
■『今こそ女子プロレス!』vol.27
原宿ぽむ 後編
(前編:「永遠の3歳児」原宿ぽむが振り返る、コミカルなレスラーになった理由「正攻法では勝てない」>>)
原宿生まれ、原宿育ち。"永遠の3歳児"として、東京女子プロレスで異彩を放つ原宿ぽむ。当初はシリアスな試合を目指していたが、「正攻法では勝てない」と悟り、「ならば不意をつこう」「ちょけてみよう」と路線を変更した。
そんな彼女がさらなる自由を手に入れたのは、世紀末から飛び出してきたような"ミュータント・レスラー"――マックス・ジ・インペイラーとの出会いだった。
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2024年11月、ぽむに訪れたのは、プロレス人生を大きく変える"またとないチャンス"。物語はそこから加速していく。
【「楽しくやりたい」から「勝ちたい」へ】
2024年11月30日、タイ・バンコクのサーカス・スタジオで行なわれたSETUP Thailand Pro Wrestlingの大会メインイベント。SETUP認定オールアジア女子王者・マッチャに、原宿ぽむが挑戦することになった。彼女にとって、初めてのシングルタイトル挑戦である。
これまで、ベルトとは無縁の独自路線を貫いてきたぽむ。しかし、"ふたり目"の父が赴任した"第二の故郷"であるタイでベルトを手にすることができたなら――ぽむは、プロレスラーになったことをずっと言い出せずにいた両親に、それを打ち明けようと決意していた。
「最初に甲田(哲也/東京女子代表)さんに『両親に言いなさい』って言われたんですけど、結局は明かせずに『言いました』ってウソついてました。両親に言ったら、絶対にすぐにやめさせられると思ったから。いつか、タイや東南アジアで試合できるくらいになったら言おうと思ってて。そのきっかけができて、『絶対に勝ってママに言いたい!』って思いました」
結局は、自分から打ち明ける前に祖母がバラしてしまったが、両親からは何の反対もなかった。「いつかご両親に試合を見せたい?」と尋ねると、ぽむは口をキュッとへの字に曲げ、「絶対にイヤです」と即答する。心配をかけたくないのかと思いきや――「ママは声が大きいから、会場にいたらうるさすぎると思う」という、まさかの理由だった。
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チャンピオンのマッチャは、さくらえみや米山香織にプロレスを学び、型破りなセンスを持つ選手。ぽむも十分に"異端"だが、マッチャも負けてはいない。
竹刀、ぬいぐるみ、チェーン、パイプ椅子......異色な凶器が乱れ飛ぶハードコアマッチが展開される。そして、マッチャの必殺技、サイトー・スープレックス(バックドロップ)が炸裂。ぽむはこれを見事に受けきり、カウント2で返すと――ぽむ・ど・じゃすてぃすを2連発。マットに沈んだのは、王者・マッチャだった。
「ぽむの自由なスタイルで勝てて、本当にうれしかった。今までやってきたことは間違ってなかったと思えました。それまでは、勝つよりも『楽しくやりたい』って気持ちのほうが強かったけど、最近は勝ちたい。ベルト獲得のチャンスがきてから、だいぶ意識が変わりました」
【"プロレスラー原宿ぽむ"と、本当の自分】
コミカルな試合を繰り広げていたかと思えば、突如として表情が変わり、シリアスモードになることがある。「本当は最後まで茶化したいけど、スイッチが入ってしまうんです」と神妙な顔をする。
「スイッチが入ると、対戦相手しか見えなくなります。お客さんのことなんて、まったく見えない。本当はみんなの顔を見ながら楽しく、棚ぼたみたいな感じで勝ちたいんですけど......。みんな強いから、余裕がなくなっちゃう。恥ずかしいです」
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しかし、そのわずかな"シリアスな一瞬"こそが観客の心をつかむ。"プロレスラー原宿ぽむ"と、普段の自分はかけ離れているのだろうか。
「同じ人間なんですけど、違う人格のような気がする。自分のなかにある陰と陽を凝縮して、キレイに二極に分けてやっている感覚です。どっちも偽ってないけど、普段はけっこう落ち込んだりとか、好きな人ほど話せなくなったりとか......暗いかもしれない」
