
人手不足が背景にあるとはいえ、サービス残業の強要は悪質なコンプライアンス違反だ。ある工場に勤務する50代男性は、部署ぐるみのサービス残業を強要されたとき、「法律違反」を理由に断った。すると上司はこんな風に激怒したという。
「仕事が終わらないんだから仕方がないでしょう!!」
「わかった!!だったら、もう仕事なんか放り出して全員で帰ろう!!」
上司も追い詰められて何かが限界に来ていたのかもしれないが、男性の勤務先ではサービス残業が常態化していたという。(文:篠原みつき)
「別の日に、こっそり残業代をつけておくから」と懐柔してくる始末
そもそも「係長が班長にサービス残業をさせていた」と明かす男性。
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「月ごとに残業の上限枠を設定し、それを超えた者のタイムカードを定時になると押させて、3人いる班長が順繰りに定時で帰っているという体を装っていた」
つまり不正に労働時間を調整していたのだ。例えば、部署全体での休日出勤の日。男性は休んでいたが、こんな事があったと、後輩から聞かされた。
「昨日はどうやっても仕事が終わらなくて、自分が全員分の従業員証をあつめて定時で帰ったように見せかけるためタイムカードを切らされた」
つまり不正の片棒を担がされたのだ。その翌週、今度は男性も休日出勤すると、同じように不正の指示をされる。人員を減らされ、どう考えても定時で終わらない状況の中、係長が「全員分の従業員証を集めてタイムカードを切って来るように」と命じてきた。法律違反を理由に断ると、前述のとおり
「『仕事が終わらないんだから仕方がないでしょう!!』 『わかった!!だったら、もう仕事なんか放り出して全員で帰ろう!!』と逆ギレを始めました」
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男性によれば、「この係長、決して頭が悪いわけでも仕事が出来ないわけでもない」という。激高した相手を「おかしな事を言い始めたなぁ」と冷めた目で見つめていると、係長は急に態度を変え、
「残業は事前に申請しないと会社が認めてくれない(後日、嘘と判明)」
「課長に相談してくる」「やっぱり駄目だった」
「別の日に、こっそり残業代をつけておくから」
などと懐柔してきたという。
あまりに悪質な対応に、男性は週明けに会社の労働組合へ訴え出た。そこからの会社の動きは驚くほど迅速だったという。
「係長は県外の別会社に左遷」
「会社の上役からの謝罪があり、サービス残業分は補填された」
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会社は従業員の訴えにしっかり対応したのだ。しかし、課長は「自分の指示ではない」と主張し、係長にすべての責任を押し付けたという。男性は、元係長から直接「課長の指示だ」と聞き、その言葉が嘘ではないと感じたそうだ。
「左遷された係長が課長になって、自分の課に戻って来た」
これで問題は解決したかに見えたが、「この会社はダメだなと思ったのが、その後」だという。後日、会社は全従業員にアンケートを実施した。
「『今回、サービス残業に相当する行為があったが、あなたは過去にもそんな経験をしたことがあるか?』というアンケートを上司の目の前で記入するように言われた」
これに男性は、「不信任案の用紙を配られて、何か記入しようものならすぐに投獄される」独裁政権の選挙のようなやり口だと、呆れた。そもそもサービス残業すら拒否できない社員たちだ。上司の前で「サービス残業をさせられた」などと正直に書くような「度胸のある人間がいるわけがない」、と憤りをあらわにしている。
「サービス残業は今回、魔が差しただけという結論に持って行くことを最初から決めていたようだ」
こう会社の対応を批判した男性だが、最近、さらに信じられない出来事が起きた。
「左遷された係長が課長になって、自分の課に戻って来た」
なんとコンプライアンス違反の張本人とされたはずの係長が、昇進してもとの職場に返り咲いたのだ。会社の自浄作用のなさを目の当たりにした男性は、「この会社には、何も期待できない」と結んだ。
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