中高年向けのバスツアーは、コロナを経ても人気が衰えないそうだマッチングアプリが世の中に認知されて久しいが、対面で出会いを見つける場もまだ廃れてはいないようだ。中高年をメインターゲットとした「婚活バスツアー」が人気を博しているらしい。
株式会社アイリスツーリストの代表取締役・駒井直人さん曰く、年間400〜500本もの旅行ツアーを企画するうち、40代以上が対象のツアーが「7〜8割」を占めるのだという。傾向としては「暇つぶしの旅行で、ついでに友だちやパートナーを見つけられれば」という、恋愛や結婚にガツガツしていない参加者が少なくないとのことだ。
中高年向け「婚活バスツアー」の実態について、駒井さんに尋ねてみた。
◆40代以上対象のバスツアーは「人気が衰えない」
――出会いの場を提供する「婚活バスツアー」を、いつから手がけているのでしょうか?
駒井直人(以下、駒井):2016年頃からです。当初は20〜30代の方々がメインターゲットでしたが、コロナ禍でマッチングアプリが普及するにつれて、参加者が減少していきました。一方、40代以上が対象のバスツアーはコロナ禍を経ても衰えず、参加者は増えています。
――実際、どれほどの参加者がいらっしゃるのでしょう?
駒井:年間で400〜500本のバスツアーを企画しているうち、40代以上を対象としたバスツアーが全体の7〜8割を占めています。20〜30代を対象としたバスツアーでは最小催行人数が揃わずに見送りとなる場合もありますが、40代以上を対象としたバスツアーではほぼありません。
◆参加理由は「気軽にパートナーを探したい」との思い
――人気の理由を、どのように考えていますか?
駒井:マッチングアプリへの抵抗感が、一つの理由だと考えています。加えて、年齢層が上がるにつれて、入会費などがかかる結婚相談所へ頼るほどではないものの、「気軽にパートナーを探したい」と考えている方々が多くなる印象です。定年していれば、嘱託やパートなどで週数日働いて、土日は必ず休みとなる方もいますし、「暇つぶしの旅行で、ついでに友だちやパートナーを見つけられれば」という動機で、参加される方もいます。
――若い世代と比べると恋愛などにガツガツせず、ゆとりある方も多いのかもしれませんね。
駒井:そうですね。20〜30代を対象としたバスツアーでは「スタッフの人にもっとサポートしてほしかった」という手厳しい声をいただくことも。一方で40代以上を対象としたバスツアーではそうした声が少なく「色んな人と話せてよかった」「修学旅行を思い出した」といった好意的な意見が目立ちます。
◆「交流を図りやすくする」ような付加価値を
――40代以上を対象としたバスツアーを組むにあたって、心がけていることはありますか?
駒井:やはり、旅行そのものを楽しんでもらうのが基本で、四季折々のスポットを必ず1箇所は巡ります。おいしいグルメを楽しみにしている方も多く、ご当地食材を味わえるビュッフェも定番スポットです。訪問するスポットは詰め込み過ぎないように、多くても4箇所に抑えて、スポットごとの滞在時間はなるべく長めに取れるように意識しています。
――価格はいくらぐらいになるんでしょう?
駒井:地域によって多少の違いはありますが、例えば、東京発のツアーではおおむね、男性が1万8000円台、女性は1万5000円前後です。相場として、1人で参加するツアーと比べて若干割高かもしれません。ですが、交流を図りやすいように参加者同士がしゃべりやすい仕組みを作っているなど、しっかり付加価値を持たせています。
◆グループ行動で「気になる相手」との距離を縮める
――バスツアーの流れも、教えていただきたいです。
駒井:例えば、東京発の場合は新宿駅のバスターミナルから出発して、ツアーコンダクターによる身分証確認などの受け付けを済ませて、バスに乗車してもらいます。すべて指定席で、男性は通路側、女性は窓側に座ってもらうのが基本です。車内では男女それぞれ全員と一度は会話してもらえるように、休憩のたびに席替えを行います。
訪問するスポットでは基本的に男女数名のグループで行動してもらいますが、最後のスポットだけは自由行動になります。時間が経つにつれて参加者同士も打ち解けていきますし、気になる相手へ声をかけていただきます。その後「気になる相手」を第1希望から第3希望まで書いてもらい、終着点へ到着するまでの車内でツアーコンダクターが「◯番さんと◯番さん」と、マッチングした方々の発表をします。
――参加者同士の距離を近づけやすくするための工夫もあるんでしょうか?
駒井:当日のキャンセルが発生する場合もありますが、基本は男女同数で、偶数になるように調整しています。また、事前に趣味、特技、職業、喫煙の有無、子どもの有無、家族構成、カップルになったらどこでデートしたいなどを記載するプロフィールカードも書いてもらい、参加者同士で交換してもらいます。この春からはアプリも導入しまして、ツアー中に相手のプロフィールをスマホで確認できる仕組みも作りました。
◆ツアー中に「気になる相手に投票できる」システムも
――ツアー中に「誰が気になっているか」などのアンケートも取られるんでしょうか?
