「iPhoneにタイヤをつけたようなクルマ」と表現されるTesla。IT・ビジネス分野のライターである山崎潤一郎が、デジタルガジェットとして、そしてときには、ファミリーカーとしての視点で、この未来からやってきたクルマを連載形式でリポートします。
【写真を見る】集中して運転していないと表示されるテスラの警告画面など(全8枚)
今回は、室内カメラの役割、CEV補助金によるシバリという2つの話題について語ります。
●室内カメラで監視されている!?
筆者が乗る21年型Model 3 ロングレンジ AWDには、室内ミラー上部にキャビンカメラが設置されています。このキャビンカメラで思い出すのは、ロイターが報じた「テスラを提訴、車載カメラ『プライバシー侵害』内部で画像共有」というニュースです。
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我々ユーザーとしては、コンプライアンスの順守に努めて頂きたい、としか言いようがありません。ただ、キャビンカメラのデータ分析をユーザー側でオフにすることもできます。筆者自身は、Teslaによるインテリジェント機能の継続的な改良に協力することはやぶさかではないので、オフにはしていません。
さて、このキャビンカメラは何を見ているのでしょうか。過去のアップデートでドライバーの目線を追うようになりました。例えば、高速道路でオートパイロット(以後、AP)をオンにして走行中、スクリーンのマップ画面を操作していると、警告音と共に「道路から目を離さないでください」と表示されます。それほど、長時間にわたり目を離したつもりはないのですが、結構厳しく判定されます。
最初は、カメラによる判定ではなく、スクリーン操作を感知してそのような警告を出すのかとも思いましたが、ステアリングに手を添えた状態で、眠たげな眼、あるいは目を閉じた状態であっても、同様の警告が発出します。ドライバーの状態をカメラ画像でしっかりと見ているわけです。
日産のプロパイロットなど他車の運転支援機能は、ステアリングコラム上部に設置された赤外線カメラで、視線や目の状態を検知することが多いようです。Teslaの場合は、通常のカメラ映像から画像解析を行いドライバーの状態を確認しているということでしょう。
実は、この警告にはペナルティが用意されています。前回の本連載において、大阪・関西万博の旅のレポートをお届けしましたが、その往路において、「道路から目を離さないでください」を短時間に連続して出してしまいました。すると、次の画像にあるような警告が発せられ、APが強制解除されました。俗に言う「APのお仕置きモード」です、
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お仕置きモードが一度発動すると、以後、次に停車してパーキング状態を経るまでは、APが起動しなくなります。結局、先を急いでいた事もあり、新東名高速道路の沼津付近から伊勢湾岸自動車道の湾岸長島パーキングエリア(PA)までAPなしの完全手動運転を行う羽目になりました。まあ、自業自得なわけですが......。
ペナルティは、それだけではありません。さらに、重いペナルティが用意されています。このようなAPの強制解除の累積が7日以内に5回に達するとAP使用の1週間停止という「刑罰」が待っています。多くのTeslaユーザーがそうだと思うのですが、高速道路走行においてはAPによる運転支援をあたりまえのように利用しているだけに、このような使用停止措置はつらいものがあります。
実際、前述のように沼津付近から湾岸長島PAまで、手動で運転した際には、それなりにストレスを覚えました。おまけに、この日は強めの雨が降っていただけに、悪天候による精神的な負荷もあり、かなりの大雨の中でも正常に動作するAPのありがたみを余計に思い知らされることとなりました。APが優秀だからといって過信しないように気をつけます。
●補助金の呪縛からの解放
2021年9月に納車されたModel 3において、筆者は、令和2年度第3次補正予算「再エネ電力と電気自動車や燃料電池自動車等を活用したゼロカーボンライフ・ワークスタイル先行導入モデル事業」を申請し、80万円の補助を受けました。これは、当時環境省が実施していた補助事業です、この原稿を執筆している25年5月末時点では、令和6年度補正予算による補助事業が実施されており、Model 3の場合、ロングレンジAWD、RWDともに、87万円の補助金を受け取ることが可能です。
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Model 3以外のEVにおける補助金は、銘柄ごとの補助金交付額にて確認することが可能です。最高額は90万円でトヨタbZ4XやレクサスRZ450eなどです。低く抑えられている車両には、ポルシェTaycanの12万円があります。補助額は、国産、輸入、車両価格の多寡といった単純な評価に基づくものではなく、各車両の環境性能、企業ごとの充電インフラ整備、整備体制といった多岐に渡る評価項目から算出されています。詳細は、CEV補助金における評価の基準について(令和7年度)において確認することが可能です。
EVに批判的な意見を言う人の中には、「補助金があるから売れる」と揶揄する向きもあります。確かにそういう側面があるのは否定しません。では筆者はどうでしょうか。Model 3を注文した21年5月当時、試乗担当のスタッフからは次のように釘を刺されました。
「今からの注文だと最短で9月下旬納車です。政府の補助金総額には上限が設けられているので、そのタイミングだと上限に達している可能性があります。大きな期待は抱かないでください」
実際、その前年度には、上限に達したタイミングと次の補正予算決定時のタイムラグから、補助金が出なかった事例もあったと記憶しています。しかし、筆者はそれを承知でModel 3を注文しました。補助金は、車検証が発行されてからでないと申請ができません。つまり、購入代金全額を支払い、事実上納車された後にしか申請できない仕組みです。
結果的には上限到達前に申請が通過してめでたく補助を受ける事ができました。ただ、振り込まれたのは申請から4カ月後です。筆者の感覚では、「補助金がないとEVは売れない」という見方はあまりに一方的過ぎるのではないかと思います。
●1回の水素充填でEVなら300km以上走行可?
