
東京ヴェルディ・アカデミーの実態
〜プロで戦える選手が育つわけ(連載◆第4回)
Jリーグ発足以前から、プロで活躍する選手たちを次々に輩出してきた東京ヴェルディの育成組織。この連載では、その育成の秘密に迫っていく――。
◆第3回:東京Vのアカデミーが抱えていた苦悩「ブランド力がなくなって...」>>
東京ヴェルディユースと言えば、伝統的にテクニック重視で知られる、いわば"キャラの立った"クラブである。当然、そのスタイルに憧れて門を叩く選手は多く、ヘッドオブコーチングの中村忠によれば、「それは今も変わっていない」という。
「ただ......」。中村はそうつないで、続ける。
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「それは子どもたちというより、どちらかというと、親世代(の影響)が強いように感じます。たぶん親世代がヴェルディのよさを知っていて、小さい頃に親と一緒にヴェルディの試合を見たり、スクールに入ったりした子たちが、ヴェルディに入ってくれるんだと思います」
かつてはJリーグ屈指の人気を誇ったヴェルディも、長らくJ2で低迷したこともあって、知名度は低下。昔のことを知らない子どもたちへの訴求力もまた失われたのだろう。その結果、アカデミーにおいては、かつてほどの人材が集まらなくなった事実は否定できない。
だが、アカデミーにおける選手育成において、決して変わらないものもあると、中村は言う。
「アカデミーのスタッフが変わっても同じものを共有できていて、ずっと大事にしているものが受け継がれて、そのなかで這い上がった子たちがプロにつながる。そういう構造は変わっていません。
たとえ声をかけた選手がヴェルディに来てくれなかったとしても、その選手も応援しながら、声をかけて来てくれた選手や、ヴェルディでやりたいと言ってくれた選手を大事に育てるっていうところは、ぶらさずにやっています」
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今春、ヴェルディではユースチームのセレクション実施に際し、中学3年生の参加選手を募集したが、選手寮を持たないヴェルディは、その応募条件を〈自宅から通える選手〉としている。単純に考えれば、人材獲得をより難しくしてしまいかねない条件である。
だが、中村はそれについても、「デメリットばかりではない」と言いきる。
「もちろん、寮があればアカデミーも対象者が増えますけど、今のヴェルディはそういうものが(予算的に)持てない状況から這い上がって、徐々にトップチームを中心に成果が積み上がってきている状態だと思っています。
今後、流れとしてはそういう(寮を持つべきだという)方向に行くのかもしれないですけど、僕は今の状態が別に悪くないのかなと思っています。何より地元の選手を大事にしたいですし、東京、神奈川はもちろん、埼玉の手前(東京寄り)ぐらいまでは通えるので、そういう選手たちにしっかりと目を向けて、そのなかで輝く子をみんなで見つけて磨いていけばいいだけの話なので。そういった意味ではデメリットもあるけど、メリットもあるのかなと思います」
では、ヴェルディが"輝く子"を見つけるポイントは、どんなところにあるのか。
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中村の言葉を借りれば、「やはり技術的なものは、このチームがこだわっている部分」だが、加えて「ヴェルディの選手は、比較的サッカーの理解度が高い選手が多いのかなという印象はあります」という点も聞き逃せない。
事実、ヴェルディユースからトップチームに昇格したあと、J1クラブに引き抜かれていく選手が近年多かったのは、そうした戦術理解力やサッカーIQと称される能力の高さによるところが大きかったのかもしれない。
中村が語る。
「なんだかんだ言って、そういうものがないと、プロでは最終的に難しいと思います。特にJ1やJ2では、フィジカルだけでは通用しない部分がある。やっぱりヴェルディ育ちっていうのは、技術や個人戦術に長けているので、そこにメンタリティやフィジカルっていうところが加われば、かなりいい選手になれる素材がいるんだなっていうのは実感しています」
(文中敬称略/つづく)