ロスまで片道「4万5000円〜」LCCで「フルフラット席」常識を覆すジップエアの拡大戦略【Bizスクエア】

0

2025年07月16日 07:05  TBS NEWS DIG

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

TBS NEWS DIG

TBS NEWS DIG

日本航空傘下のLCC(格安航空会社)の『ジップエア』では3月、最長路線となるヒューストン線が就航。“安さ”だけじゃない、攻めの路線拡大戦略を西田真吾社長(57)に聞く。

【写真で見る】ジップエア、「フルフラットシート」でも格安

北米・アジアへ「国際線専門LCC」

まもなく始まる、夏休み。
成田国際空港は10日、一足早く海外へ旅立つ旅行客の熱気に包まれていた。

「いつもなるべく旅費は抑えて行っているので安い航空会社があるのはありがたい」
「JALの子会社なので何度か利用している。安いところが一番」

現在10路線を運航している国際線専門のLCC、『ジップエア』。

成田-▼サンフランシスコ▼サンノゼ▼ロサンゼルス▼ヒューストン▼ホノルル▼バンクーバー▼ソウル▼マニラ▼シンガポール▼バンコク

米ロサンゼルス行きは「片道4万5000円〜」(税別)ということもあり、この日の搭乗率は9割以上だ。

グランドスタッフ:
「最近はビジネスで利用する乗客より観光メインが多い。特にドジャースの大谷選手を見にいく乗客も大変多い」

なぜテキサス?「ヒューストン線」の狙い

人気の北米路線の中でも特に注目を集めているのが、3月に就航したアメリカ南部テキサス州への「成田-ヒューストン線」。ジップエア10番目の路線で、“片道14時間”と日本のLCCとしては最長路線となった。

「おかげさまで3・4・5月と毎月乗客が増えていて、現時点だと大体7〜8割はどの便も埋まっている」

こう話すのは、日本航空の子会社として2018年に設立された『ジップエアトーキョー』で舵を取る西田真吾社長(57)だ。就任後まもなくしてコロナ禍という逆境に立たされたが、その最中も着実に路線を増やしてきた。

ーー今回なぜヒューストン線を?

西田社長
「ヒューストンはトヨタ、ダイキンなど多くの日本企業がアメリカ国内でオフィスを移転している動きもある。航空、宇宙、医薬品、エネルギー産業がテキサスに集中していて経済的にも人口動態的にもどんどん伸びている最中であると」

そして、決定的だったのはイーロン・マスク氏率いる『スペースX』のカリフォルニアからテキサスへの移転の発表。「ずっと西海岸に集中して北米では飛んできたが、次行くときは南部、テキサスだということで始めた」(西田社長)

またヒューストン線ではメキシコなど中南米や南米への乗り継ぎ需要も期待。さらに、「超長距離路線の試金石」でもあると話す。

ーーヒューストンは片道12時間以上で、場合によっては14時間。24時間で1機が回らず、航空機8機では大変なオペレーションでは?

西田社長:
「今まで基本的には24時間の間に行って帰ることができる路線を集中的にやってきたので、ヒューストンのような24時間を超えてしまう路線は初めてのチャレンジ。このチャレンジがうまくいけば、例えばアメリカの東海岸、アジアでももう少し遠いところでのオペレーションに応用しようとしている」

「フルフラットシート」でも格安

長距離フライトを快適な空の旅にー
ジップエアには、LCCの常識を覆すシートがある。

使用するボーイング787-8型機で前方に18席あるのは「ジップフルフラット」。全席通路側に面した半個室的な空間で、上級クラスのシートとなる。(成田-ヒューストン:片道18万8500円〜※税別)

播摩卓士キャスター:
「普通の航空会社のビジネスクラスと同じような席。ボタン一つで完全に180度のフルフラットに。10時間くらい、しかも仕事で行くとなるとこういう席はありがたい。LCCでもこういうシートで寝られる時代になった」

後方に272席あるのが「スタンダード」。エコノミークラスながらも日本航空や全日空といったフルサービスキャリアと同じ「シート間隔79cm」だ。(成田-ヒューストン:片道5万5250円〜※税別)

