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『ボクたちはみんな大人になれなかった』の燃え殻、『死にたい夜にかぎって』の爪切男の意外な共通点、それは『キン肉マン』!!
希代のストーリーテラーのふたりが5月分の『キン肉マン』連載を甘く、そして辛く批評。
―今回の「先月の肉トーク」テーマ―
第491話 放たれし! 無限の力!!の巻(5月12日更新分)
第492話 砕け散る岩盤マット!!の巻(5月19日更新分)
第493話 唸れ! 雷撃タッグの左腕!!の巻(5月26日更新分)
あらすじ
レバノン・バールベックのネプチューンマンとパピヨンマン戦。マグネット・パワーを駆使し、自らに有利に展開を進めるネプチューンマン。それに呼応し、リング外で必殺技を繰り出すパピヨンマン。マグネット・パワーの覇権をめぐるこの試合はどちらのものに。
●クロス・ボンバーを決めたのは!?
爪切男(以下、爪) パピヨンマンが勝ってネプチューンマンがマスクを狩られる、という我々の予想、裏切られましたね。パピヨンマンが負けて、素顔をさらされた。
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燃え殻(以下、燃) うん。大ハズれだった、僕ら。
爪 しかし、ゆでたまご先生、パピヨンマンの素顔、えっぐいやつを用意してましたね。マスクがはがれたら、中は幼虫、イモムシという。こんな素顔を見せられたら、もう好きにならざるを得ない。
燃 マスクが取れて、こんなに素顔が露(あらわ)になることって『キン肉マン』ではあんまりないよね。
爪 ウォーズマンの時ぐらいですよね。機械の顔がさらされたやつ。
燃 だから、素顔がむき出しになるときは、醜(みにく)い時っていう。男前のロビンマスクやキン肉マンのときは、目ぐらいしか見えない。
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爪 そうだよなあ。パピヨンマン、身体は成虫なのに、素顔は幼虫、っていうのも謎だし。
燃 僕が予想した、パピヨンマンがアバターを出して、ネプチューンマンにクロス・ボンバーを浴びせる、というのも。
爪 逆でしたね。パピヨンマンがアバターを出したところまでは、燃え殻さんの読みどおりだったけど、そこで繰り出したツインズ・レッグ・ラリアートが、ネプチューマンには効かなくて......。
燃 ネプチューンマンがマグネット・パワーで砂鉄を固めてビッグ・ザ・武道(ブドー)を生み出し、パピヨンマンにクロス・ボンバーをくらわせて終了、という。
爪 クロス・ボンバーで勝負がつく、という読みは当たっていたから、惜しいとこカスッてたんですけどね、燃え殻さん。
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燃 しかしネプチューンマン、押しまくって押しまくって、そのまま勝っちゃったなあ。
爪 圧勝でしたね。ネプチューンマンが言った「自分のほうがマグネット・パワーをうまく使える」という、それを見せつけられた試合でした。
燃 ビッグ・ザ・武道が出てくるのは、読めなかったなあ。
爪 前にこの対談で、この試合、ネプチューンマンにはテーマがない、っていう話をしたでしょ? でもこの勝利で、大きなテーマができたということですよね。正義超人側の、唯一のマグネット・パワーの使い手、という。
燃 そう、試合前には、この人だけ特に因縁がない、と言ってたけど。
爪 実は、いちばん因縁があった。ということはこのあと、時間超人側で一番マグネット・パワーを使ってる、ファナティックと闘うのかなあ。
燃 あ、そうか。あり得るね。この試合、ネプチューンマンが必殺技をどんどん出していって、クロス・ボンバー以外は全部出しきった状態になったじゃない?
爪 前回に燃え殻さん「あとクロス・ボンバーしか残ってないよ」って言ってましたよね。
燃 「でもひとりじゃできないよね」とか言ってたら、まさかのビッグ・ザ・武道が出てくるという(笑)。でも、あのまま試合が長くなったら、ネプチューンマンが負けるしかなかったもんね。
そういう意味では、押し切って勝つっていう、すごくネプチューンマンらしい試合を描きたかったんだな、先生は、と思った。で、ビッグ・ザ・武道を出す方法なんてないけど、パピヨンマンは分身できるから、そっちがクロス・ボンバーを出すだろう、と思ってたんだけど。
爪 そこでマグネット・パワーでビッグ・ザ・武道を出すという発想力は、俺らにはなかったんだよなあ......。
燃 なかった。だからおもしろかった。
●『少年ジャンプ』作品がてこずってきた"修行"
爪 そして第493話の最後の2ページから、いよいよ、バッファローマンの修行が始まりましたね。
燃 どういう修行をするんだろうね。
爪 修行シーン、歴代のあらゆる『少年ジャンプ』の漫画が、苦労してきたところですしね。
燃 そうだね。あんまり長くてもよくない、でも簡単な修行だと説得力がなくなる。確かに難しいとこだね。僕は最近、RIZINのヒロヤ選手が好きなんだけど。
爪 ああ、最近よく言っていますよね。
燃 ヒロヤが今、アメリカに修行に行っていて、バッファローマン状態なんだけど(笑)。アメリカだと、とんでもなく強いヤツがいっぱいいるから、それと練習しています、という話で。バッファローマンの修行の相手をするのがどんな連中なのか、というのも、楽しみだよね。
バッファローマンって、悪魔超人たちと腹筋とか腕立て伏せとかしてたじゃない? ほかのジムに出稽古に行くということを、悪魔超人として初めてやるっていうのも、おもしろいというか。その相手は僕らが知っている超人なのか、まったく新しい誰かなのか。
爪 そこで何か試練がほしいですよね。
燃 バッファローマンにとって、過去に因縁がある相手が出てくる、とかね。そこで過去にやり残したことを補(おぎな)うような修行があったりすると、修行のシーンが長くても大丈夫そうだし。先生、ビッグ・ザ・武道のことを好きなように、悪魔将軍のことも好きじゃない?
