サントリーが、プレミアムビール「ザ・プレミアム・モルツ マスターズドリーム」のさらなる認知度向上を図っている。
4月、麻布台ヒルズで期間限定のビールバー「MASTER’S DREAM RISING BALL BAR」をオープンした。
マスターズドリームは2015年3月に販売を開始したビールだ。若者を中心にビール離れが進む中、今後の販売戦略をどう考えているのか。
サントリーのビール・RTD本部プレミアムビール部の竹腰周平氏と、同社宣伝部の足立梨紗氏、サントリーホールディングス広報部の松野良輔課長に聞いた。
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●世代が下がるほど「ビールを買う」割合が低下 どう対応する?
マスターズドリームは、効率や生産性ではなく、素材や製法にこだわり、おいしさだけを追い求めた醸造家の夢のビールだという。苦味、コク、甘み、芳ばしさのバランスが特長で、原料にはダイヤモンド麦芽や天然水を使用。サントリーの独自技術「アンサンブルマッシングテクノロジー」も採用している。
醸造家は常に最高のビールをつくろうとしているものの、彼らを取り巻く環境は甘くない。国税庁課税部酒税課が2022年3月に公表した「酒のしおり」によると、「酒類課税移出数量の推移」ではビールの数量が減少。「ビールから低価格の発泡酒やチューハイ、ビールに類似した酒類(新ジャンル)に消費が移行している」と分析している。
新卒の採用支援サービスなどを手掛けるRECCOO(東京都渋谷区)は2023年9月、「大学生のビール離れ」をテーマにした調査レポートを発表した。「若者のビール離れ、実感ある?」の問いに、「かなりある」「まあある」の合計が48%に達したという。「居酒屋でアルコールを頼むなら、どれを頼むことが多い?」という質問には「レモンサワー」が1位で、「生ビール」は3位。Z世代には「とりあえずレモンサワー」が定着と分析しており、酒のしおりのデータを裏付けている。
●プレミアムブランドらしく量よりも質
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RISING BALL BARはマスターズドリームのこだわりを体感できるイベントとして開催した。これを記念して日本を代表する俳優の役所広司と『モテキ』『地面師たち』などを手掛けた大根仁監督が登壇した。同イベントを開催した意図を足立氏は語る。
「西洋の伝統技術と日本の革新の技術をもって『いいものをつくろう』と取り組み続ける姿勢を、日本のものづくりに携わる職人もマスターズドリームの開発に携わる醸造家も持ち合わせています。そのことをイベントで伝えられたらいいなと考えました。ターゲットは、日本のモノが世界に出て、挑んでいる姿にひかれる方です」(足立氏)
大根監督は「僕は監督として細かくて、役者の演技一つ、映るもの全て細かいディテールまでこだわるタイプです。2024年にNetflixで配信したドラマではワンシーンに対して30〜40回ぐらい撮っていたと思います。こだわりという点で言えば、突き詰めれば突き詰めるほど良くなると信じています」と話した。サントリーの醸造家にも通ずる日本のものづくりへの価値観が感じられる。イベントでストーリーを伝えることで、消費者にアピールしたい狙いだ。
日本のウイスキーは今や世界に認められている。日本のビールについても問うと竹腰氏は「世界で1番(量を)売りたいかというと、そうではありません」と話す。松野課長は「例えば、ミシュランの星がついているレストランに行くと、マスターズドリームが飲めるという、第三者から評価をしてもらっている事実を伝える作業はしています」と補足した。
つまり、プレミアムブランドらしく量ではなく質で勝負していくスタンスだ。
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●プレモルとマスターズドリームの相乗効果で市場拡大
サントリーの看板ビール「プレモル」こと「ザ・プレミアム・モルツ」は「プレミアム」がついている以上、最上級の製品だ。マスターズドリームは「ザ・プレミアム・モルツ マスターズドリーム」なので、プレミアムという最上級の名前がついた上で、「醸造家の夢」という名前をつけた。論理的に考えると、プレモルは最上級のビールのはずなのに、マスターズドリームの下のような印象を受ける。
