
移籍市場のニュースは目まぐるしく変化する。
交渉開始→成立間近→まさかの破談......では、驚かなくなってきた。特に今夏は情報が乱れ飛んでおり、クラブ、選手、エージェント、大手メディア、フリーランスの発信がすべて異なる事態まで起きている。さらに情報のウラを取らないSNSも混ぜっ返し、もう、何が何だか......。
ニセ情報は終息する気配すらなく、事の真偽を確かめる前に次のニュースが飛び込んでくる。そんな折に先日、「エバートンがTAKEFUSA KUBOに興味津々」との一報を確認した。レアル・ソシエダ内部の動きに詳しい、信頼できる消息筋からの発信だった。
この2〜3年、久保の周辺にはずっとビッグクラブの影がチラついている。マンチェスター・ユナイテッド、リバプール、アーセナル、バイエルン、レアル・マドリード、バルセロナ......世界的なブランドばかりだ。
話半分に聞くとしても、広い紙面を埋めなくてはならないメディアのおとぎ話だとしても、それは高く評価されている証(あかし)とも言える。こうした「名義貸し」はビッグクラブ、スター選手ならではの特徴だ。マンチェスター・Uやバルセロナなどは、毎シーズンのように30人近い選手と接触したことになっている。
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また、エージェントが選手の価値を高めるために、ビッグクラブの名前を利用するケースも頻繁に起きている。移籍や契約更新で、少しでも多くのカネを手に入れるための常套手段だ。
ただし、先述した名門はすでに補強の8〜9割を終えていたり、進捗状況が不透明でも久保のポジション(右ウイング)は人材が足りていたりする。
マンチェスター・Uの3-4-2-1はウイングを必要とせず、リバプールではモハメド・サラーの、アーセナルならブカヨ・サカの控えに甘んじなくてはならない。北中米ワールドカップが来年に迫った今、試合勘を維持するためにも主戦格としてシーズンに臨めるクラブを選ぶべきだ。
【エバートンはプレミア屈指の名門】
移籍情報の流れてきたエバートンは、近年苦しみもがいている。2020-21シーズンこそ10位に入ったが、その後は16位、17位、15位、昨シーズンは13位に終わった。ローカルライバルのリバプールはプレミアリーグを制しているというのに、エバートンは降格を免れるのが精いっぱいだ。
こうした現実を踏まえると、レアル・ソシエダからの移籍は「ランクが落ちる」と見なされるかもしれない。久保の活躍をきっかけにラ・リーガやヨーロッパフットボールに触れた若年層の読者の方々は「エバートンなんかやめておけ」と否定するかもしれない。
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しかし世界的な知名度では、エバートンはレアル・ソシエダをはるかに上回る。イングランドのトップリーグを9回制し、FAカップは5回、カップウィナーズカップ(現在のヨーロッパリーグの位置づけ)も1回優勝している。
最後の戴冠から30年以上が過ぎているとはいえ、エバートンは世界中のフットボールファンが認める名門だ。マンチェスター・U、リバプール、アーセナル、スパーズ、チェルシーと並び、プレミアリーグから一度も降格していないエリートでもある。
かつてはFWウェイン・ルーニーがマンチェスター・U(2004年)へ、DFジョン・ストーンズがマンチェスター・シティ(2016年)へ、近年ではMFアンソニー・ゴードンがニューカッスル(2023年)に羽ばたくなど、イングランド代表の主力も輩出してきた。ナメてもらっては困る。
また昨年12月には、自動車、旅行、エンターテインメント、スポーツなどの分野で事業を展開するアメリカの大企業『フリードキン・グループ』(セリエAのローマも所有)が新オーナーに就任。すでに少なからぬ債務を処理し、経営を軌道に乗せようとしている。
そしてこの夏、女子チームがDF北川ひかる、FW籾木結花、DF石川璃音を獲得し、昨シーズンから在籍しているMF林穂乃香も含めて4人の日本人選手を抱えることになった。日本を意識しているのだろうか。
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【久保ならレギュラーは問題なし】
今シーズンのエバートン攻撃陣は、ドワイト・マクニール、カルロス・アルカラス、イリマン・エンディアイエの2列目が軸になるだろう。ただ、選手層は厚くなく、久保の実力であれば定位置を確保する公算は非常に大きい。
中盤のイドリッサ・ゲイェは35歳を迎えた今もボール奪取能力が衰えず、DFジェームス・ターコウスキーの身体を張った守備は感動的で、GKジョーダン・ピックフォードのシュートストップは世界でもトップランクだ。エバートンの試合は見どころが多い。
ただ、懸念材料を挙げるとすれば、デイヴィッド・モイーズ監督だろうか。
マンチェスター・Uを率いていた当時(2013-14シーズン)、香川真司を不慣れな左ウイングに起用して個性を殺し、のちに「左サイドバックとの連係に問題があった」と自らのミスを責任転嫁した。モイーズの手腕に対して、リーダーのリオ・ファーディナンドは「指示が一貫していないので、選手は混乱する」と呆れるほどだった。
その後、モイーズはレアル・ソシエダ、サンダーランドでも解任の憂き目に遭い、多くのメディアに「二度と現場には戻れない」と失敗の烙印を押された。しかし、モイーズ監督も低迷するウェストハムを生き返らせるなど、アップデートしているのも事実である。
2025年1月、エバートンはジョーン・ダイチ監督を解任してモイーズに残りシーズンを託すと、18試合を8勝7分3敗で乗りきった。攻撃はマクニール、アルカラス、エンディアイエのテクニックが織りなすショートパスで構成し、守備戦術も個人任せではなく可変システムで対応した。ハイクロスを多用した、かつてのモイーズ監督ではない。
そのモイーズ監督の率いるエバートンが今、久保に興味を持っているという。その後のステップアップを考慮すれば、マージーサイドで腕を磨いてもいいだろう。
【メガクラブが名乗りをあげる可能性】
ただ、今夏の移籍は考えづらい。レアル・ソシエダのプレシーンマッチが日本で7月下旬に行なわれるからだ。
また、6000万ユーロ(約99億円)ともいわれる契約解除金も障壁となる。正直、この金額を『フリードキン・グループ』は支払えない。財政難からの脱却は道なかばであり、今夏も若手やフリーエージェントを軸に補強を図っているからだ。
エバートンの線は不透明だが、いずれにせよ遅かれ早かれ、久保はビッグクラブに新天地を求めるだろう。毎シーズンのようにリーグ優勝を争い、チャンピオンズリーグの優勝候補に挙げられる強豪チームならではの刺激は、誰だって味わいたい。
ましてや、移籍市場の状況は秒単位で変化する。昨日まで1ミリもリンクされていなかったメガクラブが突如として、久保獲得に名乗りを挙げる可能性も否定できない。
日本が世界に誇る創造性豊かなアタッカーは、いつだって推奨銘柄だ。