
九州のとあるエリアの保健所に収容された元野犬のメスのワンコ。長らくエサにありつけていなかったのか、ガリガリに痩せこけ、ところどころ皮膚がはげ上がっていました。
初めて見る人間を前に、威嚇も攻撃もせず、ただただ隅っこで震えていました。
狭いところに逃げ込んで必死に気配を隠す
震えるワンコの前に、「大丈夫だよ。怖くないからね。これから一緒に過ごそうね」と声をかけたのは福岡県のボランティアチーム、わんにゃんレスキューのメンバー。野犬に「あんこ」と名前をつけてあげ、たっぷりの愛情を注ぎ幸せな犬生へと繋げることを目指すことにしました。
後に団体と提携する預かりボランティアさんの家でお世話を受けることになりましたが、あんこのビビリが解けるのはそう簡単なことではありませんでした。
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ケージから自発的に出てこられるようになるまで約1カ月。外の世界がとにかく怖い様子で、なんとかケージから出てきたとしても、すぐに狭いところに逃げ込んで「私ならいませんよ」と必死に気配を消します。
預かりボランティアさんの家のドッグランで散歩の練習をしようとしても、首輪やハーネスがとにかくイヤな様子。体をくねらせ、首輪とハーネスを器用に抜いてしまいます。
なかなか手強いあんこでしたが、それでもやがて預かりボランティアさんには心を開くようになり、柵越しに「ワンワン」と吠え、おやつをねだるようにもなりました。
預かりボランティアさんは「やっと、あんこが心を開きはじめたかも?」と判断し、団体主催の譲渡会に参加させてみることにしました。
しかし、初めて訪れる場所で、初めて会う多くの人たちと対面する譲渡会の場面では、忍法を使っているかのごとくまた気配を消してしまいます。やはりあんこが完全に人馴れするには、まだまだ時間がかかりそうです。
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供血には不思議と冷静だったあんこ
根気強く人馴れに挑戦し続けるあんこでしたが、ひょんな経緯で転機が訪れます。
それは動物病院の獣医師から団体への緊急LINEでした。その内容は「今すぐ輸血が必要なワンコがいるんですが、供血に協力してもらえそうなワンコはいませんか?」というもの。
普段なら団体では、他のワンコを出動させる場面です。しかし、今回は、そういったイレギュラーな場面も良い経験になるかもと、あんこに供血犬デビューさせることにしました。
あんこを動物病院まで連れて行く道中も「私をどこに連れていくんですか……」怖がる様子を見せました。しかし人間の会話や雰囲気から「これから他のワンコを救うのだ」と察しているのか、あんこがパニックになることはありませんでした。
そして、動物病院で適性を見るための血液検査、輸血のための採血、そして輸血後のケアのための点滴などを行いました。短い間に何度も針の抜き差しが行われましたが、この間、あんこは決して吠えず、終始動かずにお利口さんでいてくれました。
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多くの供血犬に接して来た動物病院のスタッフもびっくり。「こんなにお利口さんのワンコは初めてだ」と言います。
「出自や境遇が違うだけ、運命が異なる」複雑な気持ちも…
あんこは初めての供血で「助けを求める子」の役に立つことができました。
供血を受けたワンコは飼い主さんから大切に愛されている家庭犬でした。
「この子の命をなんとしてでも助けたい」「できることは何でもしてあげたい」……そんな飼い主さんの想いを支えられたことは喜ばしいことですが、その反面、あんこにはまだ幸せの犬生の一歩を踏み出すまでに超えなければいけないハードルがあり、いまだ「寄り添ってくれる家族」が見つからない状況です。
「同じワンコなのに、出自や境遇が違うだけで、ここまで運命が違ってしまうのか」と複雑な気持ちになったのも正直なところ。でも、あんこにとっての今の人馴れ訓練の日々はとびきり幸せな将来に犬生を送るためのもの。いつの日か、あんこが本当の自分をさらけ出せる、優しい里親さんとの縁が結ばれるはず。筆者はそんな風に思っています。
わんにゃんレスキューはぴねす
http://happines-rescue.com/
(まいどなニュース特約・松田 義人)