日刊スポーツの名物編集委員、寺尾博和が幅広く語るコラム「寺尾で候」を随時お届けします。
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今夏の甲子園を目指す全国高校野球選手権地方大会には「3680校、3396チーム」が参加している。先週、高知県に出向いた際に高知商のグラウンドに立ち寄った。
創立127年の伝統校のグラウンド横には、1980年(昭55)センバツで全国優勝した際の石碑が建立されている。当時の監督は谷脇一夫、投手として刻まれているのは、エース中西清起だった。
のちに阪神の主力投手になった中西は、水島新司の漫画のモデルになって「球道くん」のニックネームで一躍人気になった。また、東映、南海、阪神で投げた江本孟紀はセンバツ行きを決めながら出場辞退を強いられた。
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「土佐のいごっそう」といわれる系譜でいえば、阪神監督の藤川球児もOBの1人。入団当時の監督だった野村克也は、即戦力でない人材に恨み節を口にしたものだが、そこから主力ピッチャーに育った。
高校の正面には、今でも「藤川球児先輩 阪神タイガース監督就任 おめでとうございます!」の黄色の垂れ幕が掲げられている。誇らしい先輩をもつ球児たちの地方大会の開幕を前にした練習をしばらくながめた。
現場で目に留まったのは「(トレーニングは)正しいやり方でする。間違いは故障につながる」といった張り紙だった。チームとして取り組む方向性なのだろう。
それは阪神監督に就いた藤川の心構えにも通じるものだった。ずっと「ケガなく、健康に」を唱え続けてきたから、1枚の張り紙は藤川の“原点”に触れた気もした。
長いペナントレースにはケガはつきものだ。岡田彰布が率いてリーグ優勝を遂げた23年も、7月に近本が死球を受けて「右肋骨(ろっこつ)骨折」で約3週間の戦線離脱を余儀なくされた。
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今シーズンの阪神が好調を維持しているのは、故障離脱者が少ないこともひとつの特長といえる。それは主力選手が続々とリタイアし、戦力ダウンした他球団と比較しても明らかだ。
阪神で開幕から1、2軍間の入れ替わりが多い現象は、以前に書いた。リリーフの石井が打球を頭部に受ける突発的なアクシデントはあった。しかし、大きな負傷、故障でのリタイアは目立たないままきている。
今季の阪神打線は、近本、中野、森下、佐藤輝、大山の上位にいるメンバーはほぼ固定されてきた。今季85試合を消化し、打順を問わず「1番」から「5番」のメンツが、82試合変わっていない(13日現在)。
佐藤輝が体調不良で2試合、大山のベンチスタートが1試合あったが、それ以外はほぼ同じ顔ぶれで打線が組まれ、オーダーもほぼ固定されてきた。
実際、1番近本、2番中野、3番森下、4番佐藤輝、5番大山の打順は85試合中71試合あった。1、2番は全試合で不動で、森下は全試合スタメンが続いている。
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各選手とも好不調の波はあったし、取材する側に伝わっていない体調の良しあしはあったかもしれない。だが故障で大きなダメージを受けてこなかった。まさに「無事是名馬」といえる虎の戦いである。(敬称略)【寺尾博和】
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