画像生成AI活用で賛否、ゲーム「神魔狩りのツクヨミ」は“成功”したのか──金子一馬氏&開発Pに手応えを聞いた

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2025年06月29日 12:10  ITmedia NEWS

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 「実は、(開発を始めた)最初の方はAIの利用に反対する世間の動きもあり、結構ビクビクしていました」──生成AIを取り入れたコロプラのゲーム「神魔狩りのツクヨミ」(じんまがりのつくよみ)について、同作を手掛けるゲームクリエイターでイラストレーターの金子一馬さんと、開発プロデューサーの齋藤ケビン雄輔さんはこう語る。


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 神魔狩りのツクヨミは5月7日にリリースしたダンジョン探索型カードゲーム。特徴は画像生成AIを活用し、「真・女神転生」「ペルソナ」シリーズに携わってきた金子さん風のイラストを作成する仕組み「AIカネコ」だ。


 発表当時は、大手ゲームメーカーが画像生成AIを本格的に活用する例が少なかったこともあって、SNSでの前評判が賛否両論だった同作。リリースから2カ月弱がたった現在、果たして同作はどのような状況にあるのか。2人にゲームの現在地を聞いた。


●自分だけのカードをAIが生成 「神魔狩りのツクヨミ」の特徴は


 神魔狩りのツクヨミはiOS/Android/Windows(Steam)向けにリリース。App Storeでの評判は星4.7(レビュー数約6400件)、Google Playでは星4.5(レビュー約6100件、ダウンロード数は5万超)と比較的高評価だが、Steamのユーザー評価は「賛否両論」(レビュー数は約200。いずれも6月20日時点)となっている。取材に合わせてダウンロード数などユーザー規模についても聞いたが、コロプラは回答を控えた。


 プレイヤーは国家を守る組織「ツクヨミ」の一員として、異形の存在「神魔」に占拠されたタワーマンションを、味方にした神魔の力を借りながら進んでいく。神魔との戦いはカードゲーム形式で進む。プレイヤーは自らが従える神魔の力をカードを通して使い、敵を倒したり、カードを強化したりして高層階を目指す。基本無料で遊べるが、一部アイテムは有料で提供している。


 個性的なのは、AIカネコが生成したカードをゲーム内で使える点だ。ゲームでは、ツクヨミを支援する偽の神「オオカミ」が、プレイヤーの行動に応じてオリジナルのカード「創成札」を作成し、支給してくれる。カードのイラストはAIが都度生成。毎回異なるものが生まれるため、自分だけのカードが手に入る。


 自動生成されたカードは公式が採用する可能性もある。プレイヤー投票や、コロプラが定期的に主催するコンテストで選出。選ばれたイラストはリファインされ、他のプレイヤーも使えるカードとしてゲームに登場する仕組みだ。


 一連の情報は、発表からリリースの間にYouTubeでの配信やβテスト、ゲームメディアからの発信といった形で広がったが、当初SNS上での賛否は割れていた。当時は生成AIの利用に対して拒否感を示す声もあれば、斬新なゲームシステムだと評価する意見も見られたが、現在プレイヤーからの反応はどうなっているのか。2人に詳しい話を聞いた。


●「最初はビクビクしていたが──」リリースから2カ月弱、ゲームのいま


──リリースから2カ月弱がたちましたが、現在の率直な気持ちを教えてください


金子さん(以下敬称略):実は、(開発を始めた)最初の方はAIの利用に反対する世間の動きもあり、結構ビクビクしていました。ただ、出来上がったころにはAIが一般的になっており、リリース後はすんなり受け入れられたと思っています。(イラストのオリジナルを作る)私が、コロプラの社員としてOKを出しているというのもあるかと思いますが。


齋藤さん(以下敬称略):自分も同じような受け止め方です。リリース前は「AIを使った」という話題だけが盛り上がってしまい、ゲームそのものに目を向けてもらえない事態を恐れていたのですが、あくまでAIを道具として使ったゲームとして受け入れてもらっており、安心しました。


 プレイヤーからすると、AIを使っているかどうかは(面白さとは)関係なく、それで面白くなるのか、AIを使った意義があるのかが大事です。一方で、そこをクリアすればプレイヤーに納得してもらえることも分かりました。そこが一番の収穫ですね。


──金子さんにお伺いします。自分の創作物を模したものが、AIにどんどん作られているという状況は、素人目には不思議にも思えるのですが、どのような心境で受け止めているのでしょうか


金子:(AIカネコは)もう別人格って感覚ですね。自分のデータを入れたものではあるけど、俯瞰(ふかん)して見ているというか。純粋に楽しんでいます。


──ゲームは事前に何かしら定量的・定性的な目標を定めてリリースしたと思いますが、現時点での達成状況はいかがでしょうか


齋藤:(神魔狩りのツクヨミを)コロプラとして今後AIを使ったゲームを作っていくべきかのベンチマークとしても見ていることもあり、第一目標として定めていた「AIを使ったゲームが世に受け入れられるか」はクリアしたかなと考えています。プレイヤー数や売上については、達成しているところもあればそうでないところもあるのですが。


