日本男子卓球のエース・張本智和が語るシングルスでのメダルへの思い ロス五輪に向けては「日本にいても強くなれる」

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2025年07月08日 10:30  webスポルティーバ

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 卓球・男子日本のエース張本智和(トヨタ自動車)が欧州での国際ツアー2連戦で2025年後半戦の幕を開けた。

 その2戦目、6月29日のWTTコンテンダー ザグレブ 男子シングルス決勝では、今年1月のWTTコンテンダー マスカット決勝で敗れた中国の19歳・陳垣宇(チェン・ユアンユ)をストレートで下し、雪辱を果たした。

 WTTスターコンテンダー ドーハで優勝して以来、約半年ぶりとなる今季2つ目のツアータイトル。大会期間中の27日には22歳の誕生日も迎え、2028年ロサンゼルス五輪に向けて幸先のいいスタートを切った。

 8月7日からは、WTTチャンピオンズ横浜2025が開催される。6月9日、横浜市役所1階アトリウムに石川佳純さん(全農)、妹の美和(木下グループ)とともに記者会見に出席した張本が、あと一歩のところでメダルを逃したパリ五輪の雪辱を誓うエースとしての心境を語った。

【日本男子のエースとして走り続けた日々】

「今年は楽しく元気に頑張ります! チョレイ」

 22歳の誕生日、張本智和が自身のSNSに投稿したのは、両手でピースサインを作る屈託のない一枚の写真だった。ただ、「今年は楽しく」というひと言には、常に勝つことを期待される日本卓球界のエースの葛藤と矜持が見え隠れする。

 5月の世界選手権ドーハ大会はシングルス、ダブルスともに3回戦敗退。成績目標をあえて立てずに臨んだ大会だったが、シングルスでこれまで何度も勝ったり負けたりを繰り返してきたライバルの戸上隼輔(井村屋グループ)にゲームカウント1―4で敗れ、冷静に結果を受け止めながらも悔しさを隠せなかった。

「力を出しきったが打ち合いで負けてしまった。相手が素晴らしいプレーだった」と相手を称える一方、「ちょっと休みたいです。パリ五輪が終わってここまでノンストップで駆け抜けてきたので」と率直な思いを口にした張本。世界選手権後は束の間の休息を挟んで練習を再開し、WTT欧州2連戦へと旅立った。

 パリ五輪の日本代表選手は自動的に世界選手権の出場権を得ていたため、張本はパリ五輪後も高いモチベーションを維持してきた。その証拠に、昨年10月のアジア選手権アスタナ大会でシングルス優勝。決勝では世界ランキング1位の林詩棟(中国/リン・シドン)をゲームカウント3―1で破り、日本に50年ぶりの金メダルをもたらした。本人の言葉どおり、まさに「ノンストップ」で走り続けてきたのだ。

【「ロス五輪まで海外リーグに出るつもりはない」】

 そんなハイペースな日々も、世界選手権でようやくひと区切り。今の張本は「気持ちを重く持ちすぎず、目の前の試合を1戦1戦シンプルに全力でプレーしていこうという感じです」と語る。2028年ロサンゼルス五輪に関しては、日本代表選手の選考基準がまだ固まっておらず、話題にするのは時期尚早かもしれない。ただ張本が今後、どのように競技力向上を図っていくのかは誰もが注目するところだ。

 例えば、戸上は昨シーズンから欧州最高峰の卓球プロリーグ、ドイツ・ブンデスリーガで力をつけ、世界選手権ドーハ大会でシングルス8強入り。ダブルスは篠塚大登(愛知工業大学)とのペアで日本勢64年ぶりの金メダルに輝いた。その篠塚も、この夏からブンデスリーガに参戦し、研鑽を積む。戸上も引き続きドイツを拠点に強化に取り組むなど、パリ五輪で共に戦ったメンバーが海外で揉まれる一方、張本の選択は違う。

