※画像はイメージです 飲食店を利用したときに、嫌な思いをしたことはありますか?
本来なら、食べる楽しみに加え、家族や友人たちとの貴重な時間を提供してくれる場所なのですが、周囲の残念な行為や行動で台無しになってしまうこともあります。
今回取材に応じてくれた男性は、家族揃って訪れたファミリーレストランで、とんでもない経験をしたといいます。
◆ささやかな贅沢を求めてファミレスへ
今回お話を伺ったのは、都内在住の会社員・三島さん(仮名・37歳)。仕事と子育てに忙しい日々の中、日曜日の昼食に近所のファミリーレストランへと家族で出かけた時の出来事について語ってくれました。
「子どもたちも学校があるし、共働きなので、なかなか家族全員がゆっくり揃って外食する機会って少ないんですよ」
だからこそ、その日は特別でした。歩いて10分ほどの距離にある、何度か利用したことのあるファミレス。
ちょうどその日は『地中海フェア』と題された期間限定メニューが提供されており、普段は頼まないような魚介系のパスタやサラダを注文して、ちょっとした”非日常”を味わおうという気分だったそうです。
「ナポリサラダ、見た目も豪華で、モッツァレラチーズがどっさり載ってて。子どもも『チーズ好き!』って喜んでたんです」と、当初の和やかな雰囲気を振り返ってくれました。
◆隣席から聞こえてきた“ネガティブ談義”
ところが、その空気は思わぬ形で一変します。サラダが運ばれてきてシェアを始めた頃、隣の席にいた若い男性4人組の会話が耳に飛び込んできたのです。
「最初はちょっと声が大きいな、って程度だったんですけど、内容がね……」と三島さんは少し苦笑しながら続けます。男性たちは、食にまつわる裏話を声高に話し始めたのだそうです。
「『ここのレタスさ、農薬漬けらしいよ』って。それだけでもう、箸が止まりました。さらに『魚は養殖で、エサに通常の10倍の成長促進剤が混ぜてある』とか……」
驚いたのはその内容だけではありません。彼らの中の1人は、かつてその店でアルバイトしていたらしく、「学生の時ここでバイトしてたんだけど、パセリは使い回しなんだぜ」などと語り始めたのだとか。
「本当かどうかなんて分からない。でも、目の前にある料理を見ながらそんな話を聞かされたら……。もう、無理ですよね」と三島さん。
気を紛らわせようと家族で会話を試みたものの、隣席の声は止まず、耳に入ってきてしまう。せっかくの食事が、まるで興醒めの劇場になってしまったといいます。
◆気まずさと苛立ちの狭間で沈黙するテーブル
三島さんによると、隣のグループは終始“楽しそうに”その話を続けていたそうです。「いや、楽しそうというか、盛り上がっていたというか、場をわきまえてほしいって思いました」と、苦々しげに語っていました。
妻や子どもたちも、最初のうちは気づかぬふりをしていたものの、やがて顔色が曇り、沈黙が増えていきました。
「何度かチラッと隣を見たんですが、全然気にする様子もなくて。こっちが神経質すぎるのかな、とさえ思えてきて……」と三島さんは話します。結果的に、テーブルに並んだ料理のほとんどは手を付けられず、会計だけを済ませて早々に店を後にすることになったのだそうです。
「子どもが『チーズ、もういらない』って言った時、ちょっとショックでしたね。せっかくの家族団らんだったのに」と、最後にぽつりと漏らしていました。
◆“食”は味覚だけではないことを痛感
この出来事を通じて、三島さんは「満足の行く食事というのは、料理の味や見た目だけじゃなくて、周囲の状況に左右される」と改めて感じたといいます。
「もちろん、他人の会話に過敏すぎると思われるかもしれません。でも、ああいう“無自覚な悪意”って、確実に場を壊す力があるんです」と、あの日の体験を振り返って語ってくれました。
ファミリーレストランは、多くの人にとって“手軽な外食”であると同時に、“ちょっとしたご褒美”の場でもあります。特に家族連れにとっては、特別なひとときを過ごす大切な空間です。
その意味で、周囲の人々が無意識に放つ言葉や態度が、他者にどんな影響を与えるのか……。ほんの少し意識するだけで、誰かの食事の記憶はもっと温かいものになるかもしれません。
「結局、あの日のことがあってから、あの店にはまだ行ってないんです。でも、子どもが最近『またチーズのサラダ食べたいな』って言ってて……。その時は、もっと落ち着ける店を探そうと思ってます」と、三島さんは少し笑いながら話してくれました。
<TEXT/八木正規>
【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営