
「最初は、そばかすみたいなシミでした。それが4年かけて、眼球を覆うほどの大きなシミに変化していったんです」
【写真】6歳の頃にはシミはかなり目立つように(※自撮りのため写真は反転)
愛猫とと丸くんが発症した「虹彩メラノーマ」の怖さを、そう語るのは飼い主のCarrie(@526carrie)さん。虹彩メラノーマとは、虹彩に発症する悪性腫瘍だ。
とと丸くんは運よく、猫の眼疾患に詳しい獣医師の診察を受けられ、片目の眼球を摘出。病気の進行を食い止めることができた。
保護シェルターにいた“美しい茶トラ猫”に一目惚れして
とと丸くんとの出会いは、2016年12月のこと。愛犬を老衰で亡くし、高齢の母親と同居していた飼い主さんは子犬より猫を迎えるほうが今の自分たちのライフスタイルには合うと感じ、保健所の犬猫を引き出している保護シェルターのホームページを検索。
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里親を待つ猫のページを開いた時、最初に目が合ったのが、とと丸くんだった。
「見た目のかわいらしさが抜群でした。スタッフの方からは、すぐに飼うか決めないと、次に面会に来る人にもらわれてしまうだろうと言われました」
当時、とと丸くんは生後6カ月ほど。お迎え初日はこたつに隠れるなど、やや警戒した様子だったが、すぐに新しい環境や家族に慣れてくれた。
「ただ、保護施設で真菌に感染していたようで、額にハゲができていました。寝具やマットの除菌が大変でした」
4年の月日をかけて判明!左目にシミは「虹彩メラノーマ」
真菌が完治してからは穏やかな日々を過ごしていたが、とと丸くんが2歳になった2018年の春、飼い主さんは左目を見た時に違和感を覚えた。
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「虹彩に薄いそばかすみたいなシミができていました。心配になり、動物病院を受診すると、病的ではない色素沈着(メラノーシス)と診断されました」
飼い主さんは一安心したが、シミは徐々に広がっていったそう。そこで、半年に1回、かかりつけ医を受診し、様子を見ることにした。
病名が判明したのは、2022年のことだ。きっかけは飼い主さんが住む自治体の隣の市で、眼科に特化した獣医師が開業したことだった。
詳しい検査を受けに行くと、3カ月に1度のペースで通院し、経過観察をすることに。その頃から、シミの広がるペースがグンと早くなった。
虹彩の色素沈着(メラノーシス)は眼疾患が生じないケースもあり、すべてのシミが虹彩メラノーマという悪性腫瘍に転化するわけではない。だからこそ、早期治療が難しい。猫の眼疾患に詳しい獣医師に出会えるかどうかによって、愛猫の未来が大きく左右されるのだ。
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現在の獣医療では虹彩メラノーマの治療法は、眼球摘出術のみであるという。抗がん剤や放射線での治療法は確立しておらず、眼球を摘出するタイミングが遅れると、他の臓器への転移が見られるケースも多いといわれている。
「目は他の臓器とは異なり、細胞採取ができないので手術を躊躇う方もいると思います。私も悩みましたが、不気味に広がるシミはやはり病的で、眼球内に留まっているがん細胞が体中に広がる前に片目を取る時が来るのだろうと、心の準備はしていました」
こうして、2023年3月、とと丸くんは眼球摘出を受けることになる。
「虹彩メラノーマは、肺や脳に転移しやすい」という獣医師の言葉も心に刺さり、眼球より命を取ろうと思ったのだ。その時、獣医師は「家猫なら片目がなくても充分、問題なく生きていける」と、飼い主さんの心も気遣ってくれたという。
気がかりは「残った右目のシミ」
現在、とと丸くんは家族に甘えたり、窓辺で小鳥たちを見ながらお昼寝したりと穏やかな毎日を過ごしている。
片目を失ったことに気づいていないのでは…?そう思えるほど、特別なケアも必要としない暮らしを送れている。
「ただ、残った右目にもシミがあります。ペースは緩やかですが、シミは確実に大きくなっているので心配です。全盲にはさせたくないと心底、思います」
妹分の同居猫ノワロットちゃんの前ではかっこつけ、動物病院帰りには優しく毛づくろいしてあげるとと丸くんは優しいお兄ちゃん。
微笑ましい光景を目にするたび、飼い主さんは残った右目の守り方を考えては虹彩メラノーマの恐ろしさを痛感する。
虹彩メラノーマは、早期発見をするのが難しい病気だ。だからこそ、日頃から愛猫の目をよく観察し、いざという時に頼れる眼科医を見つけておくことが大切だと言える。
以前と目の色が変わった、左右で目の色が違う、目の中にシミのような斑点があるなど、何か違和感を覚えた時は、すぐに眼科医がいる動物病院で相談してほしい。
とと丸くんと飼い主さんの経験を通じて、虹彩メラノーマが広く認知され、早期治療に繋がる子が増えることを心から願う。
(愛玩動物飼養管理士・古川 諭香)