「身の丈」に合ってなかった? 再開発で「中断」「延期」相次ぐ 中野・津田沼・五反田から学ぶ

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2025年07月08日 06:00  ITmedia ビジネスオンライン

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首都圏で再開発の中止や延期が相次いでいる(出所:ゲッティイメージズ)

 首都圏で再開発事業の中止が相次いでいる。約260メートルの超高層ビルに建て替える予定だった中野サンプラザについて、区が正式に「白紙化」を発表した。工事費の高騰で当初の案がとん挫したためだ。


【画像】津田沼や五反田で計画されていたビル(全2枚)


 津田沼駅前の複合商業施設「モリシア津田沼」もタワマンと商業施設から成る複合施設に建て替える計画だったが、建築費の高騰で中断し、五反田のTOCビルも建て替えを延期。タワマン需要は堅調でも、店舗やオフィスを内包する複合ビルが事業中止に追い込まれている。東京近郊で相次ぐ再開発中止の実態を追った。


●なぜランドマークの建て替えが混迷したのか


 中野区議会は6月19日、中野サンプラザの再開発事業について、野村不動産ら事業者と結んだ事業推進の協定を解除する議案を全会一致で可決した。中野サンプラザは1973年に竣工したビルで、当初は厚生労働省の外郭団体が所有し、2004年に中野区が出資する第三セクターに売却。ホテルやコンサートホール、結婚式場などがあり、中野区のランドマークとして愛されてきた。


 現職の酒井直人区長は2018年の区長選で中野サンプラザの建て替え方針を発表し、再開発計画が始動した。老朽化のほか、再開発による収益を区役所の建て替えに充てることなどが理由だった。その後、野村不動産を代表とするグループが施工予定者として決まり、2023年11月に都市計画が決定した。


 しかし、その後に雲行きが怪しくなる。野村不動産が都に出していた施工認可について、建築費の高騰で費用が収益を上回ると判断して取り下げ。事業計画の見直し案を提出したものの区は拒否し、前述の白紙化に至った。


●「身の丈」にあった計画だったのか


 当初の案では跡地に高さ262メートルの超高層ビルを建設する予定だった。低層階には店舗やホテル、ホール、コンベンションセンターなどが入居し、中層階は住宅、高層階はオフィスという構造だ。旧中野サンプラザの高さは92メートルであり、その機能を継承しつつ住宅とオフィスを追加するようなビルである。


 当初想定していた工事費は1210億円で、2024年1月には1845億円に引き上げたが、この時点では住宅の値上げでまかなえるとし、中止とはならなかった。しかし、7月の施工認可申請後に野村不動産側は工事費がさらに900億円上昇する旨を区に伝えた。


 前述の見直し案はツインタワーとする案で、住宅の比率を従来案の4割から6割に拡大、オフィスを4割から2割に縮小するもの。しかし、中野サンプラザを継承するという名目上、タワマン要素の拡大に区は不服だったとみられる。そもそも262メートル超の複合ビルは丸の内、新宿レベルの規模であり、中野エリアでは身の丈に合わない計画だったといえる。


●津田沼駅前の再開発も中断


 津田沼駅前の複合商業施設「モリシア津田沼」も再開発が中断している。モリシアは1978年に「サンペデック」として開業し、大規模改装と改称を経て2008年にリニューアルした。スターバックスやすき家などの飲食店、ニトリや書店、洋服店があるモールだったが、施設を所有する野村不動産は老朽化を理由に再開発を決定して2025年3月に閉店。再開発の大義名分として使われる「老朽化」だが、モリシア津田沼は若者も多く、休日はにぎわっていた施設である。


 計画では駅に面する緑地部分を縮小して、低層階の面積を拡大。低層階から分岐する多棟構成の施設で、地下1階〜地上4階までが商業施設、分棟にオフィスや文化ホールが入居する構造だ。地上52階建て・高さ187メートルのタワマンも建てる計画である。


 2027年に着工、2031年の竣工を目指していたが、2025年5月に野村不動産が建築費を理由に再開発の中断を市に申し入れている。部分的な再開も検討し、現在は設備の点検にも着手しているという。


 サンプラザやモリシア津田沼の再開発事業で高層住宅を含めるのは、住宅販売による収入をあてにしているためだ。東京23区内の場合、1戸当たり1億円と仮定すれば、100戸で100億円の収入が得られる。要は複合施設部分だけでは収益が成り立たないのである。


●二転三転した「TOCビル」


 卸売業者が数多く入居するビルとして知られる五反田のTOCビルは1970年に竣工。地下3階、地上13階建ての横に広いビルで、オフィスや飲食店、小売店も入居している。


 2021年に事務所や店舗、住宅などが入居する地上30階建てのビルに建て替える計画を発表しており、2023年春の着工を目指していたものの、建設関連費用の高騰を理由に延期。2024年3月に閉館したが、翌月に計画の見直し・再延期を公表している。分譲事業の追加を検討するとしており、中野サンプラザ再開発の見直し案と同様、住宅に頼らざるを得ない状況がうかがえる。結局、2024年9月に現ビルのまま営業を再開し、工事着工は2033年ごろを予定している。


 あらためて、首都圏で再開発事業の中止が相次ぐ主な要因は建築費の高騰だ。建設物価調査会が公表する「建築費指数」は2015年を100とすると、現在140前後で高止まりしている。人件費の高騰や円安が影響し、強気な開発が難しくなっているわけだ。適切に維持管理すればRC造のビルは100年もたせることも可能とされる。身の丈に合った計画を立て、長期利用を検討する時代に来ている。


●著者プロフィール:山口伸


経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。



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