『障がい者専門風俗嬢のわたし』 (KADOKAWA)あらい ぴろよ (著)障がい者を専門とした風俗嬢。つくしがその職業を知ったのは、偶然流れてきたYouTubeでした。
普通なら見過ごすところを、つくしが深く考えたのは、つくし自身にデリヘル経験があったから。
◆「性」を隠すのはなぜ?
『障がい者専門風俗嬢のわたし』(KADOKAWA)は、タブー視されがちな世界に飛び込んだ、つくしの物語。看護師の資格取得のためにデリヘルで資金を稼いだつくしにとって、風俗は恥ずべき職業ではありませんでした。
障がい者の性は、なぜか都合よく隠蔽されてしまいます。人として当たり前に持つ欲求にふたをしてしまうのは、障がい者と接する側のエゴなのかもしれません。
つくしが目の当たりにした、「射精して泣く人」を、あなたはどう受け止めるでしょうか。
◆色欲だけでは越えられない
私自身、介護職員初任者研修(旧ヘルパー2級)の資格保持者ですが、妙に神格化される障がい者の性について疑問を抱いていました。
だから、つくしと同様に「障がいのある方に対してそうしたケアがされていないことにびっくりしたんです」という、障がい者専門風俗店「またたき」の代表、しずくの意見にも共感できたのです。
もちろん、障がいの度合いもさまざまですから、安易に取り組める仕事ではありません。
「射精できないくせに風俗なんてやっぱりおかしいですよね」と言うお客様の笑顔の裏側を、切なさや悲しみを、しっかりとすくいとり、受け止めるのが必要になってくるのです。
「人肌からしか得られない栄養ってあると思うんで!!」
つくしのこの言葉に、お客様はどれだけ勇気づけられたでしょう。「性感帯は性器だけではない」「気持ちいい場所は体にたくさんある」と、主人公の彼女が語るように、人は肉体的な快感とともに、安心して身を任せられる心地よさを求めているのです。
◆障がい者のご家族へのケア
通常の風俗店では断られてしまう場合も多い、障がいを持つ方々。ていねいなカウンセリングを重ねて、つくしはお客様と接します。
時には涙を流して、つくしに感謝するお客様達。性を通してお客様の世界が広がっていくのは、つくしにとっても大きなよろこびになっていきました。
障がいには身体的なものもあれば、知的な障がいもあります。知的障がいを持つ方が性に目覚めると、戸惑うのはご家族です。性への欲求を無邪気に表現するあまり、一緒に外出できなくなったり、将来を案じたり、いっそうセンシティブになってしまうのです。
このあたり、たとえば母親が性の処理を手伝うなど、水面下で問題視されてきました。
ごく自然に芽生えるのが性的な欲求。頭から抑えつけるのではなく、また行為そのものを義務的におしえるのも違う気がします。
障がい者専門風俗店「またたき」の代表、しずくは懇切ていねいに、ぬくもりの大切さをおしえていきます。仕事としてではなく、人そのものを愛していないと、なかなかできることではないでしょう。
人肌、体温、そして心。すべてがそろわないと、性の素晴らしさやつながりを、本当には理解してもらえないのです。
◆障がい者向け風俗は偽善なのか
福祉と風俗の架け橋。障がいと性の壁。これらの軋轢(あつれき)をなくして、自由にするのは並大抵のことではなく、つくしとしずくの挑戦も、称賛されるばかりではありません。当事者だから、家族だからこその苦しみもあり、考えの相違もあります。
「偽善者」と批判されて、悩みながらもつくしは自分のやるべきことを認め、進んでいきます。
障がいや性を差別化してはいけないし、性を欲するのは生への叫びで、無視できるものでもない。つくしとしずくの奮闘をとおして、私達は性への考えを深められるのです。
<文/森美樹>
【森美樹】
小説家、タロット占い師。第12回「R-18文学賞」読者賞受賞。同作を含む『主婦病』(新潮社)、『私の裸』、『母親病』(新潮社)、『神様たち』(光文社)、『わたしのいけない世界』(祥伝社)を上梓。東京タワーにてタロット占い鑑定を行っている。X:@morimikixxx