不動産営業が「押し売り」にならないようにするポイントとは? カギは「4つのステップ」

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2025年06月27日 06:01  ITmedia ビジネスオンライン

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出所:ゲッティイメージズ

 前回の記事(『問題は「億ションの増殖」だけではない これから不動産業界に起こる「地殻変動」とは』)では、不動産業界全体を概観しました。今回はその市場環境下の中で各社にはどのような営業スタイルが求められるか、現場の営業編としてお送りします。


【分かりやすい図で見る】不動産営業の流れ、不動産営業に求められる4つのステップ、不動産営業の理想の姿(計3枚)


 まずは前回を簡単におさらいしましょう。今後は2040年までに下記のような変化が生じることが予想されます。


・団塊世代の大相続が始まり、中古マンション・戸建て市場の供給余剰が加速して中古物件が売れにくくなる


・都市部の土地、マンションの高騰が継続し、新築を購入できる所得層がさらに限られていく


・中古市場が低価格化する中、資材、物流、人件費の高騰によって利益を圧迫していく


・国内の人口が減少していく中で物件の供給余剰、限られた需要の競争性はさらに高まる


 このような市場では次のようなポイントを押さえることが求められます。


・営業の短期化、施工の短期化、広告費最小モデルによる低価格物件でも収益を確保できるようにする


・低価格で顧客目線の営業品質による受注率向上・件数増加


・中価格で高品質・高対応、土地探し・設計・建築・セキュリティまでのトータルサポート


・単身、海外転入・転出、富裕層、気密性、医療連携など特化したセグメントで強みを確立


・中古マンションや空き家の再生力・活用力(リノベーション、古民家カフェ、民泊、オフィス活用、外国人向けサービスなど)


 では不動産業界の主要プレーヤーは今、どのようなポジションにあるのでしょうか。まずは次の図を見てください。戸建て住宅を例に、縦軸が価格、横軸がカスタマイズ性の高さで、顧客属性(赤色)と不動産会社が多いゾーン(青色)を示したものです。


 カスタマイズ性を求めれば求めるほど価格は高くなりますから、必然的に購入する所得層も高めになります。反対にカスタマイズ性を求めず、とにかく予算重視でマイホームを建てたい層にとっては規格型でローコストな住宅が喜ばれることになります。


●各社をマッピングすると……


 前述の図に沿って、不動産業界の主要プレーヤーを配置してみます。各ニーズに沿ったさまざまなプレーヤーが既に多く展開していることが分かります。


 それぞれ、代表企業の業績を確認しましょう。2019年から2024年までの推移を見ると(一部企業はデータ不明のため2023年まで)、各社は大きく伸長しています。「家は、性能。」とこだわりを掲げる一条工務店は単体で5000億円規模まで成長し、同じく性能とデザインの融合で支持を得ているアイ工務店の成長も著しいのが見てとれます。大手ハウスメーカーは規模が圧倒的に大きい分、中堅ハウスメーカーや工務店と比較すると成長率は低い位置にあります。


 大手と中堅・中小企業では資本力やノウハウ、顧客基盤などがもちろん異なります。だからといって、大手企業が全てにおいて強いかというとそうともいえません。


●規模=提案力、ではない


 例えば、次の比較表は、筆者の知人の戸建て購入者(土地含む)が9社に営業を受けた一例です。顧客は1人ですから、年収や希望する家の条件、優先順位、未来への展望など全ての会社に同じ話をしています。しかし各社の対応はかなり異なり、提案価格にも大きな差が生じました。


 あくまでこれは1案件、1営業担当の提案比較ですから会社全体の評価ではありません。ただ、営業担当によっては大手であっても機会損失をしていますし、規格型住宅の営業担当でも、自社の施工力を生かしてかなりカスタマイズの提案をしてくれるようなことも発生しているわけです。


 機能性を重視する企業の商談では、初回で顧客のニーズを掘り下げる前に「私は今日急きょ本件の対応を社内からいわれたので概要を分かっていないのですが、うちは坪単価140万円くらいです。予算の範囲になりますでしょうか」といわれたそうです。


 実際にWebサイトなどに掲載している坪単価はあくまで建築費の目安です。実際には地盤や道路の状況、外壁を要するなどの諸条件によって大きく変動します。売り手は建物だけの費用を坪単価というかもしれませんが、顧客側にとっては総額でかかる費用を坪数で割った額が坪単価なのでその点で既に認識がズレています。よって初回で坪単価がいくら、といえるはずがないのです。


●顧客は営業のことを見透かしている、という意識が必要


 自分に置き換えると分かりやすいかもしれません。年収を不動産会社に提示して、その年収で住宅ローンを組める最高額で提案をされたらどうでしょうか。今の年収が継続するか、昇給するかも不透明なこの世の中で、住宅ローンをフルに組んでしまうよりも多少余裕を持って臨みたいはずです。


