Jリーグ公式も認めたゴールパフォーマー、J3栃木シティ・田中パウロ淳一が「発信」にこだわる理由

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2025年07月17日 07:20  webスポルティーバ

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田中パウロ淳一インタビュー(2)

 田中パウロ淳一が2025シーズン、栃木シティで一躍注目された要因のひとつに「バズるゴールパフォーマンス」がある。なかでもSNSを中心に爆発的に拡散されたのが、"西山ダディダディ"と"エッホエッホ"だ。

 今季初ゴールを決めた第5節のデゲバジャーロ宮崎戦で、リズムネタによりTikTokを中心にバズっているクリエイター・西山ダディダディの独特なステップや両腕を大きく使った話題のコール芸を披露。第8節の福島ユナイテッド戦では、オランダ人の写真家がSNSに挙げた草の上を走るメンフクロウのヒナの写真から世界的に有名なインターネットミームへと発展した"エッホエッホ"のパフォーマンスを繰り出すと、それらがJリーグ公式YouTubeチャンネルでも取り上げられ、SNSで大きな話題となった。

「正直、バズるとは思ってなかったです。J3だし、まさかJリーグのオフィシャル(公式You Tube)が取り上げるなんて思わないじゃないですか(笑)。なぜ、あのゴールパフォーマンスになったかといえば、毎試合SNSで得た収益を使って子どもたちをホームゲームに招待しているのですが、その子どもたちのリクエスト。『どんなゴールパフォーマンスをやったらいいか』と聞いて、候補に挙がったなかから僕が選んだだけ。たまたまです」

 動画がバズったのは、ゴールが見事だったうえに、パフォーマンスもキレキレだったからだろう。

「自宅の鏡の前で、めっちゃ練習しました。やる以上は誰が見てもわかるようにしないと意味がないですからね。ここまでゴールを決められるとは思っていなかったですし、最近は試合前に中継スタッフから『どんなパフォーマンスをやるのか教えてほしい』と聞かれることもあります。TikTokで流行っていても実況担当者が把握していないこともありますし、実況の方も、知らないとマズい空気があるみたいですね(苦笑)」

 バズったのは偶然だと田中パウロは言う。だが、よくよく話を聞けばSNSのトレンドを自ら研究し、子どもたちが真似したくなる動き、映像映えする動きを巧みに取り入れているというから、決して偶然ではないだろう。

 田中パウロはなぜそこまで発信にこだわるのか。

【2020年に「パウロチャンネル」を開設】

「僕たちは2年前まで関東リーグで、観客が1000人未満のときもありました。サッカー選手としてプレーする以上、もっと多くの人に知ってもらいたいじゃないですか。選手なら、ファンや子どもたちに応援してもらわないと始まらないですが、J2やJ3の選手って、ファン以外は名前も知らない。それじゃダメですよね。そこで、名前を知ってもらうために始めたのがSNSでした。

 ただ、栃木シティに来る前は、所属するクラブから『あんまりやらないでほしい』と言われることもありました。時間が経ち、ようやく少し風向きが変わってきたと感じています」

 コロナ禍でJリーグの試合が中断しているときには、こんなこともあった。

「当時、僕は契約があったのですが、チームメートのなかにはスパイクを契約してもらえない選手がいました。それなのに、YouTuberがメーカーと契約してスパイクをもらっていた。そのとき、なんでサッカー選手が負けないといけないんだって強く思いました。

 でも、影響力がなければ当然です。サッカー選手である以上、無名で終わりたくはない。だからこそ、自分自身の価値は自分でつくりたい。そういう意味で、栃木シティに来てピッチ内外で認めてもらえているのは、すごくうれしく思っています」

 レノファ山口時代の20年に始めたYouTube「パウロチャンネル」は、開始5年目。TikTokでは、サッカー未経験なのに驚きのテクニックを披露する女子"パウ子ちゃん"に扮した動画が人気で、「蹴り方がロナウドみたいな彼女」「蹴り方がベッカムみたいな彼女」など、200万回以上再生されているものがいくつもある。

