろんなモデルを切り替えてテストできるようにしている」とのことだ。RAGやファインチューニングも自社で対応し、製造業、金融、教育機関など機密データを扱う企業への導入が進んでいるという。
Aviaryはインターネット接続不要で、企業内ネットワークで完結できる。価格は構成によって異なり、500万円から3000万円となる。ブースでのデモンストレーションでは、この後発売予定の「raytrek 4C Avaryモデル」が使われた。本モデルは最新の「NVIDIA RTX PRO 6000 Blackwell Workstation Edition」を搭載していることが特徴で、その“威力”を体感できた。
ブースでは、NTTデータとの協業で展開する「つなぎAI」や、SI&Cとの協業で展開する業務ナレッジ活用ソリューションなど、パートナー企業と共同展開するソリューションのデモンストレーションも行われた。
つなぎAIはDifyベースのノーコード開発プラットフォームで、チャットbotやワークフロー自動化を簡単に構築可能だ。トヨタ紡織での実証では、チャットbotの開発期間を3カ月から2週間に短縮した実績があるという。
業務ナレッジ活用ソリューションは「AIエージェント」「RAG」「ローカルLLM」の組み合わせで、社内情報の機密性を確保しつつ、自社の知見を最大限引き出しやすくなる。
サードウェーブブースでは「DXハイスクール」向けの事例も紹介されていた。
惺山高等学校(山形市)のeスポーツ部では、サードウェーブのPCショップ「ドスパラ」の協力のもと、生徒がゲーミングPCを5台自作したという。「安い」「PCの構造を覚えたい」「光らせたい」という高校生らしい理由から始まった取り組みが、ネットワーク知識の習得にまで発展している。
同校では「GALLERIA」「raytrek」の両シリーズを使い分け、eスポーツだけでなくクリエイティブ教育にも活用されている。
「AIで何を解決しようかというのもなかなか出てこないのが日本企業の課題」と担当者は語る。同社はハードウェア提供だけでなく、AIで何ができるかから伴走する姿勢で、オンプレミスAI市場の開拓を進めている。
●Synology:200万IOPSのオールフラッシュストレージを展示
NASキットで知られるSynology(シノロジー)のブースでは、COMPUTEX TAIPEI 2025で発表されたばかりのオールフラッシュストレージ「PAS7700」と、データ保護アプライアンス「ActiveProtect(DPシリーズ)」が展示されていた。この2つの新製品群で、エンタープライズ市場への本格参入を印象付けた。
PAS7700は、4Uラックマウントに最大48本のNVMe SSDを搭載できることが特徴だ。説明員が「200万超のIOPS(1秒当たりの読み書き回数)に対応し、4K(4096バイト)ランダムアクセスにおいても優れた性能を持つ」と説明する通り、圧倒的な性能を備えている。拡張ユニットを7台追加すれば、容量は最大1.6PBまで拡張可能だ。その場合、システム価格は数百万円になるという。
用途について聞くと「AIや機械学習のストレージとして、かなりの読み書きを要求されるようなミッションクリティカルな用途」との説明。ゲノム解析など、高度な研究用途でも採用が見込まれている。
万が一の故障時でもサービスを継続できる冗長構成も大きな特徴だ。
一方、ActiveProtectはデータのバックアップに特化した新カテゴリーの製品だ。
従来のバックアップでは、データの変更履歴を保持するため、元データの2倍以上の容量が必要で、IT管理者の負担となっていた。その点、DPシリーズは「重複排除機能」によってその課題を解決している。トヨタ・モーター・ベトナム(トヨタ自動車のベトナム法人)が発売直後に導入したという事例も紹介していた。
「直感的に簡単にバックアップ構築ができる」という独自OSのUI(ユーザーインタフェース)も印象的だった。IT管理者の負担を軽減できる画期的な製品として位置付けられている。
NASの新製品では、全モデルで2.5GBASE-Tポートを標準搭載した2025年モデル(「DS925+」「DS1825+」など)が展示されていた。2025年モデルでは、ランサムウェア対策として管理者権限でも削除できない「イミュータブルスナップショット」機能を利用可能にしている点もポイントだ。
監視カメラソリューションでは、Synology純正カメラを使えばライセンス費用がかからない点や、AIによるナンバープレート認識機能などをアピールしていた。
●UGREEN:充電器メーカーが挑むAI搭載NASで
UGREEN(ユーグリーン)は、今回のInteropで初めてブースを構えた。スマートフォンやタブレット向けのアクセサリーで知られる同社だが、展示されていたのはAI機能を前面に押し出したNASキットのみだった。
展示の中心は、1月のCES 2025で発表された「NASync iDX6011シリーズ」だ。
CPUとして通常モデルはCore Ultra 5 125H、ProモデルはCore Ultraプロセッサ(シリーズ2)を搭載し、AIの処理性能は通常モデルが34TOPS。Proモデルが96TOPSとなる。メモリは32GBまたは64GBで、ストレージは最大196TBまで搭載可能だ(30TB HDD×6+8TB M.2 SSD×2)。ネットワークポートは10GBASE-T(10Gbpsイーサネット)×2とThunderbolt 4端子×2を備え、Proモデルは「OCuLinkポート」も搭載する。価格については現時点では公表されていない。
NASにおけるAI機能について担当者に聞くと「自然な会話で『何々を探してください』と尋ねれば、すぐに返事が来る」という。会議の音声データを入れれば要約やポイントを自動抽出する「AIミーティングサマライズ」や、ファイルを開かなくても内容が分かる「スマートタグ」といった、実用的な機能も搭載している。
AIアルバム機能のデモでは、「Bicycle」と入力すると自転車の写真が瞬時に表示された。似ている写真を自動で認識して、重複ファイルの削除に役立てることもできるという。ただしAI機能の日本語対応については「これから」とのことだ。
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