播摩キャスター:
「座席の間隔がそれなりにあるので、LCCという感じはあまりしない」

そして、播摩キャスターが「特徴的で合理的」と感じたのは、ジップフルフラットでもスタンダードでも、「座席にモニターが付いていない」こと。
その代わりに機内では「Wi-Fiが無料」で使え、テーブルとは別にスマホやタブレットが置ける台も。自分の端末で好きなものを楽しむスタイルだ。また、ボーイング787-8型機で全290席というのはかなり多い座席数だが、スペース確保に関係しているのが「食事の有料」システム。
食事を頼まない人もいて全乗客分を積む必要がないため、ギャレー(キッチン)を縮小し座席に充てているという。

西田社長:
「普通の航空会社に比べれば機内に多くの座席を用意するが、一人一人の空間は長距離の移動にも耐えられるようにきちんと維持しようと。あとはWi-Fiを無料で使えるようにしたり、機内食の注文をもらったり“乗客が自身の旅行を自分で設計できる”」

スタート時は「コロナ真っ最中」

ーー西田さんには以前インタビューをしていて、ジップエアがホノルルに就航した2020年12月のすぐ後。あの頃はコロナで大変だったのでは

『ジップエアトーキョー』西田真吾社長(57):
「コロナの真っ最中に飛行機の商業運航を始めたから、最初のバンコク線は貨物で始めた。国境が閉ざされていたので貨物を運ぶしか手段がなかった」

貨物の収入でコロナを乗り越えたジップエアはその後、旺盛な訪日外国人客需要を取り込み成長軌道に乗せてきた。

西田社長:
「2020年に商業運航を開始して、2022年7月に初めて単月黒字を出すことができた。長いと言えば長かったが、おかげさまでそれ以降は毎年黒字を出せるようになり、2024年度には累積損失も解消することができた。ビジネスとしては順調と言ってもいいかなと思う」
▼2024年度決算:「旅客収入」685億円(前年同月比26.8%増)

ーーLCCといえば短距離が当たり前という時代に、中長距離LCCのビジネスモデルがうまくいった理由は?

西田社長:
「当初から“海を渡る初めてのLCC”になろうと。太平洋を渡るLCCが当時なかったので、我々が1番手になるぞというつもりでビジネスモデルの設計をした。我々の利点は成田がアジアの1番東側にあるところで、アジアの国と北米の国々を結ぶ結節点になる。この需要はコロナで一時縮小したが元々は大変な成長が見込まれている路線。自分たちで言うのもおかしいが、狙いはかなり的確だったと思う」

機材増やし「目指すは米・東海岸」

快適な空の旅を、より多くの人へー
その挑戦を加速させる、次の一手も動き出している。

ジップエアでは2025年7月現在で8機をやりくりし10路線をカバーしているが、2026年度までに2機を追加し10機体制に。
さらに2027年度以降は現在の運航機材よりサイズの大きいボーイング787-9を10機程度増やし、計20機規模にする計画を掲げている。

西田社長:
「まだ就航してないアジアの大都市、北米の大都市がたくさん残されている。日本の乗客からも『ニューヨークはいつ飛んでくれるの』と聞かれることもあり、期待されるところには需要がある。まだまだ伸びる先はある」

ーー創業から社長をされているが、ジップエアの存在価値はどこにある?

西田社長:
「今までやらなかったことをやってくれる航空会社と理解してくれている乗客も多い。そういう乗客のニーズを更にかぎ取りながら、『こういうものを用意したがどうでしょうか』と提案をどんどんしていく企業であり続けたい。“ユニークな存在であるポジション”を守っていきたい」

増加する「中長距離」ニーズ

“中長距離のLCCを”というユニークな発想から始まったジップエア。

【ジップエア】
▼基本運賃はシンプル
▼必要なものだけ有料で追加(機内食・手荷物)
▼無料Wi-Fi
▼燃油サーチャージなし
▼中長距離国際線に特化

「マーケットが大きく変わった時にどううまく対応できるかがLCCのポイント」と話す『東京大学』名誉教授・伊藤元重さんは、ジップエアをどう見るのか。

『東京大学』名誉教授・伊藤元重さん:
「元々のLCCは<短距離>で<できるだけ安く>というところから、サウスウエスト航空のモデルが出てきたが、今はやはり中長距離の需要が増えている。もう一つ大きいのはフルサービスキャリアの料金が上がっているので、長距離をもう少し安くというニーズ増にうまくはまった感じ。インバウンドで賄っている部分もあると思うが、逆境の中でここまでやれたということは今後環境が良くなれば、さらに飛躍のチャンスがあるということかもしれない」

(BS-TBS『Bizスクエア』2025年7月12日放送より)

    ランキングトレンド

    前日のランキングへ

    ニュース設定