●活用したモデルや手法は? ゲーム開発の裏側


──改めて、神魔狩りのツクヨミがどのような背景で生まれたか、どのように画像生成AIを活用しているかお聞かせください


齋藤:神魔狩りのツクヨミは金子さんが独自に考えていたゲームのコンセプトと、それとは別に動いていた、生成AIを使ったゲームの企画が合体する形で生まれました。AIカネコといったアイデアは最初からあったわけではなく、企画の途中で「金子さん風のカードイラストを(生成AIで)作るのがいいね」という話になり、今の形になっていった次第です。


 AIカネコは、画像生成AIモデル「Stable Diffusion XL」をファインチューニングする形で開発しています。まず、金子さんがコロプラで描いたイラスト数十点を学習させたモデルにイラストを生成させ、それを選定してさらにデータセットに加え──という流れを過学習にならない程度に繰り返しました。


──意図しない画像が出ないようにする対策はどのように


齋藤:意図に沿わない画像が出てきた場合どうリカバリーするかは、学習段階からユーザーに届ける段階まで、事前にフローを考えて設計しました。


 基本的にはデータセットの影響が大きいので、データ側の整備やタグ付けなどで対応しました。とはいえ完全に防ぐのは難しいので、生成した画像を後からチェックし、(意図に沿わないものをプレイヤーに見せないよう)はじく仕組みも設けました。それでも出てきてしまう場合は、プレイヤーからの問い合わせを受け付けて対応しています。


──コロプラではGitHub Copilotなどをすでに導入していますが、他に生成AIの活用は


齋藤:画像生成AIはAIカネコだけでなく、(ゲーム内の)デザインの案出しにも使いました。Stable Diffusion以外の画像生成AIも使いましたね。実際には採用しませんでしたが、サウンドエフェクトやBGMに音楽生成AIを使えないか検証もしました。


●「生成AIで何でもやらない方がいい」 得られた気付き


──神魔狩りのツクヨミを開発・運用で工夫した点は


齋藤:実は「Brilliantcrypto」というブロックチェーンを活用したゲームでも生成AIを部分的に取り入れており、多少知見がある状態でした。AIを呼び出す頻度や、生成をリアルタイムでやるのか、事前にやるのかでコストや体験がかなり変わることが分かっていたので、どこを同期的にしてどこを非同期的にするかはかなり考えました。


──例えば創成札のイラストは、プレイヤー視点だと“ガチャ演出”のようなものの最中に、リアルタイムで生成しているように見えますが


齋藤:必要な情報がそろうのは、創成札を作るときではなく、それ以前の敵を倒したタイミングなので、実は演出に先行して生成を始めています。ユーザーに生成を待ってもらうのは、演出としていい部分もあるんですが、長時間待たされるのはゲーム体験としては良くないので。


 一方で、AIが生成するイラストのクオリティーと高速化との案配について議論と検証を重ねました。基本的により良いものを出そうとすればするほど1枚を作るのにかかる時間やコストが増えていくので、せめぎ合いがありました。


──試したもののボツになったアイデアはありますか


齋藤:敵のせりふをAIで都度生成し、ランダムな会話ができるようにすることも考えたのですが「これは面白いのか……?」となり……。何回も繰り返すとどうしても世界観から外れたせりふが出てくるなど、粗も出だしたので、人の手でやることになりました。


金子:生成AIでできることは全て試してみたくて、神魔の名前や性格をAIで設定するなど、想像できる範囲のことはやってみました。ただ、実際にやってみると意外と面白くないことが多いんですよね。


齋藤:神魔狩りのツクヨミに限らず、AIを使ったゲームを検証する中で多かった話なんですが「数回遊ぶ分には面白いかもしれないが、何時間も遊ぶときにリプレイ性が担保できるのか?」は課題になりがちでした。


 生成AI(のゲームにおける利点)はランダム性だと思っているんですが、収束させればさせるほどAIである必要性がなくなっていくんですよね。


金子:みんな「AIだったら何でもできそう」と思っているんですが、逆にAIで何でもやらない方がいいというか。例えばAIを使って、NPCが自我のようなものを持っているオープンワールドゲームも作れるとは思うんですが、それは実生活とあまり変わらなくて、むしろ辛くならないかと(笑)


──開発当時と現在で、生成AIの性能も大きく変わっていると思いますが、気になるサービスや、試してみたい使い方は


齋藤:画像生成AIについていえば、精度が大きく上がっていると思います。今までだと難しかった、文字を含む画像の生成もできるようになりつつあるので、イラストだけでなくUIにAIが使えないか考えています。


 あとはイラストのアニメ化や動画化ですね。やはりゲームの体験としても動きは重要なので、どれだけAIを取り入れられそうかは注目しています。


金子:Veo 3(Googleの動画生成AI)とかすごいですよね。「神様を描いてみました」みたいな人もいるし、それでもうけようとしている人もたくさんいるし。ぶっちゃけ競合ですよね。向こうの方がすごいこともあるし、頑張らないとなと。


──最後に今後のアップデートについて、差し支えない範囲で教えてください


齋藤:今月末にプレイヤーキャラクターとして「満月」「半月」を追加する他、オオカミが作るカードが持つ効果のバリエーションも増やす予定です。


──ありがとうございました



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