「日本戦への特別な意識のために、より重要な戦術や自分たちの力を失ってほしくないと思っている。より楽しむ気持ちで試合に臨んでほしい」
試合前日に韓国代表ホン・ミョンボ監督はそう語っていた。もちろん「負けてはいけないという意識はある」と言うが、気負いすぎない点を強調しているように見えた。
選手も同様だった。キャプテンのチョ・ヒョヌは韓国記者団からの「日本戦に向けて選手たちには特別な緊張感があるのか?」との質問にこう答えた。
「いいえ。雰囲気は同じです。むしろ選手たちは今回の大会を通じて自信もより生まれています。今回戦術的に3バックも併用するという変化がありましたが、それを十分にしっかりとこなしてきました。自信を持ってピッチに立つでしょう」
かつての「日本には絶対勝つ」という雰囲気とは違う。現場サイドからはそんな主旨の発言もあった。しかし、それを受け取るメディア側はそうではなかった。試合後の現地メディアの記事や、当日の龍仁ミルスタジアムの取材エリアでは、韓国メディアの沸々とした怒りが満ち溢れていた。それは「日本に実力的に引き離されつつある」という焦燥感でもあった。
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【韓国メディアは敗戦に怒っていた】
7月15日に行なわれたE-1選手権男子部門の日韓戦。日本が8分のジャーメイン良のゴールにより1−0で勝利した。日本は3試合合計で勝ち点9となり、大会2連覇を果たした。
韓国代表は前日のホン監督の言葉どおり「重要な戦術」という3バックを採用。W杯アジア最終予選では4バックを使いアジア唯一の無敗での突破を果たしたが、本大会に向けて3バックも併用したい考えを明らかにしていた。ふたつの守備システム併用について、ホン監督は前日会見で「韓国と日本は似た点がある」としていた。一方で「過去においても現在も、韓国よりも日本のほうが戦術に精密な点もある」と。
果たして迎えた日韓戦。韓国側の視点では試合はこう見えたようだ。現地メディア「OSEN」が15日に配信した記事でこう記している。
「韓国は日本のプレッシャーに押され、試合中ずっとそれに引きずられた。前半7分、ナ・サンホの右足シュートがゴールポストに当たる不運もあった。日本はチャンスを逃さなかった。日本はこれに続いてのカウンターの状況でジャーメイン良が放ったボレーシュートが先制ゴールとなった。(失点の状況で)韓国の守備陣は4人いて、日本の攻撃陣の2人より多かったが、誰もシュートを阻止できなかった。韓国は後半、イ・ホジェが交代で入ってボレーシュートを放ったが、ゴールキーパーのセーブに阻まれた。結局韓国はホームで内容と結果の両方で敗れた」
そのナ・サンホは、韓国メディアに対して日本のイメージを「Jリーグでは、韓国よりも戦術的に精密なチームが多い印象」と話している。
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一方、現地メディアには、
「韓日戦 屈辱の3連敗 ホームで日本にカップを譲った韓国代表」(朝鮮日報)
「韓国サッカー 史上初の韓日戦3連敗」(東亜日報)
「ホン・ミョンボコリア 日本の2.5軍に負けた」(中央日報)
といった見出しが並んだ。
メディアは日本戦の敗戦に怒っていた。筆者はこの日、ハームタイムにまで韓国記者に「前半戦をどう見たか?」という質問を現場で浴びた。日本が韓国をプレスで圧倒した前半を、どう理解したらいいのかわからないというような雰囲気だった。そのサッカー専門メディアの記者は日本について「かなり組織的で、フィジカル的にも以前の"パスをつなぐ綺麗なサッカー"から変化していて驚いた」と話していた。
ちなみにこの大会期間中、韓国メディアから一番多く聞かれた質問は「今回の日本代表チームは何軍なのか?」という点だった。韓国は「1.5軍」とされてきた。日本と自国の"距離"がどれほどなのかを、わかりやすい数値で知りたがっていた。
【「日本は一貫した継続性を持ってきた」】
一方、試合後の会見では、韓国メディアからホン・ミョンボ監督に対しこんなストレートな質問も飛び出した。
――(韓国)選手たちのプレーを見ると、ボールキープ能力、パス精度、体のぶつかり合いで押されているのが見えた。日本選手たちと実力の差がさらに広がっているのではないでしょうか。
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ホン監督は質問に頷く様子を見せつつ、こう答えた。
「私も日本に長くいた。継続的に両国サッカーの比較分析を多く行なってきたが、率直に言って幼い頃からの教育が違う。その部分はどうしようもないと思う。日本はこれまでも試合の勝敗に関係なく1990年から一貫した継続性を持ってきた。しかし我々は危機的状況が来たり(来ると方針を変え)、一度でも勝ってしまうと結果に満足してしまうことがあった」
計画性の違い、という点を指摘した。韓国では「90年代後半以降の日本サッカーの成長の秘訣」としてよく語られる点だ。ただしホン監督は「韓国選手も成長している」「フィジカルの強さと言うのは、人によって見方が違うもの」と言って自国選手をかばうことも忘れなかった。
日本に負けた、という点を責めるメディア。一方で「すべてが悪かったわけではない」と反論するホン・ミョンボ。その傾向がより明らかになったのは、この会見で筆者から質問を投げかけた際のことだった。
「90年代からの日本の分析とは別に、今日の試合の日本をどう見たのか。そして印象的な選手は?」
図らずも、ホン監督に"火を点ける"かたちになった。自国メディアの前で日本戦敗戦後に日本を無駄に褒めたり、といったマネはできない。ホン監督は強い口調でこう話した。
「全体的に今日の両チームを比べて見た時、韓国の選手たちがよりよかったと思う。日本は自らが持つ長所を発揮できなかった。シュート、ボール保持率などすべての数値で我々が上回った。いくつかのシーン以外で、韓国の守備を困らせることができなかった。日本は我々のチームに大きな困難を与えることができなかった。韓国は集中力が落ちて失点した」
「日本は(森保一監督の下)ずっと同じシステムを維持してきた。新しい選手が入ってもマニュアルがある。我々は(テストとして)3バックで3試合を行なった。今日結果を出せなかったのは残念でファンに申し訳ないが、我々の選手たちに希望を見た」
ホン監督としては「自分はA代表監督であり、育成世代から上がってきた選手を起用し、マネジメントする役割」「日本のほうが長期政権なのだから、現時点では一日の長がある」という考えだった。しかし、韓国メディアはあくまで「なぜ日本に敗れるのか」と強く問う。試合後の韓国代表会見は、この応酬だったように感じられた。
韓国側が見る「日本の1軍」はいまや韓国とは違い、欧州組で11人を構成できる。FIFAランキングでも17位とアジアトップを走る。その"影"はやはり濃く、韓国を追い詰めている。監督とて批判に対してやり返さなければ、メディアに屈することになる。そんな日本の存在感を感じた日韓戦だった。