売れなかった「水筒みたいな氷のう」が逆転ヒット メーカーも予想しなかったSNSの“バズ”

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2025年07月08日 08:20  ITmedia ビジネスオンライン

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シンプルなデザインの「アイスパック」

 2023年夏、SNSでの口コミをきっかけに、ある商品が品切れ状態となるほど注目を集めた。老舗魔法瓶メーカー、ピーコック魔法瓶工業が展開する携帯氷のう「アイスパック」(希望小売価格3280円)である。


【写真5枚】魔法瓶の技術を応用した「水筒みたいな氷のう」(3280円)、もっとよく見てみる


 2025年6月時点でシリーズ累計出荷数は50万本を超えたが、発売当初の2年間は販売不振に苦しんでいた。なぜ“売れない商品”がここまでの成長を遂げたのか。


●魔法瓶技術の新たな応用先


 アイスパックは、氷のうを真空断熱構造の専用ホルダーに収納することで長時間の保冷を可能にした携帯型アイテムである。保冷性能の高さは、同社が1950年の創業以来培ってきた魔法瓶技術の応用によるもので、製品テストでは氷点下を長時間維持できる結果が確認されている。


 真空断熱ホルダーは外側が結露しない構造となっており、カバンの中でも他の持ち物を濡らさない点がユーザーから評価されている。加えて、コンパクトな形状と取り出しやすさも支持され、2024年度にはグッドデザイン賞を受賞した。


 この商品の着想は、同社の山中千佳社長の個人的な経験に端を発する。夏のゴルフプレー中に使用していた従来型の氷のうがすぐにぬるくなることに不便を感じ、自社の魔法瓶ボトルに氷のうを入れてみたところ、プレー後も冷たさを維持していたという。これが商品開発の起点となった。


●売れない時期をどう乗り越えた?


 2021年、同社は布製の氷のうを専用ホルダーに収めたアイスパックを発売したが、市場の反応は鈍く、販売は伸びなかった。これを受けて用途とターゲットを見直し、スポーツシーン中心から「通勤・通学・外出」といった日常用途へと焦点を移行。氷のうも布製からシリコーン製のスティック型へと変更し、2022年には携帯性を高めた「ミニアイスパック」を開発した。


 しかし、この改良版も発売直後は市場に受け入れられなかった。形状から水筒と誤認されるケースが多く、想定された価値が伝わりにくかったことが原因である。


 状況が一変したのは2023年夏。とあるX(旧:Twitter)の投稿が“バズった”ことが大きな転機となった。


 「気温36度、エアコンなし小学校に投稿する小1娘に持たせたもの」として紹介され、アイスパックの性能を端的にまとめた投稿が126万インプレッション、8000件を超える「いいね」が付き、大きな反響を呼んだ。


 この投稿がきっかけで、投稿主の地元である北海道のローカル番組をはじめWebメディア、ラジオ番組とメディア露出の機会に恵まれ、認知が広まっていったという。


 実は投稿主は、ピーコック魔法瓶がもともと2022年にマイクロインフルエンサーとして起用した人物だった。しかし、当時のInstagramの投稿は「そこまでの反響はなかった」と同社の広報担当者は振り返る。「(PR案件としての依頼ではなく、)お子さまの熱中症対策と『ネッククーラーの冷たさが復活する』という内容が、おそらくフックになったのではないか」(同担当者)ということだ。近年ますます過酷になっていく日本の夏と、「子どもを守るため」というメッセージが多くの人の心を打ったのかもしれない。


 この勢いを受け、2024年にはカラーバリエーションを刷新。よりカジュアルなモデルを投入すると、売れ行きは想定を大きく上回り、夏の終盤には在庫切れが各所で発生した。


 2025年には、さらに小型の「ミニアイスパックポケットABB-S07」(希望小売価格2480円)や、大容量モデルなどを展開し、シリーズのラインアップを拡充。2021年から3年間の累計出荷数は約10万本だったが、2025年3〜5月の3カ月だけで30万本以上を記録した。


●模倣品の台頭とブランド戦略


 ヒットの裏側では、新たな課題も顕在化している。2025年には類似品が複数登場し、安価な模倣品が市場に流通し始めた。同社はこれに対し、「保冷氷のうといえばピーコック」というブランド認知の確立を急ぐ構えだ。


 同社は品質に対する信頼を重視しており、魔法瓶メーカーとしての技術力と差別化された製品設計によって、市場全体の信頼性を損なわないようブランド価値を守る方針である。


 2025年夏の出荷見込みは60万本以上に達するとされており、来期以降もさらなる利便性と独自性を備えた新商品の開発を進めていくという。



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