都議選の結果に対し石破首相は「非常に厳しい審判をいただいた。結果を分析し、今後に生かしていかなければならない」と述べたが、分析の結果は明白だろう 写真/産経新聞社―[言論ストロングスタイル]―
夏の参院選が7月3日に公示された。7月20日の投開票に向けて、争点となるのは「物価高対策」「就職氷河期対策」「政治とカネ」などさまざま取り上げられているが、やはり「減税」だろう。国政の行方を占う都議選が行われ、自民党は大きく議席を減らした。果たして参院選はどうなるのか。今回の都議選の結果を詳細に分析し、憲政史研究家の倉山満氏が解説する。(以下、倉山満氏による寄稿)。
◆減税の流れを止めた「山尾ショック」
このコストプッシュインフレの状況で正しい経済政策は何か。減税である。国民は税と社会保障のコストに苦しんでいるのだから、そのコストを下げればいい。つまり減税だ。
昨年の衆議院選挙以来の減税を求める国民輿論が国政を動かし、七大政党中六つまでが減税を公約に掲げる流れになった。頑なに減税を拒否しているのは、自民党のみ。
しかし、減税の流れを止めたのが、「山尾ショック」。減税を牽引してきた国民民主党が、とかく問題が多かった山尾志桜里元衆議院議員を公認すると発表した途端、支持率が激減。機を同じくして小泉進次郎農相のパフォーマンスが功を奏し、自民党の支持率が回復。連立与党の公明党まで参院選の公約から消費減税を取り下げた。減税など言わなくても選挙に勝てるとばかりに。
ところが自民党が調子に乗りすぎた。1兆円の財源が無いからと減税を拒否したのに、自分は6兆円の給付。しかも党首討論で「給付はやらない」と石破茂首相が啖呵を切った2日後……。
先日22日開票の東京都議選で、審判が下った。
◆いまだに有権者の怒りは「政治とカネ」だと思っている自民党
自民党は、21議席の歴史的大敗。さすがに国民を舐めすぎだろう。しかもいまだに「政治とカネ」で有権者が怒っていると思っている。この党の存在意義は、国民に飯を食わすことだろうに、いつから庶民感覚とかけ離れた政党になったのか。
公明党は19議席だが、32年続いた全員当選が途切れた。3人も落選。与党であるだけに“もらい事故”と捉えるか、自ら消費減税の旗を降ろした自業自得と捉えるか。この党も、自民党の“下駄の雪”で良いのか、考え直した方が良い。
立憲民主党は、17議席で野党第一党。まずまずの結果。ちなみに都議選と同日に行われた船橋市長選で、野田佳彦直系候補が落選した。代表の地元での敗北で「示しがつかない」との声もある。
日本共産党は、14議席で野党第一党から滑り落ちた。党員の高齢化(つまり若者離れ)が進み、党勢退潮に苦しんでいる。ただ、立憲民主党との選挙区調整を進め、「立憲共産党」はまずまずの成果。
国民民主党は、数か月前は「手を挙げれば通る」勢いだった。しかし、「山尾ショック」で支持率低下に苦しんだが、9議席。18人の候補全員の当選とはいかなかったが、党勢回復の芽が見えた。
小池百合子都知事が率いる地域政党都民ファーストは、31議席で第一党に返り咲き。減税を求める無党派層の受け皿になった。都政では友党の国民民主党と合わせ、40議席。都政与党の自民公明と合わせ、安定した運営が想定できる。
ただ、明確に減税を掲げた訳ではなかった。だから定数1の千代田選挙区では、現職が減税を掲げる無所属の候補に敗れた。政党が支持されているのではなく、政策を支持する賢い有権者が増えてきている。
◆橋下徹氏、大阪維新の会以外はド〜でもいいらしい
都議選では都民ファーストが、自公に批判的だが、立憲共産党もイヤと感じる勢力の受け皿になったが、7月の参議院選挙ではどこへ?
悲惨なのが、日本維新の会。前体制では減税と規制改革を前面に打ち出していたが、現体制になってからは忘れたかのよう。あげく、「教育無償化と引き換えに予算に賛成、減税を潰した」とすら見られている。結果、当選者ゼロ。現職も落選。この党の実質的党首とも言うべき創業者の橋下徹氏は「国政維新は大阪の下請けが嫌なら出ていけ」とまで放言しているが、本当に潰す気か。この人、大阪維新の会以外はド〜でもいいらしい。
東京で維新を名乗るの、大阪で都民ファを名乗るくらい厳しい。そうした苦労を乗り越えて積み上げてきた東京維新の会のみならず、日本維新の会(国政維新)はたった1年前まで勢いがあった。その理由を思い出すべきだろう。
意外だったのが、れいわ新選組。0議席。ただ減税を掲げていても、それだけでは支持されないのは有権者の良識と言えば、言いすぎか?
◆「山尾ショック」の最大受益者は参政党
「山尾ショック」の最大受益者が参政党。と言えば失礼だろうか。3議席。国民民主党から離れた層が流れている。今や政党支持率で維新を上回る。ただ、この党は正しいこと“を”言っているのではなく、正しいこと“も”言っている党。反ワクチン陰謀論に始まり、スピリチュアルやネットワークビジネス紛いの手法で支持を広げている。
それは本人たちの勝手だが、最近この党が発表した憲法草案には仰天した。憲法典に道徳を書き込むなど序の口で、「財政は、経世済民を目的とし」などと曖昧模糊とした条文だらけ。「税は唯一の財源ではない」などと、分かる人にはわかるMMT思想全開。MMT(現代貨幣理論)とは、独特すぎる経済思想で、さらにその異端が日本版MMT。こういう政党に負けて、維新は悔しくないのかと言いたい。
一部で騒がれた再生の道は、42人も候補者を立てて全滅。同党の石丸伸二氏にしても、あるいは安野貴博氏のチームみらいにしても、都知事選で善戦したが、しょせんは小池都知事に負けた人。その人たちが作る政党が、都民ファーストの上に行けるとは、どういう理屈か?
◆再び減税の火が燃え上がり始めた
さて、都議選は常に国政の行方を占う選挙だった。特に今年は12年に一度の、参議院選挙が重なる年。
1989年は、土井たか子のマドンナ旋風で、都議選の勢いのまま、自民党宇野宗佑が36議席の記録的大敗。3年前の衆参同日選挙で得た多数を一気に失って、ねじれ国会へ。
’01年は、逆に小泉旋風で、都議選・参議院選と連勝。
’13年も、自民党が都議選・参議院選と連勝して、安倍晋三長期政権の基礎となった。
さて、今回は?
自民党は与党で過半数、合計50議席を掲げている。この調子では、宇野内閣を下回りかねない。しかし、頑なに減税を拒否するなら、致し方あるまい。
「山尾ショック」で減税の火が風前の灯となったが、再び燃え上がり始めた。まだ可能性はある。
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【倉山 満】
憲政史研究家 1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『噓だらけの日本中世史』(扶桑社新書)が発売後即重版に