第75代横綱・大の里が誕生! ルーツの地はどれほど沸いているのか!? 後編は中高を過ごした新潟県糸魚川(いといがわ)市。市を挙げての応援態勢に入っていた!
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■母校のアンテナショップは大盛況
第75代横綱・大の里が誕生。ルーツの地はどれくらい盛り上がっている!? 前回の生まれ故郷・石川県津幡町(つばたまち)編に続き、今回は相撲留学で中高と過ごした新潟県糸魚川市で喜びの声を聞いてみた!
まず向かったのは、大の里の母校・新潟県立海洋高校。糸魚川駅から車で20分ほどと中心部から少し離れた場所にある。周りに何もなく、大の里が「相撲に集中できる環境」と語っていたとおりの場所だ。小高い山の上にあり、校門まではちょっとした登山。通学するだけで足腰が鍛えられたはずだ。
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その海洋高校近くの道の駅の一角にある高校のアンテナショップが「能水(のうすい)商店」。生徒たちが開発した商品を専門に販売していて、特に相撲部員が開発に携わった「ごっつぁんカレー」や「ごっつぁんラーメン」などの「ごっつぁんシリーズ」が人気。パッケージには実際の相撲部員が登場している。そんな能水商店の店員さんに話を聞いた。
「横綱昇進記念セールを2日間開催しました。生徒たちが開発した商品は全品半額で、ものすごい数のお客さんが来られました。特に人気だったのがセール限定の横綱あんこうバーガーです。パンに挟まれたあんこうのフリットなどが普通サイズの2倍で、お値段は普通サイズのまま1320円。50個限定でしたが、すぐに売り切れました」
スーパー「ハピー」でも、横綱昇進決定から1週間セールが開催されていた。店員のひとりに話を聞いた。
「75代横綱ですから、特別セールとして目玉商品を75円で売るセールをしていました。ごっつぁんカレーをご飯にかけたものをパック詰めして75円で販売したときはすごい人で、お昼までに売り切れてしまいました」
さらに、市内を走る「えちごトキめき鉄道」では大の里ら海洋高校出身力士が描かれたラッピング電車を運行中。この写真の大の里は入門してまだ日が浅く、髪は大銀杏(おおいちょう)を結うには足りずにちょんまげ姿。関係者によれば「今の横綱の写真に取り替える計画はある」とのことだった。
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また、車両の中にはピンク地に「横綱昇進おめでとう!! めざせ大横綱!!」と書かれた中づり広告が何枚もつるされていた。
町をちょっと歩いただけで盛り上がりが伝わってくる糸魚川。情報が集約されているであろう市役所へと向かった。
建物に入ると出迎えてくれるのが「祝優勝」の垂れ幕と大の里の等身大パネル。生誕の地の石川県津幡町や金沢駅にもパネルはあったが、糸魚川のパネルは海洋高校の校章入りの化粧まわし姿のもの。そして、大の里だけでなく海洋高校出身力士全員の先場所の取組結果が掲示されていた。
まずは市の総務課に話を聞いた。
「大の里関に市民栄誉賞の贈呈を検討しております。ただ、市には市民栄誉賞の前例がないので、6月の議会でまずそのための条例作りから始めているところです」
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続いて、大の里関連のイベントに携わるスポーツ振興係の担当者にも話を聞いた。
「昇進が決まった5月28日には、市民会館の屋上から『祝横綱昇進大の里』の垂れ幕がつけられたアドバルーンを揚げ、さらに市内3ヵ所から横綱昇進を祝う花火を打ち上げ、お祝いムードを盛り上げました」
アドバルーンとは珍しいというか、懐かしい。
「アドバルーンは久保田郁夫市長の意向で決まりました。昭和世代からは『久しぶりに見た』と好評で、平成・令和世代は『何あれ?』とそれなりにインパクトがあったみたいです(笑)。
また、糸魚川には『花火で糸魚川を元気にしよう』という目的で結成された『いといがわ元気花火の会』という団体があって、打ち上げを引き受けてくださったので3ヵ所同時花火が実現しました」
というわけで、「いといがわ元気花火の会」の事務局スタッフで打ち上げ担当の水上康子さんに話を伺った。
