単なる「値上げ」は客離れを起こす! 「コメ離れ」なのに収まらないコメ高騰にどう立ち向かうべきか

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2025年06月30日 06:00  ITmedia ビジネスオンライン

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コメ高騰に企業はどう対応すべきか(出所:ゲッティイメージズ)

 政府の備蓄米放出で、流通各社がわれ先にと随意契約を申し出て、短期間で店頭に低価格のコメを並べて販売するニュースが毎日のように流れました。一方で「最近、日本人はそんなにコメを食べていたんだっけ」という疑問も湧き出てきました。低価格のコメを売り場に投入することは、世相上(もしくは選挙対策上)必要な対応ではありましたが、徐々にコメが安く買えるようになれば、今後はコメ以外の物価高への対応策に視点が移るのではないかと思います。


【画像】大手コンビニはどうやって「単なる値上げ」状態を回避している? 各社の取り組みまとめ(計2枚)


 このような中で、コンビニ各社は新しい割引施策やサービス投入を始めています。各社の動き、中でもコメを使ったおにぎりや弁当、食品の新たな販売施策について、流通小売り・サービス業のコンサルティング約30年以上続けてきているムガマエ代表の岩崎剛幸がマーケティングの視点から分析していきます。


●そもそもコメ離れが進んでいた


 前段として、農林水産省の「長期的な主食用米の価格の動向」を見てみましょう。2023年のコメの相対取引価格は、食用玄米60キロ当たりで1万5315円。これが、2025年4月には2万7102円と2倍近くになっています。消費者物価指数(2020年基準、全国)も、この4月に東京都区部ではパンが125.6、めん類が121.3に対してコメ類は202.8とおよそ2倍に跳ね上がっています。確かにコメ価格は高くなりすぎている状況でした。


 では、日本人のコメ需要や消費実態はどのような推移をたどっているのでしょうか。


 農林水産省の「米の消費および生産の近年の動向」(2024年8月)によると、主食用米の需要量は長期的に減少傾向にあります。要は、日本人のコメ離れが進んでいるのです。今後の人口減少も加味した2040年の主食用コメ需要量は493万トンまで減少するという見通しもあります。


●高齢層で「コメ離れ」が進んでいる


 コメ・コメ加工品の1人当たり・1日の摂取量を見ると、若年層よりも高齢層、特に60代の摂取量が減少していることが分かります。60代は2001年からの18年間で、105.6グラム減少(27.3%減)でした。高齢者は年齢を重ねても白米を食べている印象を持つ人も多いでしょうが、実態は大きく異なります。


 年齢別の弁当・おにぎり・寿司などコメを使った総菜への年間支出金額では、29歳以下の若年層で減少し始めていますが、その他の年代では増加傾向にあります。特に60代の支出増加が目立っています。ただし、パンや調理パンなどの支出も全年齢で増加傾向にあり、こちらも60代の支出増加が目立っています。しかも、弁当類への年間消費支出が2万6251円に対してパンには3万1170円と大きく上回っています。年齢を重ねるごとにコメからパンへと移行しているという実態は明らかです。


 60代・2人以上世帯の主食への年間消費支出金額を見ると、コメとパンへの支出金額の違いがさらにはっきりと分かります。2000年時点ではコメは全体の37%と、間違いなく「主食」に位置付けられていました。寿司や弁当、おにぎりなどを含めるとコメ関係で57%と過半数です。


 それが2023年になると、コメは14%まで減少、寿司や弁当を合わせても41%と過半数割れです。一方の食パンと調理パンやその他のパンは2000年に20%、即席めん・中華麺・パスタが6%だったのが、2023年にはパン類が27%、即席めん類が9%に上昇しています。今の60歳代はコメを買わなくなり、中食、外食、パン食の比率が高まっているわけです。


 ここまで見てきたように、日本人のコメ需要、コメ消費は高齢者を中心に減少しているのが明らかです。一方でコンビニやスーパーの総菜や弁当などの中食、ファストフードやレストランなどの外食需要は高まっています。つまり、コメそのものをどうやって安く買えるかということは、育ち盛りの子どもを持つ家庭では喫緊の問題ですが、その他の多くの家庭においては、実はそこまで深刻ではない可能性があります。


