
現在アメリカで開催されているクラブワールドカップ。決勝トーナメント1回戦で実現したのは、パリ・サンジェルマン(PSG)vsインテル・マイアミという、いわば"メッシ・ダービー"とも言える一戦だ。
アルゼンチン出身ながら、バルセロナでプロデビューを果たし、以後、PSG、インテル・マイアミと渡り歩いてきたリオネル・メッシは、これまでのキャリアで古巣と試合をした経験がなかった。
つまり、メッシが過去に所属したクラブと対戦するのは、これが初めて。昨年のコパ・アメリカ取材でも感じたことだが、ただでさえ、アメリカでのメッシ人気は絶大なのである。加えて、そんな特別な付加価値がある試合となれば、注目を集めないはずはなかった。
この試合が行なわれたアトランタのメルセデスベンツ・スタジアムには、6万5000人を超える観衆がつめかけたが、どう見てもマイアミのピンクのユニフォームを身につけた人が大多数。しかも、そのほとんどが背番号10なのだから、彼らがPSGではなく、メッシ目当てにやってきたことは明らかだった。
今大会では総じて、ヨーロッパの人気クラブが集客に大きく貢献するケースが多かったが、この試合は例外である。
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しかしながら、いかにメッシを擁するとはいえ、アメリカMLS(メジャーリーグサッカー)の新興チームが最新のヨーロッパチャンピオンに勝てるほど、サッカーは甘いものではない。
選手個人の能力を見ても、チームとしての組織力を見ても、両者の差は明らか。PSGは前半6分の先制ゴールをきっかけに、文字どおり面白いようにチャンスを作り出し、前半だけで4点のリードを奪ってみせた。
率直に言って、実力差は大きかった。メッシの他にも、ジョルディ・アルバ、セルヒオ・ブスケッツ、ルイス・スアレスと、メッシとともにバルサの黄金期を支えた選手たちが先発メンバーに名を連ねたマイアミだったが、彼らに往年の冴えは見られない。
ブスケッツが自陣でボールを奪われ、PSGに2点目を献上したのが、悲しいかな象徴的だ。
前半にあったメッシの見せ場と言えば、前半27分に右サイドでのボールキープからの反転で縦パスを送った場面くらい。グループリーグを無敗で勝ち上がってきたマイアミといえども、さすがにPSGの壁は厚すぎるかに思われた。
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ところが、である。
「後半は我々のほうが試合をコントロールできた。彼ら(PSG)は疲れていて、ボールを失うことも多かった」
経験豊富なアルバがそう振り返ったように、後半に入ると俄然、攻撃機会を増やしたのはマイアミである。
公式記録によれば、前半のシュート数がPSGの10本に対して、マイアミはゼロだったが、後半に限れば、9本対8本。PSGが4点のリードで手を緩めた部分はあったにせよ、数字の上でも互角の戦いが証明されている。
「この相手と対戦することの難しさはわかっていた。結果こそ出なかったが、後半はより勇敢にプレーできた」
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アルバの言葉どおりである。
そんな勇敢な戦いを見せたマイアミの中心に、メッシがいたことは間違いない。
果敢なドリブルで中央突破を試み、いい位置に走り込む味方がいれば、スルーパスを送る。また、わずかなコースを見つけ、シュートを狙うことも忘れてはいなかった。
最大の見せ場は、後半49分のシーンだ。
左サイドから送られたアルバのクロスを、メッシがワンタッチでDFラインの背後へふわりと落とすと、そこにフリーで走り込んでいたのは、スアレス。ついにマイアミのゴールかと思われた決定機は、スアレスのトラップミスにより潰えたが、メッシの高い技術が発揮されたプレーだった。
アルバは言う。
「レオがどれほど重要か、我々は知っている。結局のところ、彼が違いを生み出しているんだ。彼と一緒にプレーできることは光栄だと何度も言ってきたし、彼は我々に多くのものを与えてくれている」
その後もメッシを中心にボールはつながれ、ゴール前では彼にフィニッシュを託すべく、誰もがメッシを探し、ラストパスを送った。
しかし、左足でのシュートあり、ヘディングシュートあり、FKありと、メッシは得点を期待させるシーンこそいくつも作ったが、結局はノーゴール。メッシ初の古巣との対決は、0−4の大敗に終わった。
メッシは試合後、PSG時代にともにプレーしたアクラフ・ハキミとユニフォームを交換。マルキーニョスらとも抱き合い、声を掛け合ってはいたが、ロッカールームへと引き上げていく表情は険しいままだった。
マイアミのベテランGK、オスカル・ウスタリが、メッシを気遣うように語る。
「我々のキャプテンとして、リーダーとして、レオがどれほどすばらしい存在であるか。でも、彼にとって、それが難しいのも確か。彼は最高のチームのひとつに所属することの難しさも、まだ駆け出しのチームで抜けた存在になることの難しさも理解している」
ファンやメディアにとっては注目の一戦も、当のメッシが特別な感情を抱く理由などなかった。それは、ただただ悔しい敗戦だったのかもしれない。