「新潟は山が少なく平野が広がっている地形から、昔からお祭りだったり、運動会だったり、何かのお知らせとして花火を上げる習慣がありました。花火が上がると『あれ、なんの花火かね?』みたいな感じです」
実は、大関昇進時にも花火を上げたのだとか。
「大関昇進を決めた直後に大の里が糸魚川を訪れる予定があり、5日前に急遽(きゅうきょ)決まったんです。異例中の異例で、普通は打ち上げの1ヵ月前には発注いただきます。消防署の許可も必要でしたが、消防の担当者も『優勝して大関になった本人が来るし、火薬の量もそう多くないので特別に』と許可を出してくれたんです」
こうして一度打ち上げたことで、さらなる期待が寄せられることに......。
「周りから『当然横綱になったら上げるよね?』と聞かれ、消防からも市役所に『まだ横綱昇進時の打ち上げの申請が出てないんですが』などの問い合わせもあったようです。
ただ、11連勝した後も4連敗したら優勝も横綱も消える可能性があるわけですから、もう最後は見切り発車です。そのせいもあって、精算もこれからです(笑)」
花火は市内3ヵ所で同時に20発ずつ、計60発打ち上げられた。
「私たちは糸魚川全体を元気にする会なので、市民みんなが見られるように3ヵ所。それも同時スタートと考えました。20発という数は、石川県の津幡町出身でそれでも中高と相撲留学の形で糸魚川に来てくれた。津幡町と糸魚川との二重のご縁にあやかってその数にしました」
■4月に元校長が市長に就任
次に伺ったのは、海洋高校の同窓会「能水会」。大の里をお祝いする多くのイベントのパワーの源は、この能水会にあるようだ。担当者に話を聞いた。
「今、大相撲には海洋高校相撲部出身力士が10人いるんです。そのうち、横綱・大の里を筆頭に、嘉陽(かよう/前頭)、白熊(十両)、欧勝海(おうしょううみ/十両)と関取(十両以上の力士)が 4人います。
最初は海洋高校の関係者らで応援していたんですが、大の里がスピード出世していくにつれて、糸魚川市民全体の応援もじわじわと盛り上がり、『糸魚川で海洋高校の卒業生を応援しよう。いっそのこと糸魚川全体を相撲で盛り上げよう』という意見も寄せられるほどでした。
そうした中、今年4月の市長選挙で今の久保田市長が当選。この久保田市長は、大の里が海洋高校の生徒だった当時の校長なんです。今でも大の里のことを当時と変わらず、『おう! だいき!』と親しみを込めて呼ぶぐらいの間柄。
当時は生徒と校長先生という関係だったふたりが、今は『横綱』と『市長』というめったにない関係性になったわけです。なので、市長が相撲、特に海洋高校相撲部に力を入れるのもうなずけます。
また、うち(海洋高校)はあと3年後に創立130周年を迎えます。能水会ともどもいろんなことをやっていこうとするタイミングで、大の里が横綱昇進してくれたんです」
さらに、この夏新たにNPO法人「相撲のまち糸魚川後援会」が発足するという。糸魚川市相撲連盟事務局の河野大樹さんに話を聞いた。
「糸魚川はもともと相撲の盛んな土地で、さまざまな相撲関連の組織があるんです。その中心になっているのがNPO法人『糸魚川総合相撲クラブ』という組織で、主に市内の相撲に関する文化・伝統行事や青少年育成事業などを担当してきました。
当初の仕事はそのようなものだったんですが、海洋高校相撲部の卒業生の活躍が年々すごくなってきた経緯があって、これまでよりも広く、大きな目標を持った後援会組織をつくろうというのが、今回のNPO法人設立の理由です。
さまざまな企業や糸魚川市、糸魚川の商工会、そして海洋高校の能水会さんからも賛同を得て積極的に参加してもらうことになっています」
会の名前にも「相撲のまち糸魚川」とあるように、糸魚川は将来的に「相撲市」になるのでは?と聞いてみると。
「そうですね。相撲市にするというのはまだ聞いていませんが(笑)、今の久保田市長は海洋高校相撲部の活躍がどれほど価値のあることかをよくご存じです。糸魚川の持つ相撲という伝統をしっかりPRしていき、相撲を生かしたまちづくりを進めて市を活性化させていきたいと常に発言されています。
今回のNPO法人結成はそんな久保田市長のまちづくりを支えていく基盤になっていくのではと思います」
糸魚川では市全体で大の里、ひいては相撲を盛り上げようとする熱量が感じられた。みんなのこうした思いを胸にこれからも頑張れ! 大の里!!
取材・撮影/ボールルーム 写真/時事通信社(土俵入り)