 それよりも、おにぎりや弁当、総菜、外食の価格上昇を気にしているのではないか――と筆者は推察しています。日常的に購入する頻度の高いこれらを、流通小売り各社がどのような企業努力によって、消費者にとって買いやすい環境に変えているのか。消費者の関心はそこにあるといっても良いのです。


●コメ価格高騰を受けた、小売り各社の対応


 実際に小売り各社はさまざまな商品開発や販売施策によって、コメ価格高騰や物価高対策に対応し始めています。例えばセブン-イレブンは、1個当たりのコメの量や具材を増やした「具だくさんおむすび」のアイテム数を増やしています。1個当たりは高くなりますが、ボリューム感を増すことで、相対的に満足感が高まる商品の強化に取り組んでいるわけです。


 ローソンのディスカウント業態「ローソンストア100」では「おにぎり値下げ宣言」として、5月21日から全おにぎりの4割程度を最大10%値下げして販売しています。この他にも各社がさまざまな商品を開発し、コメ価格高騰や物価高対策を進めています。


 こうした対応があったものの、消費者には想像以上にコメ価格高騰をはじめとした物価高の影響があり、買い控えの傾向もでてきています。流通各社もさらなる危機感を抱いており、より強い消費刺激策を打ち出し始めました。


 農水省のデータにもあった通り、そもそも備蓄米の店頭販売だけを頑張っても実際の来店客の購買ニーズとは異なるため、全体の売り上げにはつながらないのです。特に、通常はコメの販売もせず、値下げに消極的なコンビニ業態ではなおさらです。


 では、コンビニ各社はどのような販促策を打ち出しているのでしょうか。次の図にまとめました。


 セブン-イレブンでは大々的におにぎりのセールを実施しました。筆者は都内だけでなく地方店舗もセール初日に視察しましたが、平常時よりもかなり速いペースでおにぎりが売れていました。やはり「おにぎり100円(一部商品)」のインパクトは、このご時世大きかったのでしょう。


 ローソンでは6月3日から価格据え置きで具材や重量などを約50%増量した「盛りすぎチャレンジ」を実施しています。同社の好評企画で、今回が5回目の開催です。キャンペーン期間中の1店舗当たり平均来店客数は、前年対比で約5%増(同社調べ)になるということ。今回は50周年企画としておよそ1カ月にわたり開催するため、これまで以上の効果となるでしょう。


 今回は創業祭を兼ねているからか、路上に店員が立ってチラシを配布しているところにも出くわしました。コンビニで路上チラシ配布は初めて見ましたが、それだけ全社をあげたイベントだということがよく分かります。


 ファミリーマートは、対象商品を1個買うと対象の商品と引き換えられる無料引換券(レシートクーポン)を1枚プレゼントするという、こちらも定番の企画を実施。買いたいものが対象商品に入っていれば、無料でもらえるお得な企画です。次回来店につながるだけでなく別の商品購入にもつながりやすく、客数を増やして売り上げを高める効果のある良い企画です。


●物価高の今こそ、商売の基本に立ち返るべき


 コメ価格の高騰をはじめとした食材価格の上昇など、あらゆるものが値上げの昨今、価格転嫁しなければ商売が成り立たなくなっていることを消費者も一定程度は理解しています。しかし、物価高に乗じた理由なき値上げは、客離れを引き起こす一番の原因となるでしょう。コンビニ大手のように、商品の値上げをしても、さまざまな割引施策やキャンペーン、付加サービスなどで消費者の目に見える形で還元していかなければ、知らない間に客離れを起こします。


 企業としては「値上げする際にはその理由を明確にすること」「値上げしたら客への還元策も必ず行うこと」の2点を意識する必要があります。これが、コメ価格高騰、物価高騰時代に客から支持されるポイントです。物価高の今こそ、商売の基本に立ち返りましょう。


(岩崎 剛幸)



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