映画、アニメ、演劇、アイドルのライブ......ジャンルを問わずエンタメを吸収し、「プロレスに生かせないか?」と考えているという。特にアメコミが好きで、『怪奇ゾーン グラビティフォールズ』『ハズビン・ホテル』など、ダークな作品に惹かれる。「ぽむ選手の試合も、どこかブラックな要素がありますよね」と水を向けると、「プロレスって全部出ちゃいますよね」と苦笑した。
一方で、"陽"の原宿ぽむが全開になる場面がある。大会後の物販だ。ファンひとりひとりの顔と名前を正確に覚えている、という噂もある。
「前はXのアカウント名とか全部メモして覚えてたんですけど、マックスと試合をするようになってからすごく人が増えて、今はできないかな。物販は本当に楽しい。みんな褒めてくれるし! 話を聞くというよりは、自分が話したい。みんなに聞きたいことがめっちゃあるんですよ」
だんだんと、原宿ぽむというキャラクターの輪郭が見えてきた気がした。型破りで、自由で、時にシリアスな一面も覗かせる"永遠の3歳児"。その両面を併せ持つからこそ、観客は原宿ぽむに惹かれ続けるのかもしれない。
【みんなが真ん中に立とうとしたら、個性がなくなる】
7月21日、大田区総合体育館大会のカードが、急きょ変更になった。マックス・ジ・インペイラーと組み、らく&アンドレザ・ジャイアントパンダ組と対戦する予定だったが、インペイラーが来日することが難しくなり、ぽむは井上京子と組むことになった。
「井上京子さんとは、お会いしたこともない。でもスーパーレジェンドだから、ぽむは引き立て役というか"腰巾着"になればいいかな。京子さんに任せれば、絶対に勝てる! マックスもそうですけど、ぽむは強い人の横にいるのが得意なんです。フフフ」
アンドレザ・ジャイアントパンダとは、2024年3月31日、両国国技館大会で対戦したことがある。パンダのことが大好きだからこそ、「ペチャペチャにしたい」と話す。
「今回、らくさんとパンダ、ぽむの好きなものがふたつ並んでいる。らくさんはペチャペチャにできないけど、フニョフニョにしたい。愛をぶつけたいです。ぽむの愛は重めなので、できる気がする!」
一時はシングルのベルトを巻いたが、それも落としてしまった。最近はシリアスな表情を見せることも少ない。もっと貪欲になり、ベルトに挑戦する姿が見たいファンも多いのではないか。
しかし、「ぽむはポスターの一番端っこで『フッ』ってしてたい」という。東京女子を引っ張っていくようなポジションは向いていないと感じている。
「みんなが真ん中に立とうとしたら、それはそれで個性がなくなると思うんですよね。『自分が一番強い』という気持ちはあるけど、『真ん中に立ちたい』とは思わない。人一倍、目立ちたがり屋ではあるんですけど......ちょっとアウトローな目立ちたがり屋かもしれないです」
夢は、東京女子の写真集を出すこと。もちろん、ぽむがすべて写真を撮る。「ぽむとれーと」と題して、東京女子の選手のポートレートを販売したこともある腕前だ。
「東京女子が大好きで、もっとみんなに知ってほしいって思った時に、『ぽむみたいな人もいるんだよ』というのはめっちゃ伝えたい。ヘンテコな人が"刺さる"人もいると思うんですよ。"東京女子らしく"って、ある意味、型がないと思う。いろんな子がいるなかで、ぽむも東京女子の幅を広くしていきたいと思っています」
真ん中には立たない。でも、誰よりも東京女子らしい。原宿ぽむは、東京女子という星座の中で、独自の軌道を描く、いびつで愛すべき恒星だ。
【プロフィール】
原宿ぽむ(はらじゅく・ぽむ)
3月27日生まれ。"永遠の3歳児"を自称し、原宿系ファッションと自由奔放なファイトスタイルで人気を集める。2018年11月24日、成増アクトホール大会にて、坂崎ユカ戦でデビュー。当初はシリアスな試合を目指していたが、己の非力さを自覚し「ちょけて勝つ」戦術に路線変更。2022年からは米国の大型レスラー、マックス・ジ・インペイラーとの異色タッグで注目を集めた。2023年11月、タイのSETUP Pro Wrestlingにて初のシングル王座「SETUP認定オールアジア女子王座」に挑戦し、マッチャを破って初戴冠。写真撮影や衣装作りなど多才で、東京女子の選手たちを撮影した「ぽむとれーと」も話題に。163cm。