「あれはもともとナチョスさんという芸人の方が野球版でやっていて、サッカー版でやったらバズって。でも、『トラップが小野伸二みたいな彼女』や『鈴木優磨くらいズボンをまくりあげる彼女』とか、もうやりきってしまった感もあって、次は何がいいかと頭を悩ませています。

 動画を作るのを手伝ってくれる人はいるものの、ネタは基本的に自分で考えています。いまの子どもはほとんどの情報をスマホ(インターネット)から得ていますが、大人はまだテレビ。どっちの層も取りたいと思うので、簡単じゃない。続けるのもそうですし、ネタづくりは本当に大変です(笑)」

【「これでプレーがマズかったら叩かれる」】

 昔から目立つのは好きだった。若い頃はほかの多くの選手と同様に日本代表入りや海外移籍を目指し、サッカー選手として際立つことを考えていた。だが、それが難しくなったことで路線を変え、SNSなどを駆使して栃木シティの人気者となった。

 ただ、おふざけでやっているわけではない。山口時代には、ゴールを決めて自軍ベンチ前でスマホで自撮りするパフォーマンスを行なおうとして注意されたこともあった。深く反省はしたが、そうした行動はリーグやチームを盛り上げたい気持ちからだったという。

「あのときはめっちゃ、怒られました(笑)。海外だとバロテッリとかトッティ(いずれも元イタリア代表)がやっていたじゃないですか。その流れで試みましたが、Jリーグではダメだったみたいで。別に悪いことをしたいわけじゃなく、僕はただ盛り上げたかっただけなんです。目立ちたい気持ちもありましたが、たまには僕みたいな変わったことをする選手がいたっていいじゃないですか」

 金色のグラデーションを入れたドレッドヘアもインパクトは大きく、田中パウロの認知度を広めるきっかけになった。

「目立つ髪型もSNSでの発信と同じく、"注目されるきっかけ"のひとつになればと考えていました。ずっとドレッドにしたかったのですが、これまではどのチームでも許されてなかったので、ようやくできたというか。髪は金色のところはエクステです。でも、もう暑くてヤバい。夏は乗りきれそうにないですね(苦笑)。

 ただ目立つのはいいですが、SNSと一緒で、これでプレーがマズかったら叩かれる。だから、ほかの選手にはオススメしないですね」

 ときには「サッカーに集中しろ」などと心ない声を向けられることも少なくないという。

「いまだに、いますよ。だから、僕はほかの選手を巻き込まないように注意してますし、クラブにも信頼して自由にやらせてもらっていることに感謝しています。発信は大事ですが、いまの時代はリスクもある。クラブによっては個人の発信を嫌い、場合によってはそれが選手としてのキャリアに影響してしまうこともありますからね」

「栃木シティにはいい若手がいます。僕が盛り上げることで、いまは埋もれていても才能ある若手がもっと上のリーグにステップアップできたらいいじゃないですか。そのために僕は今後もやっていければと思っています」

 チームメートや関係者からは田中パウロのSNSでの行動を歓迎する声が多く聞こえてくる。ちなみに田中パウロは既婚者だが、奥様はどう思っているのだろうか。

「めっちゃ、嫌いみたいです。これまでSNSをやってよかったためしがないですからね(苦笑)。『余計なことをするな』『自分で自分の首を絞めることになる』ってよく言われていました。実際、SNSがきっかけでチームとうまくいかないこともありましたから。ただ、今は少しずつ結果も出てきて、前ほどは言われなくなりました」

 周りに何も言わせないためには、今後も結果を出し続けるしかないかもしれない。

「そうですね。もうこの歳で、失敗できないですからね(笑)」
(つづく)

田中パウロ淳一
1993年10月23日、日本人の父とスペイン系フィリピン人の母の間に兵庫県で生まれる。12年、大阪桐蔭高から川崎フロンターレへ加入。左足の強烈なシュートが評価され、「和製フッキだ」と期待を寄せられたが、わずか1年強で退団。14年からは複数のクラブを渡り歩き、23年から栃木シティ所属。その明るいキャラクターでTikToker、You Tube「パウロちゃんねる」などでも活躍。25年2月・3月のJ3リーグ月間MVP賞を受賞。ポジションはFW。

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