NECが2024年5月に立ち上げた価値創造モデル「BluStellar」(ブルーステラ)が、発足から1年を迎えた。この1年でBluStellarは、NECの成長戦略の中核としての役割を強め、2025年度には売上高6240億円を目指す事業へと拡大している。
企業や社会の変革を実現するためには人材育成が不可欠とする考え方から、NECはコンサルタント人材の育成にも力を入れてきた。AIやセキュリティなどの先端技術の活用、グローバル展開、多様な人材の受け入れといった取り組みを推進し、社内外でのブランド浸透を進めている。
この1年、BluStellarでNECはどのように変わったのか。BluStellarの進捗状況はどうなのか。NECの森田隆之社長に聞いた。
●BluStellarの提案力 森田社長語る「他社にない強み」とは?
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――BluStellarについて、2024年5月の立ち上げから1年が経ちました。DXのX(トランスフォーメーション)をするためには人材教育が大事だということで、コンサル人材などを育成してきました。競合他社のDXブランドと比べたNECの強みは何なのでしょうか。
私は、NECの強みはマインドセットの変革にあると考えています。日本では「B2Bマーケティングがなかなか根付かない」と言われてきました。私自身、過去に新野隆社長の時代からNECのマーケティングの取り組みを間近で見てきました。ただ当時はB2C的なアプローチが多く、ブランドを知ってもらい、好意を持ってもらうことが中心でした。
しかしNECが10年以上前に通信事業者向けソフトウェアを提供するNetcrackerを買収し、毎年新しいITシステムをCIOや経営幹部に提案する様子を見て、B2Bのマーケティングとは何かを実感しました。つまり、顧客の業務フローを深く理解し、その業務の中で、いかにして新しい価値を提供できるかを提案することが重要だと気付いたのです。
B2Bマーケティングでは、テクノロジー自体は二の次であり、顧客がどのような価値を実現できるかが最大の訴求ポイントとなります。例えば米Salesforceなど海外の企業ではこうしたアプローチが一般的ですし、米GartnerのレポートMagic Quadrant(マジック・クアドラント)でも、企業がどれだけ顧客の変革に寄与する新しい価値を先行して提案できているかが評価されています。
BluStellarの根底にも、この「顧客の業務変革にどのように貢献できるか」という発想が流れています。単に「モノからコトへ」と言うだけでは伝わりにくいのですが、要は製品を売るのではなく、顧客の売上増やコスト削減、利益向上といった成果に直結するロジックを積み上げてソリューションを提供していくということです。日立製作所のLumadaやFujitsu Uvanceといった他社ブランドも同じ方向性を持っていると思いますが、最終的にはどこまでそれを徹底できるかが勝負だと考えています。
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●多様な人材戦略が生む組織変革
――その中で他社と比較した「BluStellar」の強みは何だと考えますか。
NECの最大の強みは、エンジニアリングだけでなくサイエンスの領域でも自社技術を持っていることです。例えば顔認証技術やAIをゼロから開発できる力、広帯域の光通信伝送技術など、科学技術の分野で独自の技術を保有しています。また、防衛や宇宙といった社会インフラ領域において、極めてミッションクリティカルで失敗が許されないシステムの構築・運用を担ってきた実績もあります。こうした技術や経験をBluStellarに織り込むことで、他社にはない圧倒的な差別化ができると確信しています。
――人材採用についてお聞きします。中途採用を強化している理由と、実際にどのような変化や課題が見えてきたか教えてください。
新卒採用は日本独自の採用形態であり、良い面もあると考えていますが、それだけに依存するのは適切ではないと思っています。キャリア採用の方にも平等に門戸を開き、さらに一度NECを離れた方にも再び活躍していただけるよう採用をオープンにしています。人材難の時代において、こうした姿勢は非常に重要だと考えていますし、受容性の高い組織であると広く認識されることは大切だと思います。
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加えて、キャリア採用の強化に加え、女性を中心としたダイバーシティ推進や、海外の買収会社の経営幹部を含めた組織の活性化も非常に大きな効果をもたらしています。新しい人材が加わることで新たな気付きや学びが生まれ、それをどれだけ組織に取り入れられるかがNECの強さを左右すると考えています。その一方で、新卒採用で入社した方々とは時間軸やキャリアに対する考え方が異なるため、組織の期待値や個々人のキャリア観に違いが生じることもあります。
