
華やかな過去を自慢されても
「関東地方のそれほど大きくない町に住んでいます。新興住宅地で、東京に通えないわけでもないので、会社員の家庭が多いんです。1年ほど前に越してきて、ママ友たちとの付き合いが始まったのがマリさん。子どもの年齢が同じだったこともあり、なんとなく親しくなりました」サヤカさん(42歳)には10歳と7歳の子がいるが、10歳の息子が、マリさんの娘と同じクラスになった。
「家も近いし、子どもたちのクラスも同じだし、この地域のことを教えたりママ友を紹介したりと、マリさん一家が早くなじめるようにしたつもりでした」
ところが最初はおとなしくていたマリさん、なかなか強烈なキャラクターの持ち主だった。とにかく自慢話がすごいのだという。
「夫は東京のエリート会社員、両親は大学教授、兄が医者で妹が弁護士だそうです。どこまで本当か分かりませんが。そんな家庭で、あなただけ専業主婦なのと言いたかったけど。彼女は私がそう思っていると分かったんでしょうね。『私も一応、医学部には入ったんだけど体が弱くて続けられなかった』と言い訳していました」
なぜこんな田舎に越してきたのかも疑問だったが、子どもたちの体が弱いので自然の多いところで育てたかったとマリさんは言ったそうだ。
次第にいらいらが募るように
彼女の自慢話は、そういう大きなものばかりではなかった。些細なことも自慢した。
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招いてくれた家のママ友が、お菓子作りが上手なんですが、あるときケーキを見て『私だったら、このイチゴはこっちに配置する。その方が色味がきれいでしょ』と自信満々に言う。いや、今のままで十分きれいだし、むしろ配置を変えたらおかしいと思いましたが……」
会うたびに自慢話をされるので、他のママ友たちは「今度は何を言うんだろう」と楽しみにしているような気配まであった。だがサヤカさんは、逆にいらいらが募っていった。
ついに反論してみたら……
マリさんを除いた、もともとのママ友たちのメッセージグループでは「今日もマリさん、いろいろ言ってたね」「うっとうしいよね」「よくネタが尽きない」など、不満やからかいの言葉が行き交っていた。「ああいう自慢話ばかりされると返事に困るんだけどと私が書き込んだら、『そうよね』と全員が一致。『いいかげんにしてって言いたくなる。何が言いたいのか分からないことも多いし』と書いたら、そうだそうだ、と。サヤカさん、ガツンと言ってやったらと言う人まで現れました」
返答に困る話ばかりされるのは確かに困る。「あらそう」「よかったね」で乗り切っても、会話は続かない。
「あるとき、スーパー近くでママ友何人かが立ち話をしているところに遭遇したんです。マリさんが通りかかって輪に入り、『昨日は知人の招待で、おいしいフランスの鴨料理をいただいたの』と早速自慢。
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グループLINEは休止状態に
その後、グループLINEも沈黙したまま。マリさん抜きのグループでも誰も投稿しない。サヤカさんは少し焦った。「言い過ぎたかも、ごめんとなぜか謝罪を投稿しても誰も何も言わない。私にガツンと言ってやれと言った人も沈黙。大人の世界は怖いと本当に思いました」
以来、そのグループLINEは休止状態。おそらくサヤカさんもマリさんも抜いたグループがまたできているのだろう。
ママ友たちとは顔を合わせれば当たり障りのない会話はする。マリさんが彼女たちと親しくなったわけでもなさそうだ。
「でもけっこう行き来したり情報交換していたグループから、あっさり外されたのはショックでしたね。人の言うことを真に受けて、みんながイラッとしているのだからマリさんに言っても大丈夫だと思った私がバカだった……」
気にしないようにしているつもりだが、心の奥に小さな鉛の塊が詰まったような気分で過ごしているという。
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。
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