
自分の都合で仕事を辞めた経験がある人のなかには、職場への申し訳なさを今も引きずっている人もいるのではないでしょうか。そんな心情に静かに寄り添う漫画家・オオカミタホさんの作品『6年勤めた仕事を、辞めた』がX(旧Twitter)に投稿されました。
6年勤めた会社を仕事のストレスからくる心身の不調で退職したみずほ。引き継ぎは最低限しかおこなわず逃げるように会社を辞めてしまったことから、みずほは会社への裏切りをおこなった罪悪感を抱いていました。その罪悪感から、自分の業務を引き継ぐことになった春野に対しては、まともに顔を見る事すらできないほどでした。
そして退職から2年後、みずほはフリーランスのグラフィックデザイナーとして再出発します。そんなある日偶然入ったカフェで、2年前に仕事を引き継いだ春野さんとばったり再会することに。みずほは動揺しつつも、大変な業務を押し付けてしまったことを謝ります。しかし春野は「私、あの業務結構好きですよ」とまさかの言葉を返しました。
みずほが苦しみ続けていたその仕事は、春野にとっては「自分に合っている」と思える仕事だったのです。その瞬間、みずほが2年間抱えてきた自責の念がふっと和らぎ、思わず涙がこぼれます。最後に春野は、元の職場の人たちが今もみずほのことを気にかけていることを伝えてくれ、ようやく心の雪解けを感じるのでした。
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前の職場への罪悪感が、ふとしたきっかけから消えていく様子を描いた同作について、作者のオオカミタホさんに話を聞きました。
「向き不向き・受け取り方」には個性がある
ー本作を描こうと思われたきっかけを教えてください。
オンライン漫画スクール「コルクマンガ専科」の課題で描いたのがきっかけです。「スッキリ」がテーマで、2〜4ページの作品を描く課題でした。ネーム(下書き)での提出が可能だったので、少し荒削りではありますが、過去の自分の体験をもとにフィクションとして描きました。
私自身も、5年以上勤めた会社を心身の不調で退職しました。少人数の会社だったこともあり、新卒の方に仕事を引き継いで辞めたときは、申し訳なさや罪悪感が大きく、当時はすごく自分を責めていました。今振り返ると、ひとりで勝手に抱え込みすぎていたのかもしれません。
ー本作を通して、オオカミさんが読者に伝えたかったことはどんなことですか?
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「向き不向き」や「物事の受け取り方」には、個性があるということです。仕事が辛いと感じる人のなかには、「努力が足りないのでは」「前向きになれない自分が悪い」と思い詰めてしまう方もいるかもしれません。でも自分に合った仕事や働き方は必ずあると思っています。
また自分が苦しいと感じた仕事でも、誰かにとっては楽しい仕事かもしれませんし、その逆もある。なかなか難しいのですが、人と自分の違いを前向きに捉えるきっかけになれば嬉しいです。
ーこのエピソードのように、「時間が経ってから報われた」と感じた経験はありますか?
少し違うかもしれませんが、悩みやコンプレックスを抱えているとき、ふと図書館で手に取った昔の本に心を救われたことがあります。顔も知らない作家さんの、大昔の言葉に勝手に励まされるような感覚。「時間や場所を超えて報われた」と感じた瞬間はたまにあります。だからこそ、時間が経ったり、思いがけない瞬間だったりに心が報われることって、たしかにあると思っています。
(海川 まこと/漫画収集家)
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