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食事や買い物はもとより、病院や就職先の選択まで、今や日常生活に欠かすことのできないインターネット上の口コミ。便利な半面、名誉毀損(きそん)や中傷のトラブルにつながるケースも少なくない。
口コミとどう向き合うべきか。口コミサイトを巡る法的問題に詳しい東京経済大の上机(かみつくえ)美穂教授は「『自分の正義』が、他者を傷つけることもある」と語る。
――ネット上の口コミを巡るトラブルの現状は?
◆増加傾向にあるといえる。これまで評価や感想は、友人や家族ら限られた空間でやりとりがされてきた。
しかし、インターネットの普及によって、誰もが不特定多数に情報を発信することが可能となった。影響力は大きい。日本では2010年代から口コミを巡る法的闘争の判決が出始めた。
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――口コミが違法となる判断枠組みは?
◆憲法は「表現の自由」を基本的人権として保障しているが、表現によって他人の名誉を害する場合は損害賠償責任が生じる。要は、投稿内容が「相手の社会的評価を低下させた」といえるか、だ。
ただ、その内容に公共性や公益性があり、投稿者にとって真実と信じる相当の理由があれば賠償責任を免れる場合もある。
例えば、飲食店で食事をした客が「おいしくない」と評価した口コミについて、「個人の評価で社会的評価は低下しない」とした裁判例がある。
――「感想」と「名誉毀損」の線引きは?
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◆はっきりとした線引きの基準はなく、ケース・バイ・ケースで考える必要がある。
口コミによって本当に相手の社会的評価が下がったといえるか、どういう被害が出ているか、口コミがどれくらい波及しているか。こうした観点から判断されることになるだろう。
――口コミを投稿する際に注意すべきことは?
◆中傷に近い口コミが増えている。「自分は正しい」と思って書いたとしても、一個人の感想や評価が、場合によっては他者の社会的評価を下げ、精神的苦痛を与えるものになりうる。
ネット上の口コミは波及する上、半永久的に残ることもある。そうした点にも留意して投稿しなければならない。書いた内容が世間一般から見たときに非難される内容になっていないか。自分の感想や評価が広く伝わるという自覚を持つべきだ。
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――書かれた側の対処法は?
◆訴訟の中で、「口コミによって売り上げが下がった」ことを立証するのは難しい。理想は、サイトのプラットフォーム事業者に問題ある口コミを削除してもらうことだろう。
一方で、多くの消費者が口コミを重要視している現状がある中で、強い規制をかけると、消費者や流通に不利益が生じかねない。
口コミに基準を設け、不適切な言葉を使えないようにしたり、問題ある口コミを繰り返す投稿者を規制したりする方法が考えられるが、さらなる議論が必要な問題だ。【聞き手・国本ようこ】
かみつくえ・みほ
明治大法学部卒。札幌大地域共創学群法学専攻教授を経て、2021年4月から東京経済大現代法学部教授。専門は民法(不法行為法)。
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