
会社員のAさんは、長期休暇を利用して実家に帰省していました。先日亡くなった父親の遺品整理をするためです。厳格ではあったものの深い愛情を注いでくれた父親の遺品に触れるたび、過去の思い出に浸っていました。
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遺品整理も終盤に差し掛かった頃、押し入れの天袋の奥に、これまで見たことのない古びた桐の箱が置かれていることに気づきました。ほこりを払って箱を開けてみると、隙間なく詰められた旧一万円札(聖徳太子の肖像画が描かれている札)の束があったのです。その総額はなんと500万円にもなりました。
最初は「父親が自分のために残してくれたのか」という感謝の気持ちで、胸がいっぱいになりました。しかし冷静になるにつれて、次から次へと現実的な疑問が湧き上がってきたのです。これだけの現金をいきなり銀行の窓口に持っていったら、不審に思われて警察や税務署に通報されてしまうのではないかという不安がよぎりました。
さらに、すでに他の預貯金などと合わせて相続の手続きを終えていたAさんは、この現金の部分をどのように申告すれば良いのか見当もつきません。申告が漏れていたとなれば、後から重いペナルティを課せられるかもしれません。Aさんはどのようにすればいいのでしょうか。正木税理士事務所の正木由紀さんに話を聞きました。
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200万円を超える金額は資金の出所や目的を聞かれる場合も
ー多額の旧札を金融機関の窓口に持ち込んだ場合、どのような対応をされるでしょうか。
旧一万円札は現在も法律上有効な紙幣であり、額面通りの価値があります。そのため、金融機関の窓口で現在流通しているお札に交換してもらうことが可能です。
ただし、金融機関は「犯罪による収益の移転防止に関する法律」に基づき、200万円を超えるような高額な現金の取引の際には、本人確認書類の提示を求め、資金の出所や取引の目的などを確認することが義務付けられています。
Aさんの場合500万円という金額ですので、窓口で担当者から「このお金はどうされたものですか?」といった質問を受けるでしょう。その際に慌てずに「亡くなった父の遺品整理をしていたら見つかった相続財産です」と正直に説明することが重要です。不自然な説明をしてしまうと、かえって疑念を抱かれ警察や税務署へ通報される可能性も否定できません。
ーAさんは税務署から調査を受けるでしょうか
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税務署は「国税総合管理(KSK)システム」という強力なデータベースを活用しており、亡くなった方(被相続人)や相続人の過去の収入、財産の状況を詳細に把握しています。この情報に基づき、申告された相続財産が不自然に少ないと判断した場合などに税務調査が行われます。
この場合でいうと、相続人であるAさんの預金口座に多額の入金があると、その資金の出所について税務署が関心を持つ可能性があります。
ー相続手続きを終えているAさんはどうすればいいでしょうか
Aさんはすでに相続税の申告を終えられているとのことですので、「修正申告」という手続きを行う必要があります。これは当初の申告内容に誤りや漏れがあった場合に、正しい内容に訂正して改めて申告する手続きです。
税理士などの専門家に相談の上、新たに見つかった現金500万円を遺産総額に加算した正しい内容で相続税の修正申告書を作成し、税務署に提出することをおすすめします。自主的に申告すれば、ペナルティである「過少申告加算税」が免除される可能性が高いです。
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本来の納期限から遅れて納付することになるため、その期間に応じた「延滞税」がかかりますが、負担を最小限に抑えるためにも、一日でも早く修正申告を行うことが最善の策です。
◆正木由紀(まさき・ゆき)/税理士 10年以上の税理士事務所勤務を経て令和5年1月に独立。これまで数多くの法人・個人の税務を担当。現在は、社労士や司法書士ともチームを組み、「クライアントの生活をより充実したものに」をモットーに活動している。私生活では2児の母として子育てに奮闘中。
(まいどなニュース特約・八幡 康二)
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