「私たちは、どちらがいいとか、上だ、とかいう考えを持っていません。両者はキャラクターも異なっていますし、お客さまのインサイトも違うと考えます。それぞれのブランドが自立し、相乗効果を生むことによって、マーケットを拡大できると考えています。ブランドの毀損(きそん)を考えずにビジネスを進めていますね」(竹腰氏)
両者は具体的にどう違うのか。
「プレモルはひとりの醸造家が世界最高峰のピルスナービールをつくりたい思いから誕生しています。その次の挑戦として、マスターズドリームは『JAPAN MONOZUKURI BEER』という合言葉を使っているように、欧州からの伝統的な製法を引き継ぎつつ、日本の革新的な技術を掛け合わせている商品で、お客さまの心を震わせるようなビールを目指して誕生したように出自が異なります」(竹腰氏)
●ブランド向上と値付けの難しさ
マスターズドリームの客層は、経済的に余裕がある40〜50代のシェアが少し高めだという。2020年の酒税法の改正は、改正以前は最も安い新ジャンルのビールとは49円の価格差があった。それが、段階的に価格差がなくなり、2026年には酒税の価格差はなくなる。この流れは、マスターズドリームのような高級路線のビールには追い風だ。
竹腰氏は「酒税は1本化しますが、ビール、発泡酒といったカテゴリーによる価格差は残っていくと考えているので、プレモルやマスターズドリームの位置付けは今とあまり変わらぬ状態を維持していくでしょう」と話す。
しかし価格という意味ではウクライナ侵攻など世界情勢の変化により、あらゆるところにコストアップの波が訪れている。今後もさらなる値上げがあると考えた方が自然だ。例えば、最高級ファッションブランドのエルメスであれば、値上げしても気にする人は多くない。マスターズドリームもさらに高級感を創出できれば、値上げに強いビールとなるはずだ。竹腰氏は「まさにそれがブランドとして、身につけないといけない部分です」と話す。
マスターズドリームは、350ミリリットルで270円(税抜)前後というプレミアムの価格帯だ。にもかかわらず販売する場所は、スーパーマーケットなどが中心となる。つまり1円でも安く買おうとする人が多い中、高級品を売らなければならない難しさがある。この顧客心理を踏まえながらどう販売するのか。
竹腰氏は「実は、課題と感じているところはそこです。ビールというカテゴリーは、乾杯用をはじめ、のどごしの良さを意識されているイメージがまだまだ強いです。ビールにかける価格帯はこれぐらいというのが、お客さまの頭の中にあります。だからこそ5円、10円を大事にして選択されますね」と実情を話す。
松野課長は「消費の2極化が起きています。いいものにはお金をかける一方で、かけないときには、できるだけ安く済ませようとします。私たちはプレミアムビールの最高峰と思って提供していきたいので、設定した価格の価値をどう伝えていくかが本当に難しいところです。お客さまとコミュニケーションをしながら、いろいろとトライしていくしかないと思っています」と答えた。
●背景を知ってもらうことでおいしく感じてもらう
このようにマスターズドリームは、地道にブランド価値の向上に努めていることが分かった。足立氏は学生時代、陸上部に所属していてお酒自体が遠い存在だったそうだ。しかし、サントリーで宣伝の仕事をする中で、背景を知ると自然とビールがおいしくなったという。マスターズドリームがさらに飛躍するには、このビールのストーリーを知ってもらうためにお客との接点をどう増やし続けるかが1つの鍵になっている。
RISING BALL BARという企画は、正しい方向を向いた取り組みだと言える。「とりあえずレモンサワー」の世代が、プレミアムビールを購入する年齢になった際に「とりあえず生」に変わっているのか? 同社の今後の取り組みに注目したい。
(武田信晃、アイティメディア今野大一)
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