
サッカー日本代表はE-1選手権を3戦全勝で優勝。新しい選手の発掘以外にも、さまざまな試みが行なわれたようだ。現地取材したライターがレポートする。
【難コンディションのなか3連勝】
韓国で開かれていたE-1選手権(男子)は7月15日に最終戦が行なわれ、韓国を1対0で下した日本が3戦全勝で優勝。大会2連覇を達成した。
欧州組を招集できず、日本や韓国が国内組だけだったので(韓国にはJリーグ所属の選手が3人)チーム間の戦力差は思ったより小さく、初戦から苦しい試合が続いた。
最初の香港戦では初代表のジャーメイン良が前半だけで4ゴールを決めて6対1と大勝したが、後半は攻めあぐねたなかでCKからあっけなく失点。追加タイムに中村草太がすばらしいドリブルからゴールを決めたものの、攻撃面ではチームがバラバラだった。
もっとも、チームが置かれた状況は最悪だった。
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日本には代表経験のない選手が6人もいて、土曜日にJリーグの試合を戦ってから中2日。ピッチ上での練習は1日しかできなかったのだ。しかも、試合終了時点でも気温29度、湿度70%という蒸し暑いコンディションだった(大会前半は毎日、最高気温37度ほどの猛暑が続いた)。
森保一監督は中国戦では先発11人を入れ替える完全ターンオーバーを実施。長友佑都、植田直通のふたりを除けば第1戦よりさらに経験の少ない選手を先発させた。この試合でも前半11分という早い時間帯に田中聡のパスを受けた細谷真大が振り向きざまに強烈なシュートを決めて優位に立った。後半は守りに入ったのか中国に押し込まれる場面もあったが、望月ヘンリー海輝のシュートが相手DFに当たって追加点となって勝利した。
そして韓国戦では初戦とほぼ同じメンバーに戻し、この試合でも開始8分に相馬勇紀のクロスからジャーメインが難しいシュートを決めて1点をリード。前半は日本の3バックが韓国の攻撃を完璧にはね返し、羅相浩(ナ・サンホ)のスピード以外に日本のDFにとって脅威となるものはなかった。
ところが、後半に韓国が高さのある李昊宰(イ・ホジェ)を投入したことで流れが変わる。
日本はクリアボールを拾われて韓国の猛攻を受け続け、カウンターのチャンスすら作れなかった。だが、韓国がさらに高さのある選手を投入してパワープレーをしかけてくると、森保監督は植田や原大智など高さのある選手を投入して守りきり、勝利をつかみ取った。
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【新戦力はどうだったか】
苦しい試合だったが、それでも勝利できたのは、第2戦で完全ターンオーバーを実施した結果だ。初戦でプレーしたメンバーには中6日の長い準備期間があったため、その間のトレーニングでチーム作りを進めることができたのだ。
来年の北中米W杯ではチーム数拡大の影響で中3日という日程もあるので、ターンオーバーが必要になる。もちろん、参加選手は違ってくるだろうが、監督・コーチ陣にとっては完全ターンオーバーを経験したことは来年の本番につながる。
さて、今回のE-1選手権は1年後に迫ったW杯に向けて新戦力を試すべき大会でもあったが、海外組も含めたサバイバルを経てW杯メンバー入りを目指すのはやはりかなりの難関だ。
3試合で5得点して優勝に貢献したジャーメイン、中国戦で再三好守を見せて日本に勝利をもたらしたGKの早川友基は大きなアピールができたはず。また、これまでも代表でプレーしてきた相馬はサイドでボールを落ち着かせ、ジャーメインの得点をアシストするなど今回のメンバーのなかでは"格の違い"を見せた。当然、これからも代表に関わり続けるだろう。
面白かったのがチーム最年少の佐藤龍之介。韓国戦の後半、押し込まれる難しい展開のなかで投入されたが、自らの役割を自覚してプレー。追加時間に右サイドでFKを得ると、佐藤はすぐにコーナー付近に顔を出してパスを引き出してキープして時間を使い、さらに相手に当ててCKをゲット。今後の代表入りは別として、そのクレバーさには感心させられた。
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【コーチングスタッフのW杯リハーサル】
今大会でひとつ気づいたのは、森保監督が試合後の記者会見でコーチたちのことに何度も触れていた点だ。質問の内容によっては「名波(浩)コーチが......」といったように個人名にまで言及した。
今回招集の選手で来年のW杯にも参加するのは多くても2、3人だと思うが、監督・コーチ陣は全員がW杯で一緒に戦うのだ。短い試合間隔でリカバリーを行ないながら、チームにゲーム戦術を落とし込む......。
今後、日本代表は強化試合を繰り返すが、大会形式での試合はない。そこで、森保監督は今回のE-1選手権をコーチングスタッフのリハーサルとして使ったのではないか。
第2戦の中国戦。日本は右から望月、綱島悠斗、植田、長友の4バックでスタートした。しかし、中国は3バックでウイングバック(WB)を使ってきたのでシステム上のミスマッチが生じる。すると日本は、右サイドは望月が高い位置でWBに対応。左サイドはサイドハーフの俵積田晃太がWBを見る形で3バックに変更して対応した。
W杯予選では森保監督は一貫して3バックで戦ってきた。カタールW杯のドイツ戦ではシステム変更によって逆転勝利をつかみ取ったが、この時はハーフタイムに選手交代を伴う変更だった。
だが、中国戦では流れのなかで、選手交代を使わずにシステム変更をしたのだ。
森保監督によれば、試合前から2つのシステムを使えるように準備していたのだと言う。
つまり、事前に可変システムを落とし込み、試合中に的確なタイミングで指示を出してスムースに変更を実施させる。中国戦はそのシミュレーションだったのだ。
普段一緒にプレーしている選手ではないチームでそれを行なうのはかなり難しいことだが、それでもシステム変更に成功した。それはコーチングスタッフの力によるものだ。欧州組を含む本来のチームであれば、よりスムースに可変システムを使えるかもしれない。次は、強豪相手にも中国戦のようなシステム変更をテストするのだろう。
もう少し深読みすれば、中国が3バックで来ることは初戦を見ればわかっていたはずだ。それでもあえて4バックでスタートしたのは、流れのなかでのシステム変更を試すためだったのかもしれない。
今回のE-1選手権。「新戦力の発掘」という意味ではそれほど多くの選手が網にかかったとは思えないが、大会形式のなかでのチーム管理や完全ターンオーバーの実施、そして可変システムのシミュレーションといった意味で、コーチングスタッフにとってよい経験になったのではないだろうか。