【インタビュー】「やっぱり楽しいな、サッカー」 水沼宏太「原点」に戻れた35歳の海外初挑戦

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2025年06月29日 17:51  サッカーキング

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インタビューに応じてくれた水沼宏太
 2025年1月、自身初の海外リーグ挑戦としてオーストラリア、Aリーグのニューカッスル・ジェッツへ移籍した水沼宏太。

 横浜F・マリノスをはじめ栃木SC、サガン鳥栖、FC東京、セレッソ大阪でプレーし、J1、天皇杯、リーグカップという日本の主要タイトルを獲得。日本代表としてもプレー経験を持つベテランが、35歳になる年になぜ海外でのプレーを選んだのか。

 約4カ月間のプレーを振り返ってもらうとともに、今どんな思いでサッカーと向き合っているのか、家族との生活、そして1年間の契約延長を決めた理由などを語ってもらった。

インタビュー=小松春生

―――初の海外挑戦となった半年はいかがでしたか?

水沼 望んでいた海外での経験でしたし、まずは「来れてよかったな」と。自分の知らない世界に飛び込み、どれだけ自分が成長できるかを知りたかったので、すごく充実した、めちゃくちゃ楽しい4カ月間でした。

―――改めてオーストラリアでプレーするに至った経緯を教えてください。

水沼 日本でのタイトルがすべて取れ、日本代表にもなり、その中で自分の経験として、海外でのプレー、また違った成長をしたい思いが、ふつふつと湧いてきました。2022年にリーグ優勝した後くらいから強く思いはじめ、やっと叶った形になります。もっと早く行きたかった部分もありますが、海外への気持ちを持ちながらプレーできたことも含め、このタイミングでオファーをもらえてよかったです。



―――場所や国などはあまり関係なく決めたと。

水沼 そうですね。とにかくオファーをいただいたところが大きくて。必要としてくれるクラブ、それが海外ということもそうですし、自分の知らない世界に飛び込むことを含めて決めました。

―――プレー面はいかがでしたか? 出場12試合2得点4アシストという数字を残しました。加入2試合目から3試合連続アシスト、5試合目で初得点と最初から結果も出ました。

水沼 最初が肝心だと思っていたので、とにかく最初のインパクトは意識していました。積み上げてきたものがあるチームに入っていくこともたくさん考えながら、周りのサポートや一緒に戦ってくれるチームメイトも助けてくれて、感謝しています。自分の力を発揮すればいいという環境にしてくれました。

―――海外でプレーしている日本人選手は口をそろえて、「とにかく最初が大切」と言います。水沼選手も国内での移籍を多く経験してきた中で、そこは意識していましたか?

水沼 Jリーグの時、外国から来た選手たちの最初のプレーは気にしていました。今は僕が外国人として行っている中で、やはり最初のインパクト。自分はどんな人間、選手なのかを周りに知らしめることが大事だと思っていました。例えば日本語でもいいから最初から声を出して、「こいつは本気でチームを変えたい、強くしたい気持ちで来ている」と思ってもらうことが大事ということもすごく意識していました。

―――こちらが本気でぶつかるからこそ、相手側も受け入れるマインドになれると。

水沼 そうです。自分から声をかけ、どういう選手なのかを伝え、「俺はお前のことをこう思っている」と伝えることで生まれる信頼関係があるということは、オーストラリアに行ってわかったことですし、意識して行ってよかった部分の一つでもあります。



―――Aリーグのレベルはいかがでしょう?

