【選挙の舞台裏】立候補届けまでひと苦労 「1番くじを引いてほしい!」

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2025年07月17日 15:40  OVO [オーヴォ]

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【選挙の舞台裏】立候補届けまでひと苦労 「1番くじを引いてほしい!」





 




 7月3日に公示された第27回参議院通常選挙が、いよいよ7月20日に投票日を迎える。今回の選挙では選挙区と比例代表にあわせて522人が立候補し、有権者の審判を受けることになるが、そもそも立候補の受け付けはどのようにして行われるものなのか? 大型選挙の際に選挙のあれこれを取り上げる「選挙の舞台裏」では今回、立候補の届出やポスター番号の決め方──など、一般には知られていない選挙の手続きについて探ってみる。




参議院議員選挙は、衆議院、都道府県議会や市町村議員選挙などに比べて、運動するエリアが広く、選挙期間も17日間と長い。その分、立候補手続きが大変のように感じられるが、用意する書類等はどの選挙も基本は同じ。初めて立候補すると、その書類の多さと、厳格な審査に驚かされるものの、立候補に最低必要となる書類の数は意外に少ない。




 候補者届出書、供託証明書、候補者となることができない者でない旨の宣誓書、戸籍謄本(抄本)だけを提出すれば誰でも立候補できる。それらに、政党の公認候補であれば所属党派証明書、立候補は基本的に戸籍名で行うが、難読であるものを平仮名やカタカナを使用、あるいは芸能人など芸名の通りが良い場合などに申請する通称認定申請書──この6通が必須になっているだけだ。




 ところが、実際には選挙運動を行うために、さまざまな届出を書面で提出しなければならない。選挙事務所や報酬が発生する運動員などの登録、これに、自動車や選挙ポスターを公費で仕立てる場合、その申請も頼んだ業者の分も合わせて行わなければならない。ちなみに、選挙における公費負担とは、立候補する際にかかるコストを役所が負担するというもの。具体的には、街宣で使用する、いわゆる選挙カー、運転手の給料、ガソリン代、ポスター、ビラ、ハガキなどの費用が、決められた上限までの範囲内で支給される。掲示板のポスターは、税金で賄われているのだ。




 候補者届出書をはじめ、これら膨大になる書類は、選挙は厳正に行われるために審査が極めつけに厳しい。住所は住民票記載通りに記す決まりがあるが、一字一句、正確な記載が求められる。たとえば、通常ならば省略して「〇〇市〇〇町1−1−1」と表記するところ、「一丁目1番地1号」としっかり書かねばならない。正確な表記は自治体によって異なるので「1番地」と「1番」、「号」ありとなしも明確に区別されるのだ。




 現在は、エクセルに文字と数字を直接打ち込むため、タイプミスさえなければ間違いが生じることはない。だが、手書きの時代は「跳ね」の有無など厳格にチェックされ、クセ字で弾かれ書き直しとなるケースも少なくなかった。




 書類が厳しい審査を通過しても、ポスター、ビラ、選挙公報の原稿などのチェックが待っている。これらは規定の大きさを1ミリでもオーバーすると許可が下りない。刷り直しを余儀なくされることもあるのだ。ポスターに関しては、昨年の東京都知事選挙で問題になったため、将来的には内容のチェックも厳しくなされる可能性があるが、ベテランの選挙関係者によれば、とにかく内容よりも大きさに気を配るとともに、「掲示責任者」と「印刷所」の住所・氏名を忘れないように気を付ければ、難しい作業ではないという。




 あとは、供託金を法務局に納付したことを示す供託証明書を添えればOK。建前上は、公示日の受付時間中にこれらの書類すべてを提出となっているが、実際には、選挙の1〜2カ月前に行われる立候補者説明会から公示日の前日までに事前審査を行い、チェック済みの書類は茶封筒の中に保管して厳重に封印、封を開けないまま当日に持参する。




 さて、ここから候補者や陣営にとって、重要なセレモニーがある。公示日当日の立候補受付の際に決まる掲示板のポスター番号決めがそれだ。通常、立候補の届出は午前7時30分に開場、8時30分から受け付け開始となるが、ポスター番号については受け付け順となるため、殺到して混乱が生じないように、くじ引きで受け付け順を決めるのだ。




 コロナ禍以降は、係員が代わりにくじを引くなど形式的に行う自治体も増えているようだが、到着時に仮くじ、その順番に従って本番のくじ、とガチンコでくじを引くケースはまだまだ多い。たとえば、東京都ではランダムに番号が配置されているものの、たいていの自治体では左側より1番から番号順に並ぶ。縁起物かつ目立つという点から1番を望む候補者が少なからずいる。




実際、筆者もこのくじ引きの経験が何度かあり、候補者から「1番を必ず引いて!」と懇願され困惑した。そして、目立つために確実に端を引こうとすれば、多くの自治体では最後の番号を引けば端になる。そこで、わざと端の番号を取るために、受け付け終了の8時30分以降に現れる候補者も。それ以降の候補者はくじを引かないので、自動的に終わりの番号になるからだ。過去には某政党がこの戦法を活用、端をゲットするケースが目立った。




 くじでポスター番号が決まると、以前は電話で急ぎ知らせ、陣営の運動員が一斉に貼り出す。現在は、SNSで情報を共有するため、スムーズに貼り作業を始めることができるようになった。ただし、参議院選挙の場合、地方区は全県選挙になるため、ポスター貼りに難儀する。組織ぐるみの活動ができる候補であれば、その限りではないが、何しろ、その数は1万枚以上! 政党候補であっても、貼り終えるのに数日かかることも少なくない。




  こうして立候補の手続きを公示日に終えると、投票日の前日まで選挙活動を行うことになる。供託金は終了後に返還され、選挙カー、ポスターやビラは公費負担で支払いはほとんどない。そこから、お金がかかるのは事実としても、サポートされている印象はあるが、それは当選、あるいは落選しても一定の票を取った場合の話。供託点と呼ばれる一定の票を取れない場合、参議院選挙は300万円の供託金が没収となる。それだけではなく、百万円単位でかかるポスターやビラの印刷代、街宣車の使用料など公費負担にはならず、自腹になってしまう。ある程度票が取れる見込みがない場合、金銭面で立候補のリスクは大きくなるのである。                (文・水野文也)

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