
会社が主催した丸一日のスキルアップ研修に参加したAさんは、非常に有意義な時間を過ごし、研修の終わりには心地よい疲労感と達成感に包まれていました。
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研修終了の直前には、講師から本日の研修内容を踏まえ、各自の業務にどう活かせるかA4用紙1枚程度のレポートを作成して提出するようにという指示が出されたのです。その指示に従って、Aさんは帰宅後にレポートに取り組み始めていたら、同僚から「レポートに割く時間って残業扱いになるのかな?」というメールが届きます。
Aさん自身は自己学習のための課題だと考え、残業になるとは思ってもいませんでした。一方で、同僚の言い分も理解できないわけではありません。会社主催の研修でレポートを課せられた場合、その時間は業務扱いになるのではないでしょうか。社会保険労務士法人こころ社労士事務所の香川昌彦さんに聞いてみました。
ポイントは「業務命令」か否か
ー研修後のレポート作成は業務扱いになりますか?
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明確に業務扱いとなるのは、会社の業務命令によるものかどうかです。翌日のプレゼン準備など、会社の業務に直接的に必要な研修のレポート作成は、明確に労働時間とみなされるでしょう。研修内容が「オラクルのシステム」のように、個人ではまず使うことのない、会社業務に特化したものであれば、そのレポート作成も業務の一環と判断される可能性が高いです。
研修が従業員の自己啓発支援を目的としており、参加が任意である場合、そのレポート作成は労働時間とみなされない可能性もあります。マナー研修などの従業員個人の利益にもなる研修がこれにあたります。
会社が費用を負担し、業務時間内の参加を認めていたとしても、その研修が本人の自由意志に基づくものであれば、付随するレポート作成は自己学習の一環と解釈される余地があります。
ー法的に問題なく運用するためにはどのような点に注意すべきですか?
法的に問題なく運用するためには、研修の目的と位置づけを明確にすることが重要です。研修を実施する前に、それが「業務命令」なのか「任意参加」なのかを明確に定義し、従業員に周知します。
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業務命令として研修を行い、レポート提出を義務付けるのであれば、作成時間は労働時間であることを会社が認識し、きちんと残業代を支払わなければなりません。意図せず労働時間と判断されるリスクがあることを理解しておくべきです。
自己啓発目的の研修であれば、レポートの提出も任意であることを明確にし、その提出の有無が人事評価などに一切影響しないことを保証する必要もあります。
ー勉強会や資格取得のための学習などが労働時間とみなされるケースはありますか?
「業務命令」として明確に指示したり、会社の特殊な業務にしか利用できない学習内容だったりすると、労働時間とみなされる可能性が高いです。資格取得が昇進・昇格の必須要件になっているなど、取得しないことによる不利益が明確で、事実上の強制力が働いている場合も、労働時間とみなされるかもしれません。
企業は、従業員の学習意欲を支援する際には、その学習が「命令」なのか「支援」なのか、その境界線を常に意識し、慎重に運用することが求められます。
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◆香川昌彦(かがわ・まさひこ)社会保険労務士/こころ社労士事務所代表
大阪府茨木市を拠点に、就業規則の整備や評価制度の構築、障害者雇用や同一労働同一賃金への対応などを通じて、労使がともに豊かになる職場づくりを力強くサポート。ネットニュース監修や講演実績も豊富でありながら、SNSでは「#ラーメン社労士」として情報発信を行い、親しみやすさも兼ね備えた専門家として信頼を得ている。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)
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