NVIDIAのジェンスン・ファンCEO(COMPUTEX TAIPEI 2025) まさにジェンスン・ファンと水冷の祭典だった。5月20〜23日の間、台湾・台北で開かれたアジア最大級のIT見本市、COMPUTEX TAIPEI 2025。例年にも増して「アツイ」イベントになった。言わずと知れた半導体大手、NVIDIAのCEOを務めるファン氏。台湾出身ということもあり、COMPUTEXでは毎回大スターだ。彼が行くところは常に黒山の人だかり。台湾のテレビニュースでも、会期中はトレードマークの革ジャンを着たファンCEOの姿が、常に登場。彼の一挙手一投足に注目が集まった。
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NVIDIAのGPU(画像処理エンジン)、GeForceシリーズは、グラフィックボードなどに搭載するGPUとして大きなシェアを誇る。このGPUがAI処理にも有効とあって、最近では注目度とともに株価もうなぎのぼりだ。今年のCOMPUTEXのテーマは昨年に引き続きAI。昨年が、さしずめAI元年とすれば、今年はAI実用元年。「使えるAI」の活用例が随所に示され、AIの浸透が急速に進んでいることをアピールする展示会になった。その中心人物の一人がファンCEOだ。会場を歩くとすぐ見つかるのがファンCEOのサイン。ジェンスン登場の証だ。主だったブースの目玉展示には、必ずと言っていいほど彼のサインがあった。
もう一つ今年のCOMPUTEXで「これでもか」と展示されていたのがサーバー用の水冷システムだ。どこもかしこも水冷、水冷のオンパレード。サーバー関連展示の主役だった。データセンターが単なる「データの倉庫」から、新たな価値を創造する「AI工場」に激変すると、発熱の問題は避けて通れない。水冷でなければ間に合わなくなる。AI活用が急速に拡大するのを見越しての水冷システムだ。これまでサーバールームと言えば、年中肌寒い室内で盛大にうなりを上げる無数のファンの音、というのが定番だった。しかし、データセンターの主な役割が、データの蓄積からAI処理に激変すると、その様子も変わってくる。静かなフロアに無数の水冷用パイプ。屋上には熱を逃がす室外機という具合だ。
データセンターと言えば、千葉県印西市や流山市、東京都では昭島市などで、建設反対の運動が起きている。しかし、有害物質を垂れ流す恐れはなく、無数のコンピューターが動き続けるだけの建物。特に人体に有害な要素は見当たらない。騒音や振動と言っても、ショッピングセンターの空調機器が発する程度のもの。盛大に電力を消費することを別にすれば、今のところ、取り立てて大きな問題はなさそうに見える。強いて問題点を挙げるなら、日照権や景観などの問題。これなら、他の建物であっても同じで、データセンター特有の問題ではない。
データセンターという「中身がよくわからず得体の知れないもの」を忌避するという気持ちは理解できなくもない。それゆえの反対運動という側面もあるのだろう。とはいえ、基本的に反対運動は大げさな話だと思っていた。しかし、COMPUTEXの水冷祭を目の当たりにして、ちょっとした恐怖を感じ始めている。「いったいどれだけ熱くなるんだ」と。例えば、物理的な動きを伴うエアコンや車なら、利用にはおのずと限界がある。夏、暑いからと室温をマイナスまで冷やす必要は全くないし、車で移動するとしても、一人で24時間以上運転することはできない。一方、物理的制約が極めて少ないのがITの世界。あらゆる処理にAIが挟み込まれるようになると、ニーズの爆発はどの程度まで広がるのか、想像を絶する。人間の欲望にはきりがない。いずれは何らかの規制を検討する必要に迫られる事態も起きるだろう。
現時点で繰り広げられるデータセンターの反対運動は、そうした近未来を本能的に感じ取ってのことなのかもしれない。AI利用が加熱することで、夏の暑さがさらに厳しくなるようなことだけは勘弁願いたい。(BCN・道越一郎)