キャリア採用を強化し始めた初期の社員が5〜6年経過した今、継続的に優秀なタレントに意義を感じてもらい、最初のキャリアだけでなく新たなキャリアを切り開いてもらうことが大きなチャレンジだと感じています。それは入社した方にとっても、NECにとっても同様です。例えばDGDF(デジタル・ガバメント/デジタル・ファイナンス)のBU(ビジネスユニット)長を務める久保知樹はもともとM&A部門のヘッドとして入社しましたが、その後に事業部門の部門長を経て、今度は欧州で部門を率いることになりました。このように多様なキャリアを切り開ける環境を作ることが、非常に重要だと考えています。
●5000億円規模の投資余力とIT領域への成長投資
――キャリア採用ページでM&A Post Merger Integrationを専門とするPMIグループ新設のディレクター募集をしています。M&Aを強化する方針について、時期や規模、分野を教えてください。
もともと事業開発部(現コーポレートアライアンス統括部)がディールを実行する部門として存在しており、PMIについてはこれまで暫定的に進めてきた経緯があります。しかし、これまでの経験から、M&Aにおけるノウハウやナレッジの蓄積と継承が必要だと強く感じるようになりました。そのため、ディール部門、ソーシング部門、PMI部門の役割を明確にし、ノウハウや知見をしっかりと蓄積・継承する体制を整えました。Chief Investment Officerの考えのもと、会社としてもこの方針を了承し、進めています。
2021年度からはっきりと方針を示してきましたが、必ずしもM&Aを行わなければならないわけではありません。ただ、中期経営計画を達成すると約5000億円の投資余力が生まれると見込んでいました。格付会社や投資家の皆さまの懸念に応えるため、キャッシュROIC評価の仕組みを導入し、M&Aの規律を守ることを決算で公表しています。NECネッツエスアイのTOBを実施した結果、現在も格付けや財務健全性を損なうことなく約4000億円の投資余力があります。
投資対象はIT領域が中心であり、DGDF領域やNetCracker、アビームコンサルティングの拡大などが考えられます。また、国内のITサービスも市場変化が激しいため、場合によっては対象となる可能性もあります。いずれにしても、広い意味でIT領域での機会を積極的に探していきたいと考えています。
●BluStellar浸透とグローバル展開への挑戦
――ビジネス面とマネジメント面で、今一番気にかけていることについて教えてください。
ビジネス面で最も重視しているのは、BluStellarをNECの組織全体にしっかりと浸透させ、広げていくことです。DGDFを通じて海外展開の第一歩は踏み出しましたが、まだ十分とは言えません。先ほども申し上げたように、海外市場でどのようにNECとしての独自性や存在感を際立たせていけるかが大きな課題です。
これはオーガニックな成長だけでは実現できないため、いかに目立つ形で打ち出していくかが重要だと考えています。データドリブン経営は着実に進んでおり、地道な取り組みも引き続きしっかりと行っていきます。
また、2年ほど前からCOOやCFO、CHRO(最高人事責任者)などを中心としたトップマネジメントチームで、日々の経営課題から将来の展望までを共有しながら進めてきました。NECが126年目を迎える中で、こうした仕組みを会社として継承し、さらに発展させていくこと、そしてより強い会社にしていくために何が必要かを常に考えています。
――次期中期経営計画の大きな方針として、新しく始めたいことや変えたいことがあればお聞かせください。
現在、私たちはさまざまな施策を先取りして進めています。AIやセキュリティの重要性は言うまでもなく、BluStellarも来年度から事業の中心になる予定です。繰り返しになりますが、海外におけるNECのプレゼンスはまだ十分とは言えません。グローバルレベルでサステナブルな企業となるためには、海外に誇れる領域を3つほど持つ必要があると考えています。
経済安全保障はその一つですが、それ以外にも、例えばDGDFなどの中で少なくとも2つの領域において、グローバルで認知されるサービスやソリューション、価値提供をしている企業と見なされるために何ができるか、この一年でしっかりと具体的に考えていきたいと思っています。
(河嶌太郎、アイティメディア今野大一)
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