水沼 A代表が先日、日本に勝ちましたが、世代別代表でも最近は日本に勝っていますし、ポテンシャルが大きく、可能性がある国だと思っています。日本と違った良さが組織、個人の面ともにあるので、一概にレベルがどうと表現することは難しいですね。さらに成長する可能性を感じたり、逆にオーストラリア人たちの大胆さなどを自分がもらうことで、まだ成長できる気持ちにさせてくれたり。レベル感がどうということは、自分で受け取っていなかったので、どちらもそれぞれの良さがあると思っています。

 戦い方は組織的なチームもあれば、行ったり来たりでやるチームもあります。ただ、どちらかというと試合開始から「どんどん行け!」となるリーグではあると思います。それはそれで自分の良さであるキックの部分などが生かされるので、個人としてより繊細さが求められるし、そのクオリティも高められる印象です。

―――キックの精度は水沼選手の武器の一つですが、チームもそこを求めていたんですね。

水沼 そこは一つあります。チームとしてはサイド攻撃を常に狙っていて、自分がクロスを上げられる状態に持っていきたいと考えている点を含め、すごくマッチしていたので、自分のことを本当によく知ってくれた上で獲得してくれたとよくわかりました。

―――Aリーグでプレーする日本人選手も増えました。水沼選手や酒井宏樹選手(オークランドFC)のような代表経験者もいれば、若い選手もいます。

水沼 Jリーグを経験している選手たちが活躍できていますし、宏樹が今シーズンの最初から行って、僕は途中から行って、日本人が活躍して、「日本人、すごい」と思ってもらえるようなシーズンではあったかもしれません。

 ピッチ内外で、日本人の良さをすごくリスペクトしてもらっている部分があって。細かい気の使い方、空気の読み方ですね。「こうなった時、こうした方がいいんじゃない?」と感じ取ってあげる点は、日本人のいいところだと思うし、器用さもそうですし、そこは日本人ブランドとしてあるかもしれないと、行ってみて感じました。

 こちらが真剣に向き合っていれば相手にも伝わるし、感じ取ってくれる。自分のチームは若いから余計にそれを感じ、リスペクトしてくれています。そこはすごく助かりました。自分がやってきたことは世界でも共通というか、リスペクトしてくれると思いましたし、日本人としてやっていることが間違いではないと思いました。



―――生活面はいかがでしょうか?

水沼 ニューカッスルはシドニーから北に2時間くらいの場所で、田舎過ぎず、都会過ぎず、すごくゆっくりと時間が流れ、スローライフを送るような街です。ビーチと街が一体となっていて、治安もいいですし、住みやすいです。ニューカッスルがどんな場所かは、オファーを受諾してから調べたんですが(笑)、本当によかったです。神奈川県で言えば逗子といったイメージです。すぐに街を1周できるくらいのちょうどいい場所です。

―――ご家族もいる立場になってからの初の海外生活なので、その意味でもチャレンジです。

水沼 家族はいつでも「行きたいなら、行った方がいい」と思ってくれているので、心強い後押しがありました。車で2、3分のところにビーチがあるので、練習後、娘と一緒に行って、海に足をつかってみたり、砂遊びをしているので、子どもにとってもいい経験だとは思っています。

―――親の転勤のようなもので、子どもはついていかないといけないと言える状況でもあります。父親としての思いはいかがでしょうか?

水沼 娘にも頑張ってもらっているところが絶対にあります。その中で、少しでも楽しいと思ってくれたらうれしいですし、英語も少ししゃべれるので、その姿を見ると親として感動する部分もあります。逆に勇気をもらって「俺もやるぞ」という気持ちにもさせてもらっていますし、すごくいい環境に来られたと改めて思っています。

―――移籍後、Voicyでの音声配信をスタートするなど、ご自身で発信する量が増えました。リアルな今の声を伝えたい思いが強くなったのでしょうか?

水沼 自分の思っていること、情報が日本にいた時よりも伝わりづらく、どうにかして自分の口、文章で伝えたいことがあって。なぜだろうと考えた時、もちろんJリーグでも楽しかったですけど、改めて「やっぱり楽しいな、サッカー」とオーストラリアに行って思ったんです。自分が楽しいと思えるサッカー、それ以外も含めて、この気持ちを伝えたいと。でも、自分が発信していかないと届かないことは、この4カ月でわかったので、いろいろな媒体を使いながらやっています。

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―――サッカー選手として、原点回帰をしたような感じですね。