爪 ああ、そうですね。そうか、だから悪魔将軍も修行に絡むかもしれない。
燃 そうなってもいいな、全体的にも華やかになるな、と思って。
爪 修行の結果、バッファローマンのフォルムは、変わるんですかね?
燃 変わってほしいよね。パンツと両腕両足の、黒いところが全部メタリックになるとか。
爪 (笑)。そんなわかりやすく変わる?
燃 バッファローマンはカツラだから、ヘアスタイルも変えられるし。ザ・ワンみたいな甲冑(かっちゅう)をかぶってもよくない?
爪 そうか、バッファローマンならかぶれるか。そうやってザ・ワンから何かを受け継ぐのもありですね。
燃 全身の鎧(よろい)も受け継いでほしいな。ウォーズマンもエクストームバトルモードで全身トゲだらけになったんだし、バッファローマンもここでに全身コスチュームチェンジがあっても。
爪 うん、おもしろいですね。
燃 甲冑のツノがロングホーンになっている、とか。そういうこと、先生は大好きなので。
爪 (笑)。確かに。
燃 そうだ、修行といえば昔、「夢の超人タッグ編」の時、ジェロニモが「スーパーマンロードの試練」を乗り越えて、人間から超人になったっていうの、あったじゃない?
爪 あったあった。
燃 あれみたいに、何かを乗り越えることって、『キン肉マン』の中にあったよなあ、と思うと、何かひとつ、バッファローマンの中の打ち破れなかったものをここで乗り越える、というのがあるのかもしれない。
爪 ああ、神様の試練の時も、乗り越えられてないですからね。相手が強すぎた、というのもあったけど。
燃 だからここで、悪魔将軍というトラウマを、バッファローマンが乗り越えるとかね。という意味でも、悪魔将軍が修行の相手だったらいいなあ。
爪 悪魔将軍も、ビッグ・ザ・武道も、これまで『キン肉マン』の物語の中で、いろいろ形を変えて出てきましたもんね。
燃 そう、それが『キン肉マン』という作品の中でも呪いとして機能しているし、読者にとってもアガるポイントだから。悪魔将軍が、何かしらの理由で物語に出てくるチャンスが到来したんじゃないかな、今。やっぱり今回のビッグ・ザ・武道みたいになると「出たっ!」てなるじゃない?
爪 うん、アガりますよね。今回の、アップデートされているクロス・ボンバー、カッコよかったですもんね。
燃 そうそう、今の先生の最新の画力で描かれるクロス・ボンバーね。その画力で、バッファローマンが悪魔将軍に地獄の断頭台をくらっているシーンを描いてほしい。
爪 そういえば『キン肉マン』の連載、今回の対談で触れたのは、第493話までですけど。
燃 あ、そうか、もうすぐ週プレ単体でも『キン肉マン』連載が500話になるんだね。
爪 ほんとに、人生を『キン肉マン』に捧げているんですね、ゆでたまご先生。
燃 今の『キン肉マン』は、数年かけて物語を閉じる方向に向かっている、って、僕らはよく言ってたけど、ここ1、2ヵ月の展開を読んでいると、全然閉じそうにないね(笑)。
●燃え殻(MOEGARA)
1973年生まれ、神奈川県出身。働きながら始めたツイッターでの発言に注目が集まり、作家デビュー。『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社)、『すべて忘れてしまうから』(扶桑社)、『明けないで夜』(マガジンハウス)など多数の著作がある。最新著は『この味もまたいつか恋しくなる』(主婦と生活社)。群像Webでは「湯布院紀行」の漫画連載もスタート。また、『GetNavi web』にてコラム「もの語りをはじめよう」を連載中。出演中のラジオ番組 『BEFORE DAWN』(J-WAVE、毎週火曜26:00〜27:00)もチェック
●爪切男(TSUMEKIRIO)
1979年生まれ、香川県出身。2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)で小説家デビュー。2020年、同作が賀来賢人主演でドラマ化。『きょうも延長ナリ』(扶桑社)美容と健康にまつわるエッセイ『午前三時の化粧水』も発売中。ドライバーWebで『横顔を眺めながら 〜爪 切男の助手席ドライブ漂流〜』を連載中。主演:木村昴でのドラマ放送でも話題となった『クラスメイトの女子、全員好きでした』が文庫化。最新著は、『愛がボロボロ』(中央公論社)。
取材・文/兵庫慎司 撮影/鈴木大喜 ©ゆでたまご/集英社