写真 女子SPA!で大きな反響を呼んだ記事を、ジャンルごとに紹介します。こちらは、「義実家・家族」ジャンルの人気記事です。(初公開日は2022年7月28日 記事は取材時の状況)
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帰省のシーズンとなりました。実家が居心地のいい場所なら良いけれど、幸せな思い出が少なく家族とも疎遠になっている場合、帰省はストレス覚悟の大決意ともいえます。
佐田優子さん(仮名・36歳)にとって、18年過ごした家は積極的に足を向けたいとは言い難いところでした。
◆「お前は出来損ない」実家はいつもギスギスしていた
「父と母方の祖母の折り合いが悪く、祖母が父の仕事について『無能』と言っていたり、食事のときに父だけ食卓につかなかったり、いつもギスギスしていました。
母は祖母に味方しないといつまでも愚痴を言われるので仕方なく従っている感じで、父とは楽しそうに会話している姿など見たことがありません」
こう話す佐田さんは、「私と2つ上の姉はいつも母と祖母から勉強で一番を取るように言われていて、成績を比べられていました」と窮屈(きゅうくつ)だった実家での生活を振り返ります。
「姉は要領がよくテスト勉強を適当にやっても良い点を取るのですが、私は反対に物覚えが悪くて本番でも失敗するタイプ。
通知表を並べられて『お前は出来損ないだ』と言われるのが本当にイヤでした」
姉ばかりかわいがる母と祖母に嫌気がさし、「高校生になるとちょっと悪い遊びもしました」と言う佐田さんですが、図書館の司書になりたいという夢を持ち大学への進学を希望、無事に合格して実家を飛び出します。
◆実家とはしばらく音信不通だったけれど
それからは2年に一度くらいの頻度で実家には帰省していましたが、先に結婚して子どもができた姉の家庭ばかり優遇しては「お前と結婚する男なんていないだろう」とおとしめてくる母と祖母に耐えられず、しばらく音信不通だったそうです。
そんな佐田さんの意識が変わったのは、自分も結婚して長男が産まれたとき。
「夫の両親には結婚前に、正直に自分の家族のことは話しました。仲の悪い家族で居づらかったこと、ずっと馬鹿にされて生きてきたこと、夫との結婚は報告だけで済ませることなど、『これで反対されたら仕方ない』と覚悟を決めて。
でも、義母も義父も『今のあなたは一生懸命生きているじゃない』と受け止めてくれて、その時はうれしくて涙が出ましたね」
結納も行わず婚姻届を提出し、実家の近くに住む姉に「結婚したから」と新しい名字だけをショートメールで送ったら「非常識」とさんざん罵倒されたそうですが、「どうせ今後も付き合いはないし」と佐田さんは気にしなかったそう。
それでも、初めての妊娠で無事に出産できたとき、義母から
「実家が嫌なのはよくわかるのだけど、あなたのご両親も赤ちゃんには会いたいと思うのではない?」
と実家に行くことを提案されました。
◆嫌な思い出も許せるような気がしていた
夫からも「君の地元を見てみたいな」と言われた佐田さんは、
「何年も帰っていないけれど、今は一人じゃなくて頼れる夫もかわいい赤ちゃんもいるし、もう一度だけ顔を合わせてみようかと思いました」と帰省を決意します。
姉に帰省するつもりであることを伝えると、「結婚相手も見たことないし、赤ちゃんにも会いたい」と“一応は”歓迎するような雰囲気だったそうです。
「父や母とは話さなかったのですが、姉が『言っておくから』と返してくれて、実家に帰る日は駅まで父が迎えに来ることが決まりました」
実家から離れて10年以上、出産が終わって夫と赤ちゃんと幸せな毎日を過ごす佐田さん。「その時は、実家での嫌な思い出も、許せるような気がしていたのですよね……」と小さな声でつぶやきました。
◆ここどこ? 連れて行かれた「見たこともない家」
帰省の当日、久しぶりに地元の駅に降り立った佐田さんは、昔と違い大きなショッピングセンターやフランチャイズの飲食店が並ぶ駅前を見て感動していたそうです。
「家族とは笑顔で会える」、夫にもそう話していた佐田さんの前に現れた父親は、予想に反しての仏頂面でした。
佐田さんにも、佐田さんの夫にも「こんにちは」とだけ短く挨拶し、さっさとクルマに向かう父親の後ろ姿を見て、上がっていたテンションが一気に下がります。
そして、父親の車に乗り込んで連れて行かれた先は、見たこともない家でした。
「え、ここどこ?」
当たり前のように駐車場に車を停める父親に声をかけると、
「前の家はもう取り壊した。今はここに住んでいる」
と父親は佐田さん一家の顔も見ずに答え、さっさと玄関を開けて中に入るのでした。
◆「家族ですらない自分」を目の当たりにして
「……」
呆然とする佐田さんたちは、戸惑いながら足を踏み入れた知らない家で、姉から
「前に住んでいた家、だいぶ古かったから壊して更地(さらち)にしたのよ。あなたの私物? そんなもの、出ていったんだから捨てるに決まってるでしょ」
と平然とした顔で言われ、さらにショックを受けます。
「あり得ない事態に夫はドン引きしていました。うちの家族がおかしいのは以前から話していたけど、たぶん想像を上回る異常さだったと思います」
ため息をつきながら、佐田さんは帰省した日のことを振り返ります。
客間に放り込まれたものの母は外出していて年老いた祖母は部屋にこもりきり、お茶を出してくれる様子もなく姉はリビングでテレビを観ており、意気消沈する夫と一緒に「明日帰ろう」とすぐに決めたそうです。
◆「年収は?」夫をじろじろ品定めする母や祖母
夕食について誰からも声をかけられないのを見て佐田さん一家は外食に出かけ、帰宅してからやっと母や祖母と会話しましたが、
「夫をじろじろ見ては勤めている会社の名前に役職に年収にと、あからさまに品定めする様子が本当に気持ち悪くて。
でも、夫のほうは覚悟していたのかうまくかわしてくれて、後でふたりになってから『どうせもう会わないしね』とつぶやいていたのが今も忘れられません」
と、昔と変わらず感じる居心地の悪さに「二度と帰らない」と誓います。
赤ちゃんを抱っこさせるのも恐ろしく、「疲れて熱が出ているみたい」と断って後はずっと客間に引きこもり、次の日の朝になると「息子の体調が良くならないから帰る」と言って家を出ました。
「とっくに私は家族じゃなくなっていたのだな、と思いました。
結婚を報告したときに非常識と言われたけど、自分たちはその前に私の私物を勝手に捨てて実家を取り壊して、どっちがひどいのかわからないですよね。もう実家に行くことはないです」
あれ以来また音信不通となったことを、佐田さんは「今度こそ縁を切る」とこのときだけ強い口調で言い切りました。
<文/ひろた かおり イラスト/朝倉千夏>
【ひろたかおり】
恋愛全般・不倫・モラハラ・離婚など男女のさまざまな愛の形を取材してきたライター。男性心理も得意。女性メディアにて多数のコラムを寄稿している。著書に『不倫の清算』(主婦の友社)がある。