駒井:バスツアーの行程によります。観光スポットで交流をはかるトークタイムのあとにアプリ上で「◯番と◯番が気になった」と投票できる仕組みはあり、相手にも評価は伝わります。ツアーコンダクターも把握して、グループ行動での組み合わせや食事での席順を現場で組み換え、気になる参加者同士が交流しやすくするために活用しています。
――親密になれるように、工夫しているんですね。
駒井:やはり、わずかでも気になっている方同士が、コミュニケーションしやすくなるのが一番ですので。そのため、他のバスツアーと比べてツアーコンダクターが頭を悩ませる場面が多いのも事実です。自由行動となる最後の観光スポットでも、誰か1人が置いてけぼりにならないように、状況を見ながら「みなさんでまわりましょう」と、自然に声をかける場合もあります。
――参加者の属性を把握する工夫。例えば、結婚相談所のように年収や職業なども、把握しているんでしょうか?
駒井:お仕事をされている方は多い印象ですが、詳しくは把握していません。申し込み時に確認するのは氏名、住所、生年月日のような基本的な情報のみで、それ以上の詳細は伺いません。マッチングアプリや結婚相談所とは異なるフィールドのサービスという意識ですので、独身証明書や年収確認を求めていませんし、あくまでも、出会いの場での安心感を得られる程度の情報のみをいただいています。
◆年齢が上がるにつれて「同世代」を求める傾向に
――年齢層によって、出会いに対する意識は異なるのでしょうか?
駒井:40代以上が対象といっても幅広く、50代前後までで結婚歴のない男性は、強く「パートナーと出会いたい」と思い参加される方が多い印象です。我々の年齢区分では「35〜49歳」をひとくくりにしていますが、申し込みがはじまるとすぐに埋まります。その世代では、30代前半の女性を希望されるケースも目立ちます。
70代を対象としたバスツアーもありますが、50代以上の男性ともなると、求める相手の年齢層も上がってきます。人生経験もふまえて、同世代の方と「友だちになりたい」「一緒に旅をしたい」というやわかな目的意識も持つ方も多く、上下2〜3歳程度の年齢差で、運よくパートナーを見つけられればと考えて、参加される方が少なくありません。
――そうした参加者の声は、どのような場面で耳にするのでしょう?
駒井:バスツアー中に、感想をいただくんです。後日、参加者から感想をいただくときもありますし「人生が華やかになった」「パートナーと出会えて、第2の人生をはじめられました」とうれしい言葉もいただきます。リピーターの方もいますし、旅行プラン自体の評価として「パートナーに出会えなかったですが、満足できた」と、感想を寄せてくれる方もいます。
◆出会える可能性がある以上「紳士的に振る舞おう」
――満足に出会えずクレームを言ってきたり、バスツアー中のトラブルはないのでしょうか?
駒井:一般的なトラブルはあり、ひそかに「口調に耐えられなかった」「態度が威圧的だった」と、別の参加者に対する苦言を呈する方はいます。ただ、出会いそのものに対する目立ったクレームやトラブルはほんのわずかです。ツアーコンダクターがなるべく平等なコミュニケーションをはかれるように調整していますし、グループ行動中に万が一「個別にアプローチしたい」という方がいれば、ルール違反としていさめるようにしています。参加者も、パートナーと出会える可能性がある以上、嫌われないように「紳士的に振る舞おう」と意識していますし、大きなトラブルに発展するケースはありません。
――婚活バスツアーを通して、カップルが成立する割合はどれほどでしょうか?
駒井:結婚相談所の「成婚率」のような統計は取っていませんが、バスツアーの終着駅で分かる結果だけをみると、平均では5割程度です。後日、お客様からいただいた感想では「結婚しました」という報告が、300件ほどありました。年齢を重ねるにつれて孤独死なども現実味を帯びてくる中で、旅行の楽しさを共有した上での出会いで、新たな生きがいを見出される方もいるようです。
――少子高齢化も進む中では、需要もいっそう高まりそうですね。
駒井:中高年を対象とした市場は、ますます拡大していくと見ています。当初から結婚という大きな目的を描くのではなく、気軽に「友だちやパートナーを見つけたい」とするニーズも増えていくと思っています。いわば「趣味仲間のつどい」のような感覚で、バスツアーだけではなく、数時間のクルーズで軽食を楽しんで終了といった、ライトなツアーも人気が高まっているんです。現在は東京、名古屋、大阪を拠点としていますが、いずれ北海道や沖縄など、全国で出会いを求める中高年の方々に向けたツアーも展開していきたいです。
<取材・文/カネコシュウヘイ 写真提供/アイリスツーリスト>