水沼 間違いなくそうですね。これまでにマリノスをはじめ、いろいろなチームを経験しましたが、恵まれていた部分がたくさんあって。自分の経験で言えば、今は栃木時代のような感覚です。環境はあまり整っていないけど、自分で準備をして、とにかくサッカーのために頑張る。試合前に靴を磨いて、「これを試合で履くんだ」というワクワクもそうですし、いろいろな部分で自分の原点と言いますか、「昔はこうだったよな」と思えるんです。そして、それを35歳で思えることはなかなかないですから。

―――その年齢になり、海外のクラブで改めて感じたと。

水沼 恵まれている場所、居心地のいい場所にいたい気持ちもわかりますが、自分はそうではない考えで生きてきた部分があるので、新たなところにまた身を置いて、「昔から全部つながっているんだ」という気持ちにもさせてくれるし、今は心も充実しています。

―――先日、契約延長が発表されました。クラブからのコメントでも経験をチームに還元してほしいとありました。

水沼 もちろん上をまだまだ目指したい部分はありますが、やっと掴んだ海外移籍でしたし、オファーしていただいたジェッツに評価してもらい、自分の持てるものを還元して、もっともっとみんなと一緒に成長したいこと含め、来シーズンもやることに決めました。

 来シーズンは監督が変わりますが、クラブから求められることは、自分に合っていると思っています。ジェッツは若いチームです。自分の経験をチームに伝え、僕もチームと一緒にまだまだ成長する、持っているものすべてを出すことが求められていたので。自分に要求される役割として、日本でもベテラン選手には「経験を伝えてほしい」と言われますが、それを海外でできるなんて、こんなにうれしいことはありません。自分の持つものを自信を持って体現できる場所、それが海外だというところも含めて、やりがいばかりです。海外でもっと大きく成長できるというところも含めて、ワクワクしたものがすごく強かったです。



―――AFCチャンピオンズリーグ(ACL)の舞台に戻りたい気持ちはありますか?

水沼 ACLに出られるリーグので、そこは必ず行きたいですね。個人としてACLはこれまで40試合くらい出ていますが、海外の選手たちと試合することが、どれほど刺激的かわかっています。自分の価値も高められるし、所属しているチームの価値も高められる。すごく大きな舞台です。FIFAクラブワールドカップもその先にあって、一つの目標として出たい気持ちもありますし、やるからにはそこを目指したいです。

―――年齢としてはコンディションの部分で維持、向上が大変になる部分もあります。

水沼 ジェッツでは最後の5試合をほぼフル出場しました。公式戦で出続けることは、自分の体の維持や成長の意味でも、ものすごく大きなことです。その中でより楽しめましたし、まだまだという気持ちを維持してやることは大事です。やり切れるところまでやりきりたいですし、そこから見えてくるものもあると思うので、そこからまた考えたいですね。一方で、いつかプロ選手を辞めた時に何もできない状況ではいけないので、サッカー教室をやってみたり、Voicyで話すこともそうですし、自分のできることを増やす、スキルアップをしたいです。指導者としても、ライセンスは現役選手として取れるところまでは取りました。とにかく全力でやっていれば何かが起きるということは、今まで自分が体験してきたことでもあるので、これからのことは何でもできるよという状態にしておけばいいと思っています。

―――純粋にサッカーに向き合いつつ、貪欲に何でも吸収、成長する意欲にあふれていますね。

水沼 自分の根本にあるものは「何に対してもとにかく成長したい」ということです。それがなければ、オーストラリアにも挑戦していないし、居心地のいいところにいたかもしれません。とにかくまだやりたい、もっともっとできることを増やしたい。サッカーでもそうですし、成長したいということが根本にあるので、現状維持が嫌なんです。それがパワーになっています。

―――それがプロということでもありますね。

水沼 そうだと思います。それがなくなったら、別にサッカーをやる必要はないですし、我慢することなく、好きなようにやっていればいいので。だからこの気持ちがある以上、やり続けたいと思います。

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