ちなみに、トヨタMIRAIの補助金は145万3000円、韓国ヒョンデのネッソは215万5000円、ホンダCR-V e:FCEVは255万5000円と破格の厚遇を受けています。これらは、いずれも燃料電池車(FCV)であり、水素社会の推進という国策事業に合わせた評価基準も取り入れられているということなのでしょう。FCVは、現状、燃料の水素を製造、貯蔵、輸送、利用の各過程で相応の二酸化炭素を排出することから、一般的に言われているほどには環境に優しいとは思えません。
余談ですが、FCVが水素ステーションで水素を充填する際、水素の圧縮(約700〜820気圧!)や冷却(約−40℃!)といった形で電力を消費することにも思いを巡らせる必要があります。どれだけの電力を消費するかは、車種やステーションの方式や規模などにより異なり一概には言えないようですが、一般的に1充填あたり数十kWh程度必要との解説もあります。
仮に50kWhだとしたら、生涯電費が約150Wh/km(6.66km/kWh)の筆者のModel 3の場合、333km走行可能という計算です。水素の充填にそれだけの電力を消費するのであれば、最初からEVのバッテリーに充電した方が話が早いような......。
一方、Tesla専用の充電インフラ網、スーパーチャージャーは21年以降グローバルレベルで100%再生可能エネルギーによる電力供給を実現しています。並びに、筆者宅の電力は非化石証書100%構成で、実質的に再生可能エネルギーによる電気100%をうたっている小売事業者のものです。
筆者のこれまでの充電ポートフォリオを確認すると、自宅充電が約90%、スーパーチャージャーが約8%、残り2%が公共の急速充電ならびに普通充電です。こう考えると、FCVとEVを比較してどちらがエコなのか?といった議論が混迷を深めます。
Teslaユーザーのスーパーチャージャー利用率は自ずと高くなるはずなので、FCVよりもTeslaの方が環境に優しいのではなのかとも思えてきます。まあ、これを言うと、バッテリーの製造過程で二酸化炭素を排出するだろ!という意見も聞こえてきそうですが、それは否定しません。Teslaのインパクトレポート21年版には、Model 3およびModel Yの製造プロセスでは、同等の内燃機関車両(BMW 3シリーズなど)に比べて温室効果ガス排出量が多くなると明記されています。
しかし、その一方で6500マイル(1万460km)走行した時点で、同等の内燃機関のクルマよりもライフサイクル全体の排出量が少なくなる、ともあります。平均的なドライバーなら、1年〜2年弱で"元が取れる"計算です。
●下取り価格は190万円で残価率は37%
おっと、話が横道に逸れてしまいました。補助金のシバリに話しを戻します。筆者が申請した「令和2年度第3次補正予算CEV補助金」の場合、再生可能エネルギーによる電力供給を行っている電力会社と契約した上で、4年間の保有が義務づけられています。
車両の継続的な利用を証明するために、毎年5月に実態調査に回答しなければなりません。電力会社からの1年分請求書ならびに車両のオドメーターの写真を指定されたサイトにアップロードする必要があります。
25年5月の実態調査を完了した時点で、晴れて「本年度の審査結果をもって実態調査は完了となります」というお墨付きを得ました。これで補助金のシバリから開放された!と喜んだのもつかの間、よく考えたら、21年9月納車です。ということは、9月まではシバリが続き、仮に、原稿執筆時(5月末)のタイミングで車両を売却すると月割りで補助金を返納しなければなりません。
念のために次世代自動車振興センターに確認したところ、「仮に現時点で車両を売却いただく場合、4年以内の売却ですと、補助金の返納が必要となります」と返されました。というわけで、せっかく日本国から頂いた補助金なので返却するのは忍びなく、最低でも、25年9月の12カ月点検までは現車を大切に乗ることにしました。
実は、その1として、4年の補助金の呪縛から解放された時点、その2として、5年のローンを完済したタイミング。このいずれかで新しいModel 3に乗り換えても良いかな、と漠然と考えていたこともあり、「実態調査は完了となります」とのメールを受け取ったとき、ちょっとだけ舞い上がって、現車の下取り価格を調べたりしたりもしました。
ちなみに、筆者の21年式Model 3 ロングレンジ(購入時車両価格509万円、走行距離3万4000km)のTesla Japanの下取り価格は190万円でした。3年と8カ月で残価率約37%という結果です(補助金80万円を考慮すると約44%)。
人気のあるトヨタ車などと比較すると散々な残価率ですが、日本では不人気の輸入車セダンならこんなものかなという印象です。以前乗っていたシトロエン・エグザンティアやC5(共に5ドアハッチバック)はもっと低率でした。というわけで、25年9月の12カ月点検時(車両保証が終了、バッテリー保証は8年・8万km)に乗り換えるか、あるいは26年9月のローン終了時まで乗り続けるのか、さらに言うとその先ももっと乗り続けるのか、下取り価格を横目で睨みながら悩むことにします。
著者プロフィール
●山崎潤一郎
音楽制作業の傍らライターとしても活動。クラシックジャンルを中心に、多数のアルバム制作に携わる。Pure Sound Dogレコード主宰。ライターとしては、講談社、KADOKAWA、ソフトバンククリエイティブなどから多数の著書を上梓している。また、鍵盤楽器アプリ「Super Manetron」「Pocket Organ C3B3」「Alina String Ensemble」などの開発者。音楽趣味はプログレ。Twitter ID: @yamasakiTesla
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