身に覚えのない風評被害で「内定辞退」が急増…企業が”ネットの評判だけ”で深刻なダメージを受ける理由

　‘25年2月、大阪市内のすき家の店舗でお茶が入ったピッチャーに直接口をつけて飲んだとして、5月13日付けで16歳の少女2人が威力業務妨害の疑いで書類送検された。こうした外食テロで特に大きな影響を与えたのが、’23年1月に岐阜県のスシローで発覚した通称“スシローペロペロ事件”だろう。
◆企業に大ダメージを与えるネット上の風評被害

　10代の客が醤油差しをなめるなどの迷惑行為を動画で撮影してSNSに拡散したことで、スシローのイメージが大きくダウン。株価が大きく下落し、時価総額は一時168億円の損害を受けたという。

「インターネットやSNSの書き込みが企業に与える影響は計り知れません」と訴えるのは、ネット上の風評被害対策・評判管理を行うブランドクラウドの叶野雄与氏。

「当社は13期目になりますが、創業当時は『ネットの情報なんて誰が信用するんだ』『そんなの気にしなくていい』と言われることが少なくありませんでした。

しかし、SNSが普及して誰もが情報を発信しやすくなったこともあり、相談件数は年々増えています。1年前と比べても、5〜6倍になりました」

◆“ブラックな会社”と勘違いされた結果…

　風評被害の中には、いいニュースが間違って伝わったことで起こるケースがあるとも。

「当社が相談を受けた中には、“ブラック◯◯”という社名の会社と業務提携を行ったことで、思わぬ風評被害が発生した会社があります。

　本来はポジティブなニュースになるはずが、“ブラック”の部分だけ広まってしまい、検索エンジンにその会社の名前を入力すると、 “会社名　ブラック”と表示されるようになってしまいました。

　その結果、面接などで『ブラックなんですか？』と聞かれることが多くなり、内定の辞退者が増えてしまったそうです」

　では、どのようにして企業のイメージを回復させるのか。

「我々は検索エンジンで正しい情報やその会社にとってポジティブな情報を上に表示させることができる技術を持っています。間違った情報やネガティブな情報を表示されにくくすることで、“ブラック”という誤った認識がなくなり、内定者の数は回復したそうです」

◆トラブルを起こした会社をサポートすることも

　ブランドクラウドでは、実際にトラブルを起こして炎上した会社や個人をサポートすることもあるという。

「たとえば、前の経営者が逮捕されて経営の再起を図ろうとしている会社から相談を受けることがありますね。社長を代えたのに、“会社名　社長”で検索すると“逮捕”と表示されてしまい、不祥事を起こしたイメージを払拭できないのでなんとかしてほしいと。

　こういったケースの場合は、取引をしても問題がない会社なのかを厳しくチェックしたうえで、立て直しにお力添えできるようであれば相談を受けるようにしています。とはいえ、情報操作を行い、“あったことをなかったことにする”のはできません。

　事件のニュースなどはネットに残ってしまうので、“会社名　社長”と検索したときにネガティブな情報が表示されないように、“社長交代”や“新社長の経歴”といったポジティブな情報で上書きするようにしています」

　個人から相談を受けたときも、刑を終えて社会復帰を目指しているケースではサポートを行う場合もある。

「日本にはありませんが、EUでは検索エンジンやSNSなどから、個人に関する情報を削除、または検索結果から除外することを求める“忘れられる権利”が認められています。

　個人から相談されたときは、社会復帰の妨げになるような嘘の情報や誇張された情報が表示されないようにするケースもあります」

◆炎上しないために風評被害対策を

　これまで紹介したケースは、実際に起こった風評被害や事件に対するケアだったが、炎上しないように対策している会社が増えていると指摘する。

「当社のサービスの名前が風評被害クラウドなので、事件や事故が起きてから相談に乗るケースが多いと思うかもしれませんが、そういったケースは実は全体の2〜3割程度。

　いまはネガティブな情報や誤った情報を把握し、トラブルが起こる前に対策をしている企業のほうが多いです。この手のトラブルは、後手に回るほど沈静化させるのが大変です。

　風評被害対策をしっかり行うことでネガティブな情報が見えにくくなり、広告やPRの費用対効果を高めることもできるので、力を入れる企業が増えてきています」

【黒田知道】