 ヒアリングをさほどせず、年収を中心に「これは高額物件のチャンス」と最大値で物件を提案し、「これがベストです、素敵ですよね」と推していく営業を想像してみてください。「どうもいいことだけ並べられてお金だけを吊り上げられているような気がする。もう少し他社も比較してみよう」と思うのではないでしょうか。


 先ほどの図では、1社(D社)からは、自社の売り上げとなる範囲以外も含めて見積もりが出ており、顧客目線での提案に感じます。その見積もりと比較すると、他社には抜け漏れが多数あり、追加で発生する費用もありそうです。


 家を買うのが初めての人にとっては、費用が詳しく分かりません。見積もりを鵜呑みにして進行すると、あとで大きく予算オーバーすることは容易に想像できます。しかし、売り手側からすれば自社の範囲外の費用を抜いて自分たちのサービス範囲だけ示しておけば、安く見えるため決まりやすいと他の各社は考えたのでしょう。


 ちなみに知人は、他社の見積りに安い項目があったので、D社に「他社ではこの項目が御社より50万円も安くなっていたのですが同じような価格にならないのですか」と聞いたそうです。すると、営業は次のように回答したそうです。


 「この項目は経験上、土地を見る限り一定の費用がかかると思います。あとから上乗せとなるのが分かっているのに、いったん低めで見積もるのはよろしくないと思います。まずはこの金額で検討いただき、もし実地調査で減額となったらインテリアなど楽しい部分にお金を使うことにしませんか」


 普通は案件を取りたいために「他社の価格に合わせます!」といってしまいそうなものです。一生に一度あるかないかの最も高額な買い物である住宅では、営業が信頼できるかどうかはかなり重要なポイントでしょう。にもかかわらず「顧客には売り込みありきの自己都合型スタイルだと見透かされている」という意識を持てていない営業も多いのではないでしょうか。


 ネガティブな情報を正直に述べるのではなく、全て否定して売ろうするスタイルが通じる時代ではもうありません。顧客はSNSを中心に常に情報を取得して勉強していますから、営業の内容に親身な事実が伴っていない場合、他社に意識が向いていくことになります。


 実は、家を購入した後までの視点を持つ営業はレアです。セキュリティや、固定資産税に影響する項目、もし10年後に売りに出す場合の魅力の保持など、広い視野で進言する営業こそが「選ばれる営業」という点は意識する必要があるでしょう。


●不動産営業には「4つのステップ」がある


 家を検討し、建てるまでの一般的なフローを整理したのが次の図です。


 ここで営業として大切なことは、自社領域だけではなく、もっと先の工程も含めた全体を踏まえたアドバイスをすることです。自社のサービスだけを話す営業では必ず顧客から「単なる売り込み営業」と思われてしまいます。「それを加えると、後々固定資産税が高くなることになります。毎月のご負担が数万円ほど増えそうですが大丈夫ですか」など、そぎ落とす部分も提言するのがポイントです。


 経済的な面と性能、デザイン的な面に加え、防犯や災害対策など生活の安全に重きを置いた提案をすることも肝要です。家を購入する多くは初心者ですから、その初心者に対して、熟練のプロとして素敵な未来の生活を提供するのが不動産営業の責務であり醍醐味でもあるはずです。


 ビジネスの現場では現状の姿を「As-Is」、理想の目指すべき姿を「To−Be」といい、そのギャップを埋めていくアプローチをよく行います。家作りでも同じことがいえるとともに、理想を超える夢のような生活の提案も、不動産業では可能です。単に顧客に無理をさせて営業成績にしようとするのではなく、現実的に可能で、楽しみを最大化させる提案を行うとともに、顧客自身ですら気付いていない領域までを提案してこそ、事業の価値といえるのではないでしょうか。


 繰り返しになりますが、そのためには家作りの全工程を加味した考察を徹底し、顧客にとって金銭負担も含めどのような家が最も幸せになるのかに思いを巡らせる営業マインドとスキルが必要です。


 営業に必要となる視点別のステップは、大まかに4つです。具体的には、ステップ1が「自社のサービス範囲内のみの売り込みスタイル」、ステップ2が「自社サービス範囲に限らない全工程を加味した顧客視点」、ステップ3が「未来のリセールも加味した人生設計の視点」、ステップ4が「相続後の次世代の視点」です。


 このうちステップ2以降こそが信頼、感謝される営業と捉え、営業スキルの体系化をしていくことが大切です。顧客目線で全体最適の営業が不動産業界で勝つポイントというのは、他の業種においても共通する部分があるのではないでしょうか。


 今回も、最後までお読みいただきありがとうございました。


(佐久間 俊一)



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