写真もし、長年一緒に暮らすパートナーの知られざる一面を目撃してしまったら……あなたならどうしますか?
今回はそんな夫の変化にドギマギしてしまった女性のエピソードをご紹介しましょう。
◆結婚して21年、もう10年以上セックスレス
廣田夏実さん(仮名・44歳/主婦)は、夫の哲也さん(仮名・46歳/会社員)と結婚して21年になります。
「娘が独立して出て行ってしまったので、すっかり家が静かになってしまいました。娘がいる時は意識していなかったのですが、哲也は仕事で家を空けることが多く、いつの間にかあまりコミュニケーションを取らなくなっていました。なので2人きりになるとどうしても気まずさを感じるんですよね」
哲也さんとは10年以上セックスレスで、最後にキスをしたのもいつか思い出せないそう。
「ですが別に不仲なわけではありません。娘のことについては話しますが、それ以外に共通の話題がないんですよね。そして今でも同じ部屋で寝ていますが寝具は別々です」
◆夫がBLドラマを観ながら泣いている?!
そんなある日、夜中にふと夏実さんが目を覚ますと隣の布団に寝ているはずの哲也さんがいませんでした。
「トイレに行くついでに、どこにいるんだろう? と探したらリビングのソファで電気もつけずにベッドホンをつけてノートパソコンをのぞきこんでいました。『あ、これはAVに違いない』と思い、まぁ仕方ないなと部屋に戻ろうとしたんです。そしたら、哲也が鼻を啜っているのが気になって。ふと顔を見てみたら泣いていたのでギョッとしてしまいましたね」
そして画面に目をやると、「金髪の凛々しいイケメンが、子犬系のかわいらしいイケメンの手を取って走って逃げて、抱き合って隠れる」というシーンを、哲也さんは繰り返し観ていたそう。
◆夫が恋愛ドラマで泣くなんてありえなかった
「慌てて部屋に戻って毛布にくるまりました。なんで哲也がBLドラマをこっそり観ながら泣いているの? と意外すぎる光景を目撃してなんだか怖くなってしまって。哲也はドラマなんてまず観ないし、しかも泣くなんてありえなかったんですよ」
実は2人がまだ彼氏彼女だった頃、こんなことがありました。夏実さんが夢中で観ていた恋愛ドラマを横で一緒に観ていた哲也さんが、感動シーンで涙する夏実さんに向かって「ま、でもしょせん作り話だしね」と言い放ち、大喧嘩になってしまったのです。
「それからもずっと哲也はスポーツとドキュメンタリーにしか興味がない様子だったし、はっきり言って泣いているところなんて、娘が生まれた時ぐらいしか見たことなかったんです」
◆もしかして夫は、男性に恋をしているのでは?
そして夏実さんはハッとしたそう。
「そういえば最近、哲也が急に男性用の洗顔フォームを買ってきたんですよね。今まで洗顔料で顔を洗ったことがないくせに。それで、もしかして夫は恋をしているのかな? と思ったんです。しかも男性に」
夏実さんのなかに様々な思いが駆け巡りましたが「今まで子育てばかりで哲也を構わなかった間、もしかしたら寂しい思いをさせていたのかもしれない。これまで私と娘の幸せを優先してきてくれた哲也にもし、あんなに涙するほど好きな相手ができたのなら、邪魔しないであげたい」とつい思ってしまったそう。
「本当に哲也はずっと仕事ばかりで、自分の時間なんて少ししかない中で頑張ってくれているんです。なのに家では私と娘が幅をきかせて偉そうにしていて……それも『はいはい』と受け止めてくれて。彼には感謝しているし、それに哲也が泣くほど感情が動くなんてよっぽどのことだと思いました」
◆「泣いてるところ見ちゃったんだけど」切り出した結果
そして翌日、勇気を出して夏実さんは哲也さんに「昨日の夜、哲也がBLドラマを観て泣いてるところ、見ちゃったんだけど……」と切り出し、自分の気持ちを全て話しました。
「そしたら哲也はすごくビックリして『違う違う! 恋なんてしてないよ。でもこのドラマにハマっているのは本当で……』と、とても恥ずかしそうにしていましたね」
きっかけは、哲也さんの男友達に「俺の推しの女優さんがこのBLドラマに出るから絶対にチェックしてくれ」と頼まれたことでした。渋々観始めてみると、男女の恋愛ものと違って未知の領域すぎる展開が続きます。かえって自分の経験からくる揚げ足取り的な雑念が入らず、徐々に心が近づいていく主人公のときめきや、ドキドキを、素直に感じることができ、いつの間にかドラマの続きが楽しみでたまらなくなってしまったのだとか。
「しかもそんな風に没頭できるのは主人公のイケメン俳優さん2人のおかげで、その綺麗な顔立ちと清潔感が恋愛の生々しさを緩和して、なおかつ尊い物語だと感じさせてくれるみたいです。感動した哲也は、イケメンにはなれなくてもせめて清潔感のある男性になりたいと、まずは洗顔から始めたそうなんです」
◆BLドラマをきっかけに夫婦仲が改善
そして哲也さんは「もし恋をしたのなら邪魔しないであげたい」という夏実さんの思いに複雑な気持ちを抱いたそう。
「『そこは、浮気なんてしたら許さない! ってしっかり怒ってよ』と言われて、つい笑ってしまいました。そんな風に思うんだって嬉しくなりましたね」
そしてその日をきっかけに、自然と哲也さんとの会話量が増えていきました。
「今では私もそのBLドラマにハマっているんですが、『哲也も一緒に観ようよ』と誘っても『また泣いちゃうかもしれないから恥ずかしい』と言って嫌がるんですよね(笑)」
2人はドラマに出てきた水族館を聖地巡礼で訪れたりと、一緒に楽しい時間を過ごせるようになったそうです。
<文・イラスト/鈴木詩子>
【鈴木詩子】
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:@skippop