「今のところ、ロス五輪まで海外リーグに出るつもりはまったくないです。行くとしたら中国超級リーグだけですね。日本にいても強くなれると思っています。実際、アジア選手権で優勝したり、パリ五輪も海外リーグに行ってないから負けたとは思ってません。仲間たちがドイツへ行っても、みんなそれぞれ自分が選んだ場所で強くなるだけ。その中で僕は、日本が一番いいと思っています」

 言わずと知れた世界最高峰の中国超級リーグは、中国のトップ選手たちがしのぎを削る場。海外の選手がスポット参戦するケースもあり、今年6月には妹の張本美和(木下グループ)も父・宇さんの出身地である四川省のチームからエントリーしたが、兄・智和は「このタイミング的に可能性はあったけど、今回は見送った」と言う。

【五輪、世界選手権のシングルスでメダルを獲るために】

 目下、味の素ナショナルトレーニングセンター(NTC)を練習拠点とする張本は、ナショナルチームの合宿時には参加選手たちと、それ以外は主に吉山和希(岡山リベッツ)と練習することが多いという。吉山は今年1月の全日本選手権ジュニアの部でチャンピオンになった17歳の成長株で、今季、張本が入団したTリーグの岡山リベッツでチームメートでもある。

 長年、エースに君臨する重圧は計り知れない。かつて同じ立場にあった日本卓球界のレジェンド・水谷隼(木下グループ)さんは「エースは勝って当たり前。負けたことがニュースになる」と語り、負けが込んでくると周囲が自分を非難する"敵"に見えたこともあったという。

 水谷さんからバトンを受け継いだ張本もまた、その孤独と戦っている。最近は「努力が必ずしも報われるわけじゃない」と口にすることがあるが、これには続きがある。

「それは覚悟の上。報われなかったとしても努力したことに後悔はないです」

 18歳で初めて出場した東京五輪。エースの自覚を持ってメダルを取りにいったパリ五輪。そして、2017年デュッセルドルフ大会から連続出場してきた、2年おきの世界選手権個人戦。その間、東京五輪では男子団体で銅メダル、2021年の世界選手権ヒューストン大会では混合ダブルスで早田ひな(日本生命)とのペアで銀メダルを獲得しているが、シングルスではまだメダルを手にしたことがない。

 届きそうで届かない大舞台でのシングルスのメダル。世界選手権ドーハ大会では24歳の伊藤美誠(スターツ)が女子シングルスで銅メダルを獲得したが、東京五輪で混合ダブルス金、女子団体銀、シングルス銅の偉業を打ち立てた彼女でさえ、世界選手権のシングルスのメダルはようやく果たせた悲願なのだ。

「(世界選手権は)また2年後になってしまいますけど、自分が現役であり続ける限り挑戦できる。くじけずに挑戦したいです」

 厳しい現実に何度跳ね返されても、張本は前を向く。これまでも、これからも。

 今は少し肩の力を抜いて心を休めてほしい――。そんな声も聞かれるが、張本は次なる戦いの舞台WTT USスマッシュ(7月3〜13日)に出場中だ。

 WTTシリーズ最高グレードの大会で北米では初開催。ラスベガスの会場に22歳の「楽しく元気」な「チョレイ!」が響くのを楽しみにしたい。

【プロフィール】

■張本智和(はりもと・ともかず)

2003年6月27日生まれ、宮城県仙台市出身。卓球選手だった両親の影響で2歳の頃からラケットを握る。小学1年生の時に全日本選手権(バンビの部)で優勝し、以降、同大会で6連覇を達成。中学進学と共にJOCエリートアカデミーに入校し、シニアの大会に本格的に参戦すると、世界選手権では史上最年少となる13歳でベスト8に進出、中学2年時の全日本選手権でも史上最年少優勝を果たすなど、国内外の大会で華々しい結果を残した。2021年に行なわれた東京五輪では、男子団体の銅メダル獲得に貢献。戦型は右シェークドライブ型。世界ランキング4位。(2025年7月1日時点)。

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