“赤字メニュー”も辞さず それでも収益を生むフランス料理の設計術

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2025年07月04日 09:21  ITmedia ビジネスオンライン

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“黒字経営”を支えるワインと原価率は?

 一般的にレストランの食材費は売り上げの30%と言われていますが、メニューよって原価率は異なります。レストランではすべてのメニューを平均して目標とする食材費比率になるように、メリハリをつけています。


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 例えば、黒毛和牛やトリュフ、オマールブルーやキャビアなど、高級食材を使用している場合、無理に原価率を30%に落とし込もうとすると、価格が高くなってしまい、注文されにくくなってしまいます。そのため、高級食材を使用するメニューは原価率を高くする代わりに、サラダやパスタ、卵料理などで原価率を抑えて、全体で30%に収まるように工夫しています。


 コースでは、どのメニューも同じ原価率にすると、高い食材を組み込めなくなってしまいます。コース全体で考えて、アミューズや前菜類、デザートや小菓子などで原価を抑えて、メインディッシュにコストをかけられるようにしています。


 同じワインでも、ボトルは30〜50%と原価率を高くして良心的な価格にし、グラスは6〜8杯取り(125〜約90ミリリットル)にして、20〜30%と原価率を低く設定します。グラスワインは利益率が高いものの、少量に分けて値段を安くしているので、オーダー数が増えます。ボトルワインは単価が高いので、利益率を下げても収益を確保できます。


●レストランでのワインの仕入れ価格


 レストランでのワインの仕入れ価格は通常の小売価格の70%程度ですが、高価格帯であれば50%、低価格帯であれば80〜90%になることもあります。仕入れる数量が多かったり、直接生産者から仕入れたりすれば価格を抑えられます。ペアリングに組み込んだり、グラスで提供したりして、できるだけロスがでないように工夫しています。


 日本酒もワインと同様に、半合(90ミリリットル)、1合(180ミリリットル)、4合瓶(720ミリリットル)と容量が増えていくにしたがって、原価率が高くなります。


 飲食店、特に個人事業主の場合は、経営や原価管理がどんぶり勘定であるとよく指摘されます。食材の価格変動をキャッチアップできていなかったり、レシピで食材の分量がはっきり決められていなかったり、決められていたとしても、その通りにつくられていなかったりして、想定よりも原価率が高くなったりするのが理由です。利益よりも売り上げや客数が重視されることも、一因に挙げられます。


●長く愛され続けている名店の共通点


 飲食店はほかの業種と比べて廃業率が高く、経営していくのが容易ではありません。新規開業から1年で10〜30%、3年で50〜70%が廃業し、5年続くのは10〜15%、10年続くのは5%であると言われています。


 一方、フランス料理の歴史が浅い日本において、40年以上続くレストランがあります。「ロオジエ」(1973年開店、以下同じ)、「銀座レカン」(1974年)、「マダム・トキ」(1978年)、「ラ・ロシェル」(1980年)、「レストランひらまつ 広尾」(1982年、前身は西麻布の「ひらまつ亭」)、「アピシウス」(1983年)、「トゥールダルジャン 東京」(1984年)、「シェ・イノ」(1984年)、「レストラン・パッション」(1984年)などが、そうです。長く愛され続けている名店には、次に挙げる4つの特徴があります。


(1)スペシャリテの存在


 「ラ・ロシェル」の「ラングスティーヌ(赤座海老。日本では手長海老とも呼ばれています)料理」、「アピシウス」の「半生ステーキ ビトーク アピシウス風」、「トゥールダルジャン 東京」の「幼鴨料理」、「銀座レカン」と「シェ・イノ」の「仔羊のパイ包み焼き マリア・カラス」(井上旭氏が両店で提供)、「レストラン・パッション」の「カルカッソンヌ風カスレ」など、これぞというスペシャリテがあります。すべてのメニューがおいしいというだけでは、深く記憶に残りません。定番料理があると訴求力があり、人にも勧めやすくなります。一度はそのスペシャリテを食べてみたいと訪れるゲストも少なくありません。


(2)確立されたブランド力


 「ラ・ロシェル」の坂井宏行氏や「レストランひらまつ 広尾」の平松宏之氏、「レストラン・パッション」のアンドレ・パッション氏は知名度が高く、カリスマ性があります。


 フランスに本店を置く「トゥールダルジャン 東京」や、フレンチの黄金時代を支えてきた「銀座レカン」「アピシウス」「シェ・イノ」は、シェフが代替わりしても燦然と輝いており、一目置かれた存在となっています。シェフやレストランに宿ったブランド力が新しいゲストを引き寄せ、リピーターの来店を堅持しています。


(3)優雅な空間


 エレガントな階段や期待感を高める長いアプローチから始まったり、ウェイティングスペースでひと息ついてからダイニングへ案内されたり、ダイニングから中庭が鑑賞できたり、豪華なインテリアが設えてあったり、シャンデリアが吊り下げられていたり、暖炉が備えられていたりと、非日常的で優雅な空間が創られています。個室が設けられていて、記念日や特別な集まりにも利用しやすく、後のちまで残る思い出となります。


 34席の「ロオジエ」、45席の「マダム・トキ」、48席の「銀座レカン」は席数が少ない分、ダイニングは広々としていてテーブル間隔に余裕があり、寛いで食事ができます。


(4)迫力ある演出


 通路幅が広く、テーブルも大きいので、躍動感あふれるゲリドンサービスが行われたり、何種類ものパン、珠玉のデザートや見たこともないようなフロマージュ、最後のミニャルディーズ(小菓子)が、ワゴンやプラッター、ボックスで運ばれて来たりと、あっと声が上がるような迫力ある演出が行われています。「トゥールダルジャン 東京」でナンバリングされた鴨のカードが贈られるのも、この時かぎりの食事を記憶するよい記念となります。


※この記事は『レストランビジネス』(東龍/クロスメディア・パブリッシング)に掲載された内容に、編集を加えて転載したものです。


(東龍、グルメジャーナリスト)



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