「寄せて上げて」はもう古い? ユニクロやファミマが変える“下着の常識”

0

2025年07月14日 06:20  ITmedia ビジネスオンライン

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ITmedia ビジネスオンライン

「ラクなのにキレイ」ってほんと? いま話題のブラ

 かつて、「寄せて上げて」が主流だったブラジャー市場が様変わりしている。ワコールの調査によれば、2023年度は「ノンワイヤーブラ」が「ワイヤーブラ」の市場規模を上回ったという。ユニクロ グローバルMD部 部長・ウィメンズインナー部門責任者の炬口(たけのくち)佳乃子氏も同様の見解で、「その傾向は2016年頃からあったが、市場が逆転したのは2023年頃だろう」とのこと。


【その他の画像】


 ワイヤーブラとは、カップの下部にU字型の金属が挿入されているブラジャーを指し、バストを支え、立体的に整える効果が高い。一方で、ノンワイヤーブラはワイヤーを使用せず、ゴムや伸縮性のある生地を使ってバストを支えるため、締めつけにくい着心地が特徴だ。ブラジャーとインナーが一体となった「ブラトップ」も好調で、各社がこぞって製品を発売している。


 ブラトップの先駆者・ユニクロは、2008年の発売から改良やラインアップの拡充を続け、近年は欧米を中心とした海外でも大ヒット。2003年から発売するワイヤレスブラ(ノンワイヤー)シリーズも、独自の進化を遂げている。


 ワコールでは、2020年に発売した「シンクロブラトップ」のシリーズ累計販売数が130万枚を突破した。トリンプでは、ワイヤーとノンワイヤーの良さを融合した新カテゴリー「ハイブリッド・ブラ」を発売。ファミリマートは、下着としても服としても着られる「ブラウェア」で市場に参入した。


 なぜ、ノンワイヤーブラ市場がこれほど拡大しているのか。各社にビジネス戦略を聞いた。


●「ノンワイヤー」はどんどん進化


 ユニクロは2003年に、ワイヤー入りとワイヤレス(ノンワイヤー)のブラを発売し、ブラジャー市場に参入。2005年には、下着市場の拡大を狙って、ユニクロ初の女性インナー専門店「BODY by UNIQLO(ボディ・バイ・ユニクロ)」を立ち上げた(のちに閉店)。2008年には、カップ付きインナー「ブラトップ」を発売し、口コミやCMの放映によって、徐々に支持を集めていった。


 「2008年頃は、『寄せて上げて』という方向性が主流で、市場の9割近くをワイヤーブラが占めていました。ですが、キレイに見せるためのバストメイクよりも、快適な下着を着用することで女性の生活をサポートしたい思いがありました。女性の生き方が多様化していく先駆けのタイミングで、マルチタスクをこなすにあたり、ノンワイヤーが生活衣料品の新たな選択肢になると考えたのです」(ユニクロ 炬口氏)


 同社では、2011年に「ノンワイヤーブラ」への一本化を決め、新聞広告で宣言。ワイヤーブラはホールド力は高いが、どうしても窮屈さがある。ならば、既存のノンワイヤーのホールド力を高めれば、ワイヤーブラよりも着心地のいい製品ができると考えたのだ。


 2016年には、薄くて軽い弾力性のある樹脂パーツをカップに内蔵した「ワイヤレスブラ ビューティライト」(2020年に「ワイヤレスブラ/3Dホールド」に名称変更)を発売。2023年には、体温によってじんわり伸びるパーツを使用した新構造にリニューアル、ワイヤーブラにも劣らないホールド力を追求している。


 ブラトップも毎年のようにリニューアルを重ねている。現在は、インナーだけでなく、1枚で洋服のように着られるリブ素材のタンクトップやワンピースタイプなど、ラインアップも充実している。


●英国で火がつき、海外でもヒット


 ユニクロの「ブラトップ」は、2023年頃から海外でも人気に火がついた。発端は英国在住女性によるTikTok投稿で、「1枚着るだけでブラジャーの線を気にせずに外出できて便利」として一気に認知が広がった。その人気は欧州から米国にも広がり、2024年の海外でのブラトップの売り上げは、2022年比で2倍以上にもなったという。


 「国内では浸透しているブラトップですが、海外市場ではまだ一般的ではなかったんです。一気に人気を獲得したのは、コロナ禍で人々の価値観が変化してきたタイミングだったのも影響しているのかなと。快適性のニーズに加えて、スポーツウェアが日常的に着られるようになったり、若年層にジェンダーレスの価値観が広まったりする潮流もありました。それらが相まって、『快適に過ごせるなら、これ1枚でいいよね』と受け入れられたのだろうと」(ユニクロ 炬口氏)


 日本では、ユニクロの主な顧客層である30代後半〜40代がワイヤレスブラやブラトップを多く購入しているが、欧米では20代の若年層から人気を集める。それまで欧米では少なかった20代の顧客が、ブラトップのブームを機に一気に来店するようになったそうだ。


 日本では、吸汗速乾性や消臭機能があるエアリズム素材の製品、いわゆるインナーとして着るブラトップが主流だが、欧米では、洋服のように着られるリブ素材のブラトップが真っ先に注目された。ブラトップのブームをきっかけに、最近ではワイヤレスブラの売れ行きも伸びているという。


 「ユニクロのものづくりの強みとして、さまざまな体型や人種のモデルを多数集めて、繰り返しモニター調査を行うプロセスが挙げられます。ブラトップやワイヤレスブラも欧米では構造を変えていて、その品質が海外でのヒットにつながりました。とはいえ、まだこうした製品を知らない方のほうが圧倒的に多い。よりローカライズを強化して、現地でもロイヤルカスタマーを獲得していきたいですね」(ユニクロ 炬口氏)


●ワコールは「本気のブラトップ」が好調


 ワコールでも、着心地重視の製品を強化している。2020年には、従来品よりも締めつけ感が少ないブラトップ「くるしゅうない」を発売。2021年に「シンクロブラトップ」に名称変更し、シリーズ累計販売数は130万枚を突破した(2025年2月時点)。


 「20〜70代の女性にブラトップで重視する点を聞いたところ、6割以上が『ラクなつけ心地」と回答しました。着用時の不快感では、カップのアンダー部分に使うゴムの締めつけやズレ、ゴムの食い込みによる背中の段差が挙げられ、それらの解消を目指したのが『シンクロブラトップ』です」(ワコール 広報担当者)


 同製品は、アンダーゴムの代わりに縦にも横にも伸びるパワーネットを使って圧迫感やズレを軽減。自然でキレイなバストラインを整える左右一体型の成型カップを採用した。2970円〜の手頃な価格帯で、体型に合わせて選びやすいようSから5Lまでの幅広いサイズ展開となっている。


 「下着メーカーが本気でつくったブラトップ」のキャッチコピーを添えて発売したところ、高評価の口コミや2024年・2025年と2年連続で放映されたテレビCMなどの影響で、販売数が増加した。2025年1〜5月の売上高は前年同期比で136%となった。


 「現在、『吸汗速乾』『綿混』『リブ』の3種類を発売していますが、通年で最も人気なのは『吸汗速乾』です。主な購入者層は、40〜50代の女性です」(ワコール 広報担当者)


 ワコールでは、2025年春夏に「ノンワイヤーでおしゃれを思い通り楽しむ」をコンセプトにリニューアルした新ブランド「GOCOCi(ゴコチ)」が誕生。機能的価値にファッション的価値を加え、“見えてもいい”ブラなどもラインアップに加えている。


●「第3のブラ」や服にもなる「ブラウェア」も


 トリンプでは、「シルエット美」と「快適性」を両立する新戦略を打ち出した。ワイヤー、ノンワイヤーに続く第3の選択肢として、2025年3月に「ハイブリッド・ブラ」の提案を開始。同カテゴリーの新商品として3月に「秘めわざ」を、4月に通気性を向上させた「ブラCOOL」を発売した。


 ハイブリッド・ブラには、一般的なワイヤーより柔らかい金属を、細く薄く成形した独自の“コンフォートワイヤー”を採用。体の動きに合わせてしなやかに曲がるため、締めつけ感を抑えて自然なリフトアップと美しいシルエットを実現するという。


 「開発過程では、ワイヤーを柔らかくすることで、カップの形崩れやバストの横流れといった課題がありました。その一つひとつに対し、パターン設計・スタイル設計で丁寧に対応しています。サイズによって必要なサポート力が異なるため、ワイヤーの硬度も細かく調整。幾度もの試作や試着をへて、ワイヤレスのような着け心地と、ワイヤーブラのような美しいシルエットの両立にたどり着きました」(トリンプ マーケティング担当者)


 発売後の反響は上々で、「秘めわざ」は発売2カ月で計画値の30%増を達成した。同社では、2013年から展開する着心地の良さを追求した「sloggi ZERO Feel(スロギー ゼロフィール)」シリーズも好調だ。扱うブラは全てノンワイヤーで、累計販売枚数は1200万枚を超えた(2025年3月末時点)。


 ファミリマートでは、人気のコンビニエンスウェアから下着としても服としても着られる「ブラウェア」を2025年3月に発売。6月末時点で3万9000個を販売し、20〜40代の幅広い女性が購入しているという。


 「婦人インナー市場は紳士インナー市場の約2.5倍と大きく、新たなアパレルステージへの到達を目指してブラウェアを開発しました。『ファッション性』を高める狙いで、ストラップには“下着っぽく”見えやすいアジャスターを取り除き、カラーの異なる裏地を採用しました」(ファミリマート CW・雑貨部 CW・コスメグループ 友定裕美氏)


 ホールド感がありながら締めつけが少ない着心地を目指し、極力縫い目をなくして肌触りを良くした。夏にかけて需要が増すと予測しており、7月下旬に新色の発売を予定している。販売増を狙って、さらなる改良も模索しているそうだ。


 各社ともノンワイヤーブラの需要がより高まると予想しており、製品の改良やラインアップ拡充を継続する方針だ。その背景には、TPOや気分、ライフステージによってブラジャーを“使い分ける”価値観の浸透がある。一度ラクなつけ心地を知ると、「もうワイヤーブラには戻れない」という人も少なくないようだ。


(小林香織、フリーランスライター)



    ランキングトレンド

    前日